REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.68 夢の終わり(2)

 破滅の業火で起爆し、炸裂して爆炎とともに黒い石片を飛び散らせるグレネードの群れ――震えるゲヘンナ火山の地形を変えていくエンドレスな爆発に、ユキトとジョアンはRPG‐7 Rvoを投げ出してうずくまるルルフを守りながら耐え続けた。

 

「――shit! こ、このmountainごと、吹っ飛ばされそうッ、だッ!」

『キャハキャハ! 爆発、爆発、爆発、爆発、だーい爆発っ! キャハハッ!』

「な、何とかしてよッ! このまま殺されるなんて嫌よッ!」

「ド、Don‘t worry、ルルりん!――」ジョアンは横目で相棒を見、声を張り上げた。「ユキト、あ、あのcrazyを止めるぞッ!」

「だ、だけど、これじゃ、ちっ、近付けないッ!」

「ボクが突破口を開くッ!――フェアリー、goッ!」

 

 号令が聖騎士風の『巻貝』4体にトリッキーな軌跡を描かせ、憑かれたように両腕のガトリング・グレネードランチャーを連射する斜め上方――四方から炎の砲弾を叩き込む。ファイヤー・ブリッドの上位魔法〈フレイム・ブリッド〉の連続攻撃にシンは炎に食らいつかれながらよろめき、砲身の回転が鈍って狙いが逸れる。

 

「――おおおッッッ!」

 

 狂気の空隙を突いて飛び出したユキトは、ぐらついた体の上半分が小型ミサイルでハリセンボン状になるのを目にして急停止し、それらが今までのものと異なる――血肉に飢え狂った猛鳥を連想させる色形であるのを目にして直感的に警告した。

 

「――やばいッ! 逃げろォッッ!」

 

 100発を超えるミサイルが破裂するように斉射され、飛びのくユキトとルルフの腕をつかんで岩肌を蹴るジョアンにすさまじい執着を見せる。ホーミングミサイル――自動追尾機能を有するウェポンは回避を許さず炸裂してフェアリーをすべて破壊し、標的たちを吹き飛ばして大小無数の石片と一緒にあばた面の斜面を転げ落とさせた。

 

「……い、痛ぁ……」

 

 横たわっていたドレス姿がばらばらのパーツを一つ一つ組み立て直すように起き上がり、乱れたツインテールが空間の混沌に弄ばれながらずるずると流れ下っていく。ジョアンが身を呈したお陰で直撃を免れ、爆風で飛ばされたルルフは、背中や腕などを打撲し、ドレスがいくらか擦り切れる程度で済んでいた。

 

『キャハキャハッ♪ エキサイティングににハジけたねっ♪』

「頭の上をくるくる飛ばないでよ! それより……あっ!」

 

 煙たなびく辺りをライトンで照らしたルルフは、20メートルほど下で起き上がろうともぞもぞ動くジョアンを見つけた。痛みで潤んだ目を凝らしたところでは五体の欠損は無いようだが、ストライプ柄のベストやドレスシャツ、デニムジーンズは広範囲に渡って焼け焦げ、突き刺さったミサイルの破片に赤く染められていた。

 

「……くうっ……!」

 

 よろよろ立ち上がって足を滑らせないようにパンプスで溶岩流を踏み締め、斜面を下り始めるルルフ……

 

『ルルりん♪ ルルりんってばァ♪』

「うるさい! 引っこんでなさいよっ!」

『だってだってぇ、ヤバいのが来ちゃうよぉ♪ キャハキャハ♪』

「はっ?――あッ!」

 

 ミラが騒ぐ右斜め後ろ――北西に転じた瞳に赤い呪いが突き刺さる。硬直し、戦慄するルルフの視界で赤仮面は豆粒大から次第に大きさを増し、腫瘍で膨れた黒い素足で死のカウントダウンを刻む姿をライトンが照らし出す。

 

「……う……あ……!」

 

 恐怖で声を詰まらせ、ユキトを捜して目を辺りに走らせるもライトンはシンに釘付けだったので震える暗闇をむなしくさ迷うばかり。動揺の余りコネクトのことは頭から抜けてしまっていた。自分の方へ真っ直ぐ向かって来る破滅――そのほぼ延長線上で起き上がろうともがいているジョアンをちらっと見たルルフは頭を振って顔にかかったブロンドを払い、無理矢理眉根を引き締めると、イジゲンポケットにしまっていたRPG‐7 Rvoを再出現させて右肩に担いだ。

 

「――ちっ、近寄らないでッ! う、う、撃つわよッ!」

 

 だが、接近するレッドデスマスクは止まらない。それどころか、だらりと垂れていた右腕が30ミリ口径の大型ガトリングガンに変わる。

 

「お、脅しじゃないんだからねェッ!」

 

 ルルフはアイアン・サイトをのぞき、トリガーに指をかけて、数十メートル隔てた狂人へほとんど悲鳴のように叫んだ。

 

「――あ、あたしはここで夢をつかんだ。それを手放したりなんかしないんだからッ!」

『そうだ、そうだ♪ キャハキャハキャハッ♪』

「……ウルせぇ……! しね……!」

「――あああッッ!」

 

 暴発的に砲身が排気煙を噴き、ターゲットに炸裂した弾頭が爆炎を発して暴風を吹き乱す。

 

「……あ、あた、当たった……当てちゃった……ああッ!」

『あらあらあら♪ キャハハッ♪』

 

 右往左往する炎と、逃げるように散る煙から赤い脅威が無傷で現れ、黒い歩みを容赦なく続ける。慌てて弾頭をオートで再装填――発射したが、直撃したそれは歩みを一時的に鈍らせる効果しかなく、爆風でよろめいたルルフは危うく足を滑らせて落ちそうになった。

 

『ヤバい、ヤバい、ヤバいよぉー♪』

「こ、こんなんじゃ――」ルルフはRPG‐7 Rvoを投げ出し、叫んだ。「こんなんじゃダメ!――」

 

 ルルフの意思に応じてStoreZが開く。そして、現れた3Dのマスコットキャラ――ミセっちがだるそうにため息をつく。

 

『はぁ……どうかした? 真っ青な顔して?』

「もっとハイパー強力な武器をちょうだい! 早くしてよッ!」

『いいけどさ、これあるの?』

 

 緑髪おさげの三頭身少女は、右手の親指と人差し指で丸を作った。

 

『――攻撃力が高い武器はすっごくお高いんだよ? そんなポイントあんの?』

「あ、あるわよ。多分……」

『ちょっと、ちょっと、ルルりーん。ATVやらロケットランチャーやら買ったりしたから、残りはスズメの涙じゃーん♪ 資産は全部担保に取られてるしさー♪ もうこっちにポイント回す気ないんなら、これ以上面倒見てらんないよ~♪』

『だってさ。はぁ、どうすんの?』

「ど、どうするって、だから……」

『やれやれ、もうあきまへんな』

 

 堪忍袋の緒が切れたようにシャイロック金融が起動し、ウインドウの中で黒革の椅子にふんぞり返って瞑目し、両手の指を腹で組んだゴンザレス・ナニワが首を左右に振る。

 

『――高峰はん、わての辛抱もこれまでや。コミュはばらばら、ミラにチャージするポイントにも事欠く。しかも、あんさんの命は風前のともし火や。これじゃ、ポイントの返済なんてとうていでけへん。しゃーないから、せめて担保全部もらいまっせ』

「えっ? やッ、やめてよッ!」

『あきまへん。それじゃ……』

「やめてッッッ! やめてェェェッッッッ―――――――――――――――――――ッッッ!」

 

 絶叫をほとばしらせてシャイロック金融に伸びた手が空をかき、目の前に表示されたポイント額が一気にゼロになる。電源が切れたように脱力したルルフは崩れて斜面にうずくまり、だらりとなったツインテールを流動のままになびかせた。

 

『はぁ……ま、しょうがないわね。それじゃ、もう用無いと思うんで……』

『キャハキャハ♪ ルルりん、おけらだね、からけつだね♪ だからカリスマレベルもゼロにしちゃいまーす♪ 夢の時間はお終~い♪ バイバーイ♪』

 

 ミセっちが、ミラが消え、団子虫のように丸まったドレス姿が残される。そこに数メートルと迫ったシンがガトリングガンの右腕をルルフ――そして、ようやく四つん這いになったジョアンに向けようとしたとき、横手の闇から飛び出した燃え輝くこぶしが醜く肥大した左脇腹にドォンッッとめり込み、よろめかせて斜面を滑らせる。

 

「……ニホンザルゥ……!」

 

 溶岩流を踏み締めて体勢を立て直したシンは、十数メートル上で両こぶし――全身に光をたぎらせるユキトを赤い仮面越しの眼光で突き刺し、ガトリングガンの右腕を元に戻すと同時にオーガ・フィストを発動させて筋肉膨れる巨腕を現した。

 

「……お前の相手は僕がしてやる! 来いッ!」

「……このクソがァッ!――」

 

 挑発し、震動する岩肌を踏んで駆け上がるユキトを血に飢えた獣のごとく追うシン――揺らぐ闇の中で二つの光が遠ざかっていくのを見ていたジョアンは血で汚れた四肢をぎこちなく動かして流動を遡り、うずくまるルルフに近付いた。ライトンに照らされるその体は脂が落ちたように縮み、ツインテールはすっかり輝きを失って黒ずんでいた。神々しい美少女としてデザられていたアストラルがノーマル――元の姿に戻ったのである。

 

「……ルルりん……」

「やめてッ!」

 

 悲痛な声が引き千切れ、かがもうとしたジョアンを止める。

 

「……あたしは、もうルルりんなんて呼ばれる存在じゃない……! 不細工で無能な名ばかりアイドル……ただのクズよ……!」

 

 硬い殻の中から漏れるすすり泣き。それを黙って聴き、ジョアンは静かに唇を動かした。

 

「……だから、どうだって言うんだ? そんなのボクには関係ないよ」

「うそ言わないでよ! あんただってあたしの幻に夢中だったくせにッ!」

「それは否定しないよ……でもね、覚えているかい? キミはクモバッタにやられたボクを心配して一生懸命手当てしてくれたよね……それがheartを打ったからこそ、ボクは心底引かれたんだ。思いが強くなり過ぎて、色々みっともないことしちゃったけどさ……キミはボクと同じ、熱に浮かされておかしくなっていただけ……あの心根は無くしていないって信じているよ」

 

 ふわっとしゃがんだジョアンが擦り切れたドレス越しに震える背中にそっと触れ、優しく撫でると、決壊したかのように泣き声が噴き出す。それは、少しずつ揺れを強めていく闇の中での出来事だった……