REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.66 頂を目指して(3)

 傾いたハイパーゴッデス号がマズ・ブラ・タアの群れに取りつかれ、神聖ルルりんキングダム勢が崩れ始めた頃、照明弾に照らされる東の山腹では後藤と袂を分かった一派・ヤマト血聖団とコリア・トンジョクの死闘にモンスター群が飛び込んで乱戦に拍車がかかっており、ガスマスクを装着したユン・ハジン――王生雅哉も空間のうねりと荒れる風にもまれながら両刃直剣〈近肖古クンチョゴ〉で飛来する巨大ゴキブリを斬り、飛びかかる化け物カマドウマに突き刺していた。

 

「――くっ、はぁ、はぁ――このおッ!」

 

 身をもたげ、唾液の糸を引いてあごをばっくり開く怪物ゲジを節足ごと袈裟斬り、前蹴りでどうと仰向けに倒したところでユンは背中に衝撃を受け、吹き散る光のちりの中に顔から突っ込んで倒れた。

 

「――つうっ――ぐわあッ!」

 

 急いで起き上がろうと手を突き、膝を曲げて上げた尻にカーヴ・オビオマが頭突きを食らわし、前転した赤い韓服姿がうねるでこぼこの斜面を転がり落ちる。

 

「――わあああッッ!」

 

 溶岩流の出っ張りに手をかけて滑落を止めたユンは、かみつこうと跳ねて来たカーヴ・オビオマの馬面に近肖古を突き刺し、けいれんする頭部に深く刺し込んで仕留めると尻の痛みをこらえて立ち上がった。地鳴りを響かせて波立つ黒い斜面の上や左右では、ガスマスク装備の白軍服――ヤマト血聖団メンバー及び100体弱の白いオートマトンが奇怪な巨大虫の群れと入り乱れており、その波間に自分と同じ赤ベストと朱のパジチョゴリがちらほら見えた。

 

「……これじゃ、ここにいる誰も頂上に行けない……だけど、その方が斯波さんたちには都合がいい……」

 

 飛来し、地を跳んで接近する怪物たちに近肖古を構え、つぶやく。どこか痛々しいクォンを見捨てられずにこうなってしまったが、ここで足止めを食っていればユキトたちとぶつからずに済む。

 

「……だらしがないな……斯波さんたちを見習わなきゃって思っているくせに……――んッ!」

 

 クォンからコネクトに合図のメッセージが入り、東の揺らめきからブワッと噴き出した霧が荒風を蹴散らす。すべてをつかみ取ろうとする巨人の手のようなそれは身悶える空間を強引に侵しながら広がってたちまち一帯を手中にした。

 

「――ミスト……!」

 

 視覚からの作用を防ごうと瞬く視界でミストにやられたモンスターたちが狂い、狙いを転じて同士討ちを始める。ドゥモ・スティデが長い胴体をくねらせてかみつけば、飛びかかったマズ・ブラ・タアが突き立てた牙で肉をえぐり、跳ねるカーヴ・オビオマが急発進した車さながらの体当たりを食らわせる――濃度を増していく霧の中で醜い怪物同士がかみ千切り合い、致命傷を負って消滅する様は、吐き気をもよおすグロテスクさにあふれていた。

 

「……こ、これでモンスターはどうにか……だけど、これじゃ視界が……あッッ!」

 

 霧の波浪――斜面の斜め上から大イノシシに似たATVが飛び出し、黒髪ショートヘア少女がガスマスク越しに気合を発して日本刀で斬りつける。とっさに近肖古で受けてよろけたユンの脇を走り抜け、溶岩流を削り飛ばしながらUターンして猛然と斜面を上がるマシンの座席から腰を浮かして前のめりになっているのは、ヤマト血聖団を仕切るヤマトナデシコ、杉原みずき――

 

「――血の濁ったイジンめ! この〈直虎〉のさびになれェッッ!」

「――くッッ!」

 

 黒い瘢痕はんこんの上を跳びながら走るユンを追い、前に飛び出すモンスターをはね飛ばして追い上げるATV――窪みにつまずいて転がった頭上を直虎が薙ぎ、起き上がったユンの近肖古にはじかれて火花を飛び散らせる。

 

「――薄汚い血のくせにッ!――後藤なんて見てくれがいいだけのッ――そんな女になびいた連中を見返すためにッ――まずお前らを血祭りにしてやるゥッ!――」

 

 車上から執拗に振り下ろされる刃を必死にしのぐユン――そこに駆けつけたファン・ヨンミがロッド〈如意金箍棒にょいきんこぼう〉を伸ばして助勢し、鎖付きで飛んで来た円盾〈スパルタン〉が左ハンドルを破壊――運転がままならなくなったATVから杉原を飛び降りさせた。

 

「ユン、無事?」

「は、はい、ありがとうございます」

 

 案じるファンに、そしてスパルタンを手元に戻して駆け寄るホン・シギに礼を言い、ユンは近肖古を構え直して杉原をけん制した。

 

「おのれェ、イジンどもッ!――来いッ!」

 

 杉原がイジゲンポケットから予備のATVを出しつつコネクトで呼ぶと、九十九式自動小銃・改を構える白いオートマトンが3体、4体――と現れて四方からユンたちに銃撃を浴びせる。弾をバリアではじく3人がコネクトで応援を呼ぶと、アサルトライフル〈KDR‐346〉 を連射しながらイ・ジソンたちが駆けつけ、杉原に呼応してATVを走らせて来たヤマト血聖団メンバーを交えて霧中で入り乱れる。

 

「――ヤマトを、リーダーを討つのよッ!」ファンが如意金箍棒を振り回しながら叫ぶ。「まともにぶつかるのは分が悪過ぎるッ!」

「わ、分かってるけど――うおおりゃああッッ!」

 

 イ・ジソンが半ばやけっぱちの雄叫びをあげながらKDR‐346のトリガーを引き、息を弾ませるホン・シギがスパルタンを投げつけ、他のメンバーも数を増していく白い人形相手に刀剣や大斧を振るって杉原たちヤマト血聖団メンバーに迫ろうと躍起になる。メンバーの数は双方とも10名ほどだったが、オートマトンを100体有するヤマト血聖団に対し、コリア・トンジョクは神聖ルルりんキングダムへの多額の賠償金支払いが尾を引いてシャイロック金融から思うように融資を受けられず、オートマトンどころかATVをそろえるのに必要なポイントさえ調達できていなかった。

 

「――族長はっ?」仰向けに倒れたオートマトンの胸に近肖古を突き立て、仲間に問うユン。「クォン族長はどこですか?」

「知るかよッ!」

 

 叫んだホンが柄を引き、頭部が砕けたオートマトンから鎖をじゃらつかせてスパルタンを戻す。

 

「――コネクトが切られているんだ! ヘブンズ・アイズにも反応は無いしっ!」

 

 その発言に続いて『ステルスにして抜け出したんじゃないのか?』とイ・ジソンからコネクトがあり、他のメンバーから『あいつだけATVに乗っているからな』とか『結局私たちを利用していたのよ』という発言が重ねられる。

 

「そんな……うわッ!」

 

 ATV上から杉原に斬りつけられたユンは足を踏み外し、溶岩流の上を転がって滑落した。それを追ってオートマトンが数体斜面を滑り降り、助けに走ろうとするコリア・トンジョクメンバーにヤマト血聖団の刃が振り下ろされる――