REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.66 頂を目指して(1)

 カッ――

 カッ――カッ、カッ――

 さざ波立つ闇の空にいくつもの輝きが生まれ、流動に揺られながら降下……鳴動する独立峰を明々あかあかと照らす。

 照明弾――

 各陣営から信号拳銃で撃ち上げられたそれらは、冷え固まった溶岩流の黒いケロイドが覆う山腹を、麓の方々から頂のカルデラへ押し寄せる人の波を浮かび上がらせる。ミスト対策のガスマスクをつけて凶器を握り、だんだんと急になるでこぼこ醜い岩肌をブーツで蹴り、あるいはATVを走らせ、跳ねさせる大小様々な群れ――やがて互いの距離が狭まると、銃声が響いて弾が凶暴に飛び交い、グレネードの炸裂音が立て続けにとどろく。

 

「――始まったわね……コリア・トンジョクと……ヤマト血聖団とかってグループ?」

 

 降る光で白く艶めくマシン――ユキヒョウがモデルのATVを駆ってボブの黒髪とセーラーブレザーの袖、ミニスカートの裾を躍らせるジョンナが東部のゆがみに瞳を滑らせると、マシンを並走させるジョアンとワイシャツの袖をまくったユキト、追走する阿須見やミリセントたちがガスマスクの上の双眸を無念そうに細める。照明弾に照らされる彼等20名弱の姿は、全身プレートアーマーのミリセントが異彩を放つ以外、上はワイシャツやポロシャツにパーカー、下はスラックス、ジーンズといったもので、銃声と爆発音が入り乱れる殺ばつとした気配を除けば、空間ごと揺らぎ、どろどろ流れ下る溶岩流を遡るツーリングサークルに見えなくはなかった。

 

「……clashを、止められなかった……!」

 

 ジョアンが悔しそうにハンドルを握り締め、後続の沢城麻綾がコネクトで『これじゃ、HALYが自殺したくなるのも分かりますね……』と沈痛な面持ちで付け加える。

 

「……とにかく、先を急ごう」

 

 ユキトが気持ち前傾し、ジョンナの指導で運転できるようになった蒼いATVを加速させる。

 

「――今は関わっていられない。一番乗りすることが目的なんだから――」

「――皆の衆ッ!」兜を右斜め後ろにバッと巡らせ、ミリセントが面頬越しに叫ぶ。「バリアをッッ!」

 

 警告されるやいなや瞬時に強まったバリアにグレネードが連続炸裂、爆発の衝撃で横転する車体から坂本が投げ出され、悲鳴を上げる遠山がスピンしながら北村愛美のATVに衝突――先制攻撃を受け、ブレイクショットで散ったボールのように崩れるフォーメーション――そこへガスマスク越しの咆哮を上げ、得物を振りかざしてATVを爆走させる迷彩柄戦闘服姿たち――リアル復活至上主義者集団『エクソダス・コンフリクト』のメンバー40名弱とオートマトンの歩兵およそ60体が突撃をかける。

 

「――やめろォッッッ!」

 

 車体後部が破損したATVからユキトは飛び降り、急ぎ態勢を立て直そうとする仲間たちの前に出ると、先駆けて来たエクソダス・コンフリクトのリーダー――千堂・ヴァン・バオが車上から振り下ろすフランべルジェを光燃える右こぶしでガッとはじき、左から大槍を構えて突っ込んで来たオートマトンの腹部をかわしざまぶち抜くと、流動するいびつな斜面を削りながらドリフトしてUターンする四輪駆動のマシンに向き直り、ひらめく刃を俊敏にかわした。

 

「――リアル復活したいからって、何でこんなことができるんだよッッ!」

「お前こそッ――」

 

 ギャギャギャギャーッとドリフトし、千堂が斜面の上から急加速する。

 

「――AL、しかもモンスターなんかをかばってッ! 怪物は怪物同士気が合うってことかァッ!」

「誰が怪物だよォッッ!――」

 

 突っ込むマシンのいかついフロントが彗星のごときストレートパンチでひしゃげ、前転する車体から投げ出された千堂が悲鳴とともに数十メートル飛んで溶岩流に叩きつけられ、斜面を転がり落ちていく。

 

「……怪物なもんか……!」

 

 引っくり返ったATVの側で異形の両こぶしを下げ、浅黒い顔を暗くしたユキトが視線を転じると、滝夜叉がオートマトンを撫で切り、飛び回る4体のフェアリー・スネイルが迷彩の戦闘服に火炎弾を撃ち込んでおり、他のメンバーも魔法を放ち、得物を振るってリーダーを失ったエクソダス・コンフリクトを圧倒し、算を乱して潰走させた。

 

「Hey!」左右にフェアリー・スネイルを待機させ、ジョアンがATVの上で首を伸ばす。「ユキト、are you ok?」

「ああ。――みんなは?」

 

 ユキトが小走りに戻ると、仲間たちは運転していたATVを損傷、あるいはおしゃか・・・・にされてはいたが全員無事で、メガポーションでダメージを回復させながら笑顔を見せた。

 

「ユキト」白いATVが走り寄り、ジョンナが座席の上から右手を伸ばす。「後ろに乗って。頂上まで送るわ」

「ありがとう」

 

 手を握り、引っ張られたユキトがジョンナの後ろにまたがったとき、空間がうねったかと思うと西側から打ち上げられた照明弾がカ、カッと輝き、傾いた黄金のゴシックアート――尖塔をそびえさせ、巨砲をそそり立たせて斜面をのぼる装輪式巨大車両の側面が数百の戦力とライトアップされる。

 

「――ルルフッ!――woahッッ!」

 

 フェアリーをそちらに向けたジョアンに――ジョンナと彼女の腹部を両手で抱えたユキト、身構えるミリセントたちにメロディと相乗する歌声のビッグウェーブがドオッと押し寄せ、山腹を波打たせてふらつかせる。

 

「――高峰さんたちかッ!」

 

 ジョンナとこらえて流動の波頭を砕くユキトの目に映る、ハイパーゴッデス号の揺らめく影――3階建てビル並みの大きさの車体も隔たりのせいでミニカーサイズだが、燃え輝く太陽を凌駕りょうがせんばかりのオーラで一帯を傲然と照らし、〈ラウド〉のスピーカーが限界まで増幅してとどろかす歌声とメロディで空間を激動させる超絶的な存在感は、見る者に畏怖の念さえ抱かせた。

 

「――げっ!」遠山が鳥肌を立て、構えたレールガンを揺らす。「ツインテ狂いどもが来るうッ!」

 

 付き従う軍勢の右翼がハイパーゴッデス号から離れ、ユキトたちの方へ向かって来ていた。流動のうねりで像をゆがませる部隊――ツインテールのヘルメットをかぶり、バーサーカー・アイとガスマスクを装着して、「ハイパーディバイン、ハイパーディバイン――」と憑かれたように連呼するルル・ガーディアンズ100名、そしてピンクにカラーリングされたオートマトン100体――その先頭でグリズリーをほうふつさせるATVを操り、バーサーカー・アイを赤くぎらつかせて油圧ショベルのアームと見まごう鋼の右巨腕を振りかざすのは、神聖ルルりんキングダム切っての猛者もさ、北倉ロベルト――

 

「レザーゴリラが突っ込んで来るよッ!」

 

 久喜宮香が全身レザーファッションの北倉をすらっと指して言い、不規則な黒岩のうねりをショートブーツで踏みつけて指揮者のように両腕を振る。と、高まった魔力が両手からあふれて力強く発光する。

 

「――アタック‐アップとディフェンス‐アップをかけるよ! みんな気張ってねっ!」

 

 左右の手から補助魔法の光が仲間たちそれぞれに飛んで包み、攻撃力とバリア強度をグンとアップさせる。

 

「ありがと、香姉!」遠山が腰を落とし、小脇に抱えたレールガンで北倉を狙う。「――食らえ、ゴリラッ!」

 

 砲に電流が走り、砲弾が超高速でターゲットへ飛ぶ。だが、北倉はこぶしの巨塊で砲弾を迎撃――爆炎をものともせずに突破して、あと数秒で衝突する距離に迫った。

 

「ボクに任せろッ!――Goッ、フェアリーズッ!」

 

 スロットルを回して皆の前に出たジョアンが右手を振り、フェアリー・スネイルに四方からファイヤー・ブリッドを撃ち込ませる。ばく進する標的を食らい、ATVを四散させて噴き上がる爆炎――

 

「――こォォの程度かァァッッ! シャァァルマァァァッッッ!」

「――ッ!」

 

 猛る巨体が炎から飛び出し、バーサーカー・アイが砕けてむき出しになった血走る目がギョッとするジョアンをとらえ、振り下ろされる巨大ハンマー状の右腕が空気をゴオッッとうならせて――

 

「――もっと視野を広げなさいよッ!」

 

 鮮烈な叫びが響くやジョンナのATVが脇から激突、たまらずよろけた北倉に阿須見たちが連射したグレネードが炸裂してジョアンを救う。しかし、そこに銃撃しながら押し寄せたツインテールとピンクカラーの荒波がぶつかって乱戦に引きずり込む。

 

「――ジョンナさん!」檀が双剣『ウロボロス』で斬り結びながら叫ぶ。「斯波君を上にッ!」

「そうです、行って下さいッッ!――」沢城が巨大魔法鎚『ミョルニル』でオートマトンの頭を叩き潰す。「篠沢さんのところに!」

「――いいわね、ユキト?」

 

 ジョンナが右手の滝夜叉でオートマトンを袈裟斬りし、スロットルを握る左手に力を込める。

 

「――行くわよッ!」

「分かった。――みんな、先に行かせてもらうッ!」

「――させるものかァァァッッッッ!――ヴォォォッッッ?」

 

 白いATVの前に飛び出した北倉が横から火球――トリオン‐ボーライドを食らって火だるまになり、フェアリー・スネイルの連続体当たりで転倒して滑落する。

 

「サンキュー、ジョアン!」

 

 光燃えるこぶしをスタンバイさせていたユキトの礼にジョアンは右手親指を立てて応え、傲慢な輝きを誇るハイパーゴッデス号を見据えた。と、神聖ルルりんキングダム勢とはほぼ反対――東南側からグレネードの群れが急襲して炸裂し、ピンクの手足や胴体が飛び散り、溶岩流の欠片と宙を舞ったガーディアンズが叩きつけられて滑り落ちる。

 

「what’s happening?――し、真ヤマト軍ッ!」

 

 褐色の目元が焦りで引きつる。空間のゆがみを蹴散らすように斜面をのぼって接近する部隊――それを陣頭指揮するのは、軍馬を連想させる赤いATVを駆り、右手にベヨネッタ『ワルキューレ』を握って、メガネのシャープなメタルフレームを黒光らせる後藤アンジェラ――ガスマスクをつけた彼女の後ろにはそれぞれATVのハンドルを握る梶浦たち幹部が続き、血が沸き立った顔付きで抜き身の日本刀を下げた白軍服の歩兵60名と赤くカラーリングされたオートマトン400体が従っている。共産主義集団セルズを血祭りに上げた余勢を駆り、真ヤマト軍は黒の十字架を争うライバルを叩くべく仕掛けてきたのだ。

 

「――ユキト、ジョンナ、hurry upッ!」

「だ、だけど、これじゃみんなが挟み撃ちに――なっ、何だッ?」

 

 ためらうユキトの――同志たちとルル・ガーディアンズ、真ヤマト軍メンバーの眼前で一斉にアラートが発報、けたたましい警告音の斉唱に合わせてWARNING表示が真っ赤に点滅する。そして開いたヘブンズ・アイズの3Dマップでは、モンスターを意味する赤い光点が頂のカルデラから噴き出していた。

 

「――見てッ!」

 

 ジョンナの声で仰いだユキトの視界を、数多の奇怪な影が席巻する。数千――数万――それをはるかに超える大群で頭上を覆うモンスターは仰天した若者たちに揺らめきながら降り、山腹をたちまち大混乱のちまたに変えた――