REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.65 真ヤマトに咲く華

 ――私、後藤アンジェラは、僭越ながら佐伯軍将の遺志を継ぎ、真ヤマト軍のリーダーに就任させていただく決意を固めました。

 私たちは矢萩一派のようなヤマトの奇形をのさばらせたことで多くの人々を苦しめ、心ある同志たちが犠牲になるのを許してしまいました。その罪を償い、佐伯軍将の理想にのっとって人々を高みに導くために尽力する責任が私たちにはあります。

 ヤマトは、最も優秀な資質を持つ人種。私は、私に流れるヤマトの血に授かった力を振るって粉骨砕身自らの務めを果たす所存しょぞんです。佐伯軍将の無念を晴らし、佐伯軍将が目指していた社会を実現するため、どうか皆さんの優れた力を貸して下さい。

 

 コネクトが更新され、夜陰に紛れて偵察に出ているオートマトンからのメッセージがタイムライン上に追加される。それをチェックすると、梶浦翔一は抑圧に抗ううなりのごとき地鳴りが響く中、斜め前の上座に端然と座を占める後藤に顔を向け、隣席の加井やテーブルを挟んで着席している村上、松川にも聞こえるように報告した。

 

「今のところ他勢力に目立った動きはありません、後藤リーダー」

「ありがとう、梶浦大佐」

 

 涼やかな声に梶浦は軽く頭を下げ、身を乗り出して手を伸ばせば届く距離にいる女上司の斜め顔にこっそり見惚れた。メタルフレームが黒くきらめくスタイリッシュなメガネ――その奥からプレハブの本部事務所のドアを貫いて彼方を見つめるようなまなざし、孤高な独立峰然とした鼻、ザクロ色の唇と磨き上げられた肌、隙なく引き締まったフェイスと軍トップを意味する桜花が三つ重厚に光る襟章が付いた襟に収まる首のライン……シルバーのヘアリングでまとめたシックな色艶の赤毛を左の肩章から白軍服の胸に流し、長テーブルの上にきめ細やかな手の指を組み合わせて置くその凛とした姿は、オルレアンの乙女をしのぐ荘厳な美と勇ましさを感じさせた。

 

「じれったいですね……」

 

 村上薫が腕組みをし、猫目の間にしわを寄せる。

 

「――この数日ずっとにらみ合い。こっちは準備万端だってのに」

「慌てることはないわ、村上中佐」

 

 後藤は唇の端を僅かに緩め、村上、それからテーブル上に腕を乗せてやや身を乗り出した松川、反対側でメガネレンズをキラッとさせる梶浦、緊張して肩に力が入ったゴリラ顔の加井等幹部4名を順々に見てから難解な方程式を説明する口ぶりで言った。

 

「こう着状態は、じきに崩れます。私たちはその乱れを突いて頂を目指せばいいのです。時が来たら、皆さんにはヤマト再興のため存分に働いてもらいます。期待していますよ」

 

 梶浦たちは背筋を伸ばして胸を張り、熱がこもるまなざしを返した。ユキトたちからコネクトで知らされた佐伯戦死の報――消滅したと思っていた佐伯が姿を現し、死闘の末、矢萩のウルトラオーブを砕いて息絶えた一部始終――で動揺するヤマトメンバーに佐伯の無念を晴らすというスローガンを掲げ、大多数の指示を得て立ち上げた真ヤマト軍のトップに収まった後藤アンジェラ。ミックスでありながらそれができた――もっとも、一部の者は従うのをよしとせずに〈ヤマト血聖団けつせいだん〉を結成してたもとを分かっていたが――のは、単身しんがりを務めてハーモニー再生同盟の大軍と渡り合うといった華々しい戦歴……彼女いわく『ヤマト魂のたまもの』ゆえである。

 

「お任せ下さい、後藤リーダーっ!」こぶしで胸を威勢良く叩く松川。「もう矢萩一派のような面汚しどもは1人としていないんです! 真ヤマト軍に籍を置くのは、まさに真のヤマトだけなのですから!」

「ええ、そうですね」

 

 後藤は手首を動かし、組まれた指をテーブルから少し持ち上げた。矢萩の死亡は確認できてはいなかったが、ウルトラオーブを破壊され、ひん死の状態で逃亡したことからすれば死んだも同然と言ってよく、側近の三人衆は、封印の手錠でバリアを封じられていた入谷がヤマト王城崩壊に巻き込まれ、同盟軍の捕虜になっていた真木はディテオ再出現後の混乱に紛れて誅殺、旗色が悪くなるや決戦の場から逃亡した中塚はかつての仲間に保護を求めてきたところを捕らえられて『始末』されており、その他矢萩一派に与した者たちもそれ相応の報いを受けていた。

 

「ですが、このゾーンには害虫がまだたくさん跳ね回っています」

 

 後藤は浮かせていた指をテーブルに置き、弓なりのまつ毛を瞳の深淵にかぶせた。

 

「――野心家クォン・ギュンジとコリア・トンジョク、貪婪どんらん偽神ぎしん高峰ルルフと神聖ルルりんキングダム、そしてアナキスト集団〈アンチェイン〉、コミュニズムに憑かれた〈セルズ〉、リアル復活至上主義者たちの〈エクソダス・コンフリクト〉等々……斯波ユキトたち再生同盟の残滓はそうした輩の跳梁ちょうりょうに手を焼くばかり。しかし、私たちは違う。私たちは団結して頂に立ち、黒の十字架でこの世界を美しく新生させることができると信じています。この地にヤマトによる理想郷を打ち立てる――それこそが亡き佐伯軍将の悲願。それをともに果たしましょう」

 

 同根であるヤマト血聖団の批判を避け、静かに、熱く語る後藤の声が本部事務所に、梶浦たちに響いて熱情を高める。理想に燃え、闘志をたぎらせる幹部たちを黒メタルに囲まれたレンズに映して左目を微かに細めたとき、梶浦のコネクトが偵察に出しているオートマトンからの新たなメッセージ受信を知らせる。

 

「――う、動きましたッ!」

 

 梶浦がテーブルに両手を突き、打ち上げられたような勢いで立ち上がる。

 

「南西麓に布陣していた神聖ルルりんキングダム、山頂に向けて進軍を開始しましたッッ!」

 

 村上らがガタッと音を立ててイスから腰を浮かすのとは対照的に、後藤は落ち着き払って報告を受け止めた。

 

「……動き出したわね」

 

 冷めた微笑を浮かべ、組み合わせていた指を解いてスッと立ち上がった後藤は直立した梶浦たちを見、コネクトを起動させて呼び出した真ヤマト軍メンバーの顔がものの10秒と経たずウインドウにそろうのを待ってから右手を胸の前で水平に伸ばし、厳かに、炎を投げ込むように命じた。

 

「全員ただちに出陣! ヤマトのために身を捨て、必ず頂のディテオを討ち取るのですっ!」