REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.63 決闘(2)

「conditionはいいのか?」

「気遣いはいらないよ。全力で来い」

「OK……!」

 

 両袖をまくって腫瘍の腕を出したユキトがこぶしを固めて全身に光を帯びると、胸の前で手の平を合わせて精神集中したジョアンの左右に4体の『巻貝』が殻頂を標的に向けて出現する。フェアリー・スネイル――以前よりも華やかに勇ましく、祝福を受けた騎士をほうふつとさせる形状になったスネイルたちは猛火をまとい、ジョアンと神経がつながっているかのような繊細な動きで宙を滑って扇状のフォーメーションを取った。

 

「――行くぞ、ユキトォ!」

「!――」

 

 ジョアンの眼光がはじけ、炎の尾を引くスネイルが反射的に上がった黒い左腕に――右胸、左腰、右太もも裏に炸裂――上下スウェットと下着、肌を焦がしてよろめくユキトの右脇腹と背中に追い打ちをかけ、ガクッと折れた左膝を地面に突かせる。

 

「――くッッ!」

 

 立ち上がり、振り回されるこぶしを巧みにかわして死角に回る炎の妖精――骨まで響く衝撃の連続がユキトをサンドバッグにし、まだらに焼きながら前後左右に激しく揺さぶる。

 

(――この動き、まるでジョアンの手足そのもの……! しかも、一撃一撃が恐ろしく重――)

「――隙ありィッ!」

 

 スネイルが左脇腹にめり込み、緩んだガードをはじいた1体が前頭部に一撃を叩き込む。前髪と額を焼かれながらのけぞるユキトは、胸に燃える星が激突したかのような超高熱の衝撃を受けて後方に吹っ飛んだ。

 

「――あぐうッッ!」

 

 上半身を食らう猛火――倒れたユキトは転がりながらそれを払い、イジゲンポケットから出したギガポーションをかけて焼けた顔と肉体を治癒、ほとんど灰のスウェットパーカーを復元させて跳ね起き、焦げついたあえぎを繰り返した。

 

「toughだな、ユキト」

 

 回転して円環を描くスネイル越しに評価するジョアン――その胸の前で褐色の両手の平が炎の塊を生み、ビーチボール大に膨張させて燦然と燃える小さな太陽に成長させる。

 

「――火炎系最強クラスの魔法〈トリオン‐ボーライド〉を受けて立ち上がるなんて……とっておきなんだぞ」

「……確かにすごいな……」ユキトは、グッと歯をかんだ。「レベルを上げたな……」

「こう見えて努力家なんだよ、ボクは。さ、give upするならどうぞ」

「そう簡単に降参するかよっ!――」

 

 全身の光を強め、右こぶしに込めて飛び出す――と、その前方でスネイル4体が素早く集まって炎を合わせる。

 

(――炎の花――盾ッ?)

 

 打ち込まれたブレイキング・ソウルを炎のシールドがはじき、猛火が至近距離から襲う。バリアを強めて横に飛びのいたユキトは、ジョアンが放った超高熱の火球を体をひねってかわし――

 

「――うッ?――おわああああッッ!」

 

 かわしたかに思えた火球が軌道を変えて直撃――火だるまにする。岩石砂漠を転がるユキトはまたギガポーションを使ってダメージを完全回復させ、息を乱しながら起き上がって身構えた。

 

「……さっきより火力が落ちているな……」

「……スペシャル・スキル同様、powerfulな魔法は体力を消耗するからね」

 

 荒い呼吸を繰り返すジョアン。

 

「……けど、ユキトだってさっきのspecialパンチを打ってから動きが鈍くなっているじゃんか」

「そうでもないさ……」

 

 ユキトは見せつけるように膨れた右こぶしを突き出し、力を込めて脇に引くと全身の筋肉を収縮させて自らを再装填した。新田に寄り添うエリーがはらはら見守る前で高まる、焼けつく緊張――

 

「大したgutsだ。ようし、come on ユキト! 見事〈フェアリー・シールド〉を破れるか、勝負だッ!」

 

 炎の盾越しに挑発し、ジョアンが再び火球を生成して迎撃態勢を整える。

 

「行くぞッ、ジョアンッッ!――」

 

 叫んで地を蹴り、猛然と突っ込んだユキトはフェアリー・シールドに光輝く右こぶしを叩き込んだ。渾身の一撃にきしみ、崩れかけ、だがギリギリのところで持ちこたえたシールドはこぶしをはじき、唇を微かに緩めたジョアンが攻撃に転じようと――

 

「――ッッ?」

 

 右こぶしがはじかれて下がると同時に光みなぎる左こぶしが繰り出され、緩みを突かれた炎の盾が砕けてスネイルが四散――目を見張るジョアンに突っ込んだユキトが放たれる寸前の火球に右こぶしを打ち込むと、圧縮されていた炎が噴き出して2人を飲み込み、ブオォォッと渦巻いて高々と火柱を上げた。

 

「――斯波さん! シャルマさん!」

 

 熱風から新田をかばうエリーが叫び、爆炎が一暴れして消えた後に横たわる黒焦げの少年たちのところへ熱気を手で払いながら駆け寄る。

 

「斯波さん!」

「……心配いらないよ」

 

 全身火傷を負った仰向けの体がよろよろ起き上がると、黒焦げのスウェットがぼろぼろ崩れ落ちる。あぐらをかいたユキトはギガポーションを出し、遅れてうめきながら起き上がったジョアンに投げた。

 

「それ使えよ。ひどいなりだぞ」

「……Thank you……」

 

 ベストとドレスシャツがすっかり炭化し、ユキト同様全身火傷を負って髪がちりちりになったジョアン。受け取ったギガポーションを使うと、それらはたちどころに元通りになった。

 

「……やっぱり強いな、ユキト」

 

 べたっと座ったジョアンが背中を曲げると、ユキトは「お前だって、すごかったぞ」とたたえた。

 

「――もしかしたら僕の方が負けていたかもしれない。お前の力、思い知らされたよ」

「謙遜するなよ。conditionが悪くなかったら歯が立たなかったさ……体、つらいんだろう?」

「そうでもないって」

 

 ギガポーションを使うとユキトは立ち上がり、見上げるジョアンと横のエリーに両手を広げて問題ないとアピールした。

 

「……確かにいくらかだるいけど、そんなのもう慣れたし。それに――」

 

 ユキトはそびえる山影に顔を向け、揺らめく頂を厳しく見据えた。

 

「……情けないこと言っていられる状況じゃないからな……」

「確かに……」

 

 ジョアンはふらつきながら立ち上がり、ゲヘンナ火山を見上げてから正面のユキトに視線を戻した。

 

「サキを助けるとなると、色んな連中とやり合うことになる……ボクも腹を括らないとね」

「一緒に戦ってくれるのか?」

「当然だろ。サキは大事なfriendだからね」

「ありがとう。だけど、高峰さんともぶつかることになるぞ?」

「承知の上さ……とにかくよろしくな」

 

 差し出され、握手を求める右手を見つめ、ユキトはためらった。

 

「……嫌か?」

「そうじゃないよ……ちゃんと謝らなきゃいけないことがあって……僕はお前がグリゴ・デオにやられたとき、見捨てて逃げようとしたんだ……本当にすまなかった」

「何だ、そんなことまだ気にしていたのか?」

「それと、高峰さんたちの前でやっつけてしまったことも悪かった。それなのにお前は僕をピラミッドから救出するのに協力してくれて……その前、遺跡から逃げ出そうとして佐伯さんたちに囲まれたときも助けてくれたんだよな……」

「ちぇっ、気付いてたのか……ボクだって悪いことしたし、お互い様だよ。握手、してくれるかい?」

「うん。よろしくな、ジョアン」

「ありがとう、ユキト」

 

 微笑するエリーの前でガシッと握手すると、ジョアンの熱が硬く厚い皮膚を通して伝わり、陰りがちだったまなざしに光を与えてまぶたを上げさせた。

 

「絶対救おうな、サキ」

「うん、高峰さんもな」

 

 互いの熱を残して手を離した両名はエリーを伴い、静かに待つ新田と、爆炎の咆哮を耳にして何事かと出て来た仲間たちの方へうっすらとした朝日を浴びながら並んで歩いた。