REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.66 頂を目指して(2)

 

「――モ、モンスターの嵐……!――あわッ!」

 

 青ざめた唇を震わせ、翼状のツインテールを揺らして後ずさったルルフは傾斜したベランダで足を滑らせ、とっさに右手に握ったツインテール太陽の黄金杖で体を支えた。窪んだ頂から水蒸気噴火のごとく噴き出し、標高およそ4000メートルの山を埋め尽くさんばかりに降って照明弾の光を陰らせる膨大な影――傾きながら斜面をのぼるハイパーゴッデス号の周囲を乱れ飛び、泡を食って銃器を乱射し、得物を振り回すガーディアンズとオートマトンに襲いかかる魑魅魍魎――

 

「――ゴ、ゴッデス・ルルフ様ッ!」脇に控えていた鎌田が案じる。「どこか痛めてはいませんかっ?」

「余計なお世話よッ!――」

 

 羞恥から声を荒らげ、すぐさま体勢を立て直したルルフはクラウンのずれを左手で直すと、動揺で弱まったオーラを再び燃え上がらせてハイパーゴッデス号を包み、半狂乱で応戦するしもべの群れをベランダの手すり越しに見下ろしてうなった。

 

「……こんなところでやられてたまるもんですかッ!」

「そ、そうです! 歌を、歌をお続け下さいッ! 流れを止めたら飲まれてしまいますッ!」

「分かってるわよ! とっておきをかましてやるっ!――〈ゴッデス・ラヴ・ムーヴメント〉ッッ!」

 

 ヘアリングでまとめたツインテールが羽ばたくやオーラの翼が神々しく広がり、左右に浮かぶ3Dの大型スピーカーがメロディとヘッドセットを介した歌声とをとどろかせて襟と袖口の飾り羽をぶるぶる震わせ、袖と裾をはためかせて空間を幾重にも波立たせる。荘厳で放埓ほうらつなラブソングの波動は、神聖ルルりんキングダム勢を取り込むと巨星を降らせ、大海を蒸発させて大地を真っ二つに割らんばかりの凄絶さを発揮し、群がるモンスター――15対の節足で這い、触覚を鞭のように振る体長数メートルのゲジ〈ドゥモ・スティデ〉、強靭な後脚で跳ねるライオン大の怪物カマドウマ〈カーヴ・オビオマ〉、身の毛がよだつ羽音を立てて飛ぶゴキブリ系モンスター『ブラ・タア』の強化型〈マズ・ブラ・タア〉を押し流し、付近で乱戦を繰り広げるユキトたちや真ヤマト軍を貪欲に飲み込もうとした。

 

「おお……何てすさまじいブーム……! これこそまさに奇跡ッ! 神の御業ッッ!」

 

 感激に震え、ひざまずく鎌田の眼前で太陽神が地上に顕現したかのようなまばゆさが一帯を支配する。シャイロック金融から調達したポイントでダウンしたカリスマレベルを回復させ、ブームを起こして爆発させたルルフは、熱狂に憑かれたしもべたちが四方八方から襲う怪物を光のちりにしていく光景を見下ろし、噴き出す歌声をプロミネンスに変えた。

 

(――そうよ、そうやって得たポイントを残らずささげるのよ! それであたしはすべてを押し流して本物の神になるんだッ! あたしをブスだ、無能だ、アストラルをろくにデザる金もない貧乏人だってバカにした連中よりはるかにハイパーになってやるんだッ!――んッ?)

 

 世界を焼き尽くさんばかりの勢いで燃え盛っていた光背に陰りが生じ、ブームが少しずつ失速し始める。

 

「――ど、どうしたのッ?」

『どうしたのじゃないよ、キャハキャハッ♪』

 

 ミラが宙にパッと現れ、ルルフと目を丸くする鎌田の視界をくるくる飛び回る。

 

『――派手にやり過ぎだよ、ルルりん。ブームを加熱させるどころか維持するだけのポイントも無いよん。キャハッ♪』

「な、何言ってんのよ? あんなにモンスターを倒してるじゃないッ?」

『思い込みはデンジャーだよっ、キャハッ♪ ポイントをチェックしてみてよ』

 

 言われてウインドウを開いたルルフは、激減したポイントを目にして一気に色を失った。

 

「こっ――なっ、何でこんなにッ?」

『だから思い込みはダーメだって♪ あのモンちゃんたちからは、ちょびっとしかポイント得られないんだよ。いっぱい倒してもブームで消費するポイントの方がメチャメチャハチャメチャ多いんだよー! このままだとレベルキープに必要な分も無くなっちゃうね。キャハッ♪』

「ゴ、ゴッデス・ルルフ様、その空飛ぶ鏡はいったい?」

「うるさいッ!――レベルダウンなんかさせるもんかッ!」

 

 カリスマレベルが下がれば、手駒にフィードバックさせるパワーも低下する。そうなればモンスターの大群に飲み込まれてしまいかねない――ブームを無理矢理終わらせようとするルルフだったが、潮流は力を失いながらも悪あがきするように暴れてポイントを湯水のごとく消費し続けた。

 

「ど、どうなってるのよ? コントロールが利かないッ!――引きずられるッッ!」

『キャハキャハ、手に負えないんだね♪ 張り切り過ぎて身のたけ以上のブームを起こしちゃったから~♪ キャハッ♪ もうじきチャージの時間だからね~ ポイントが足りなかったら、強制レベルダウンだからね~♪ それじゃっ♪』

「ちょ、ちょっと待ちなさいッ!」

 

 伸ばされた手を無視してミラが消えると、青ざめたルルフはブームを一刻も早く鎮めなければと焦り、右斜め後ろで混乱している鎌田をギラッと一瞥すると正面を向いたまま怒鳴った。

 

「ぼやぼやしてないであんたも戦いに行きなさいよ! ポイントを稼いであたしによこすのよっ!」

「し、しかし、僕にはゴッデス・ルルフ様をお守りする役目が――」

「行けって言ってんのよォッ!」

「は、はいィッ!」

 

 飛び上がり、頭から落ちかけた帽子を押さえた鎌田は開け放たれたガラス戸から応接室に戻り、扉を開けて通路へ飛び出して行った。独り残ったルルフが黄金の杖を両手で握って前に立て、すがるような格好で懸命に抑えつけると、その甲斐あってブームは急速に衰え、消えていく。

 

「……これで……」

 

 うめきに近いため息をつき、杖を支えにして老婆のように腰を曲げる……著しい疲労でオーラはくすみ、ツインテールの両翼はだらりと垂れて、ポイント残を確かめる顔はやつれていた。

 

「……ポイントが、こんなに……! これじゃまともにチャージできな――げえッ!」

 

 耳に飛び込むおぞましい羽音で上がった顔が吹き飛ぶように引きつり、はしたない悲鳴が吐き出される。ベランダめがけて突撃してくるシングルベッド大のゴキブリモンスター――ハイパーゴッデス号を守っていた力が弱まり、ボディガード役の鎌田もいない今、襲撃を妨げるものは無かった。

 

「――うッ、ギャアアアッッッ――――――!」

 

 黄金の杖を投げ捨て、応接室に転がり込むルルフを追ってマズ・ブラ・タアが突っ込み、ローテーブルやソファといったインテリアが引っくり返る狂騒が勃発――それを皮切りに続々飛来するマズ・ブラ・タアがハイパーゴッデス号にごてごて取り付いて醜悪にデコレートし、フィーバーから覚めたツインテールとピンク人形の軍勢に濡れた牙をむき出しにして飛びかかった……