REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.66 頂を目指して(4)

 

 闇のうねりをハイビームで焼き、黒豹を思わせるマシンが暴れる風をはねつけ、ケロイド状の溶岩流を跳ねながら、崩れるように流れ下る空間を遡る。照明弾が照らす戦場を霧に紛れて独り抜け出し、夜陰で黒ずんだ韓服をのめらせてハンドルを握るクォン・ギュンジの行く手で、うめき震える火山は傾斜を一段ときつくしていった。

 

「……ふふ……」

 

 打ち寄せる流動を黒髪を逆立てながら砕き、クォンはヘブンズ・アイズを見て含み笑いを漏らした。

 

「……もうじき半ばか……このまま頂上まで行かせてもらうぞ!――ッ!」

 

 ほくそ笑みの前でアラートが発報、3Dマップ上に赤い光点がばらばら現れて進行方向から接近する。

 

「そう簡単にはいかないか……!――うおッ!」

 

 正面から飛び出すまだら模様にハンドルを切り、すれ違いざま右手に出現させたドッペル・アドラーをカマドウマの怪物――カーヴ・オビオマの右目に突き刺す。

 

「――ちっ、わらわらとっ!」

 

 舌打ち、波立つ斜面を横切って加速する標的を追ってゲジの化け物が走り、巨大ゴキブリが羽ばたく。ドッペルアドラーを消したクォンは左右の手からガトリングファイヤー、ヒート・ストリングス――火炎弾連射と何条もの熱線攻撃を同時に繰り出し、群がる十数体のモンスターを光のちりに変えて辺りをパアッと明るくさせた。

 

「――なめるなよ、虫けらどもッ!――ぐわッ!」

 

 ATV後部にカーヴ・オビオマが体当たりし、ぐらついたクォンは横から飛びかかったマズ・ブラ・タアに車上から落とされ、転がって滑落した。

 

「――くッ、ぅうおおおおおォォッッッッッッ!――」

 

 バリアを強めて溶岩流に爪を立て、再び握ったドッペルアドラーをピッケル代わりに突き立てたクォンは頭を振って立ち上がり、流れにさらわれまいと踏ん張りながらライトンを起動させた。ブタ鼻から放たれる光線がぞわぞわ動く節足を、黒まだらを、ぎらついた外骨格を照らし出し、斜面の上から左右に広がって迫るモンスターの波を垣間見せる。ヘブンズ・アイズに目をやると、半径およそ50メートルに赤い光点は数十あり、さらに集まって数を増やしていく。

 

「……く……!」

 

 今にも崩壊しそうな鳴動に鼓膜が震え、クォンの汗ばんだ顔が焦りでゆがむ。ミストで切り抜けたいのは山々だが、荒れながら打ち寄せる流動に逆らって操るのは難しいし、加えてすでにかなりの量を放出していること、山頂では最強モンスターとのバトルが控えていることを考えると、これ以上の消耗は避けるべきだった。

 

「……やればいいんだろッ!――」

 

 ドッペルアドラーを握り締め、いびつな黒岩のうねりを蹴って駆け上がるクォンにカーヴ・オビオマが次々跳ねる。先頭の1体をかわし、2体目の触角の付け根に穂先をズグッと突き刺したクォンは脇から体当たりされて斜面を滑り落ち、溶岩流の出っ張りにつかまって止まったところへ群がるマズ・ブラ・タアたちに得物を振り回した。ドッペルアドラーを繰り出し、魔法を叩き込んで光のちりを派手に散らせる腕前は見事だったが、いかんせん多勢に無勢。いかに戦闘スキルが高くても独りでは限界があり、頂に近付くどころかモンスター群と流動の山津波に圧倒されてずるずる滑り落ちていく……

 

「――くそっ、オートマトンを購入するポイントが借りられていれば……! ツインテールめェッ!」

 

 ドッペルアドラーがドゥモ・スティデの腹部をえぐり、あちこち裂けたベストとパジチョゴリに爪を食い込ませた歩肢が光のちりに変わって風に吹き散らされる。クォンは得物をショートスピアに分離させるや左右から飛びかかるマズ・ブラ・タアを突き刺したが、光のちりに変わりながらぶつかる黒い巨体に突き飛ばされてまたもや滑り落ちた。

 

「――こんなところでェッ!」

 

 両手のショートスピアを溶岩流の波に突き立てて滑落を止め、流動を蹴立てて駆けのぼるクォンを複眼でとらえ、ゴキブリモンスターが我先にと飛ぶ。前方と左右から迫る濡れた牙に表情が引きつったとき、飛来音がするやグレネードが頭上を越えて正面のマズ・ブラ・タアに炸裂――外骨格や羽、脚をばらばらに飛び散らせる爆風が左右の個体を吹き飛ばす。

 

「?――」

 

 振り返ったクォンは斜面の下で光るライトンを、グレネードマシンガンを構えたユンが息を切らしながら小走りにのぼって来るのを見て左頬をぴくつかせ、まるで別の敵が現れたかのようにつり目を尖らせた。

 

「――族長、下がってェ!」

 

 連続発射されたグレネードがクォンの右脇を抜け、モンスターの群れに着弾――立て続けの爆発は光のちりを飛び散らせ、幻想的なイルミネーションを思わせる光景を現出させる。

 

「――ハァ、よかった、無事で……」

 

 横に並んだユンはガスマスクの内側で安堵の息をつき、残弾少ないウェポンでモンスター群をけん制した。ずたずたのベストとパジチョゴリは血で汚れており、汗で額や頬にべったり張りついた乱れ髪とともに激闘を切り抜けてきたことを如実に物語っていた。

 

「――ヤマト血聖団を振り切ってのぼったら、光がちらちら見えたから……もしかしてって……」

「ふん……」

 

 唇の端を曲げたクォンは右隣のユンからスッと離れ、ドッペルアドラーをツインスピアに戻して右手に握り、左手を脇に下げると、狭めたつり目の中でくすぶる瞳を右に動かした。

 

「――とんだお人好しだな。びっくりだ。お前たちを使い捨てにしたこのボクを助けるなんて。気味悪過ぎてゲロゲロ吐きそうだ」

「そ、そんな……どうしてみんなを……? 確かに、その、問題があるのは分かりますけど、何だかんだ言いながらここまで一緒に戦ってきた仲間じゃないですか?」

「へっ、仲間?」虫唾むしずが走った顔。「ボクを北韓だとバカにしている連中なんか仲間じゃない。お前もな」

「ぼっ、ぼくは――」

「寄るなッ!」

 

 陰からバッと飛び出した左手が火炎弾を連射――まともに食らったユンを吹っ飛ばす。ライトンがめちゃくちゃに光の筋を振り回し、転がる悲鳴がうねりに飲まれて闇に消えていくのを無視するクォンはライトンの光を先駆けに流動する山を駆け上がり、グレネードで崩れたモンスターの波に独り突っ込んだ。