REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.61 影との再会(2)

「あ、ヒャ、ひゃ! 化けモンろクセにヌード見て隙がでじるとはネェ! マジウケるわァ! あひゃハッ、はへは、ひ、ひ、ヒヒ、ヒ、ひッヒ!」

 

 入谷が頭をガクガク振り、体を揺らして哄笑すると、左右の少女たちも狂った笑い声を合わせる。それは悪霊に取り憑かれた人形たちのコーラスに似た、身の毛がよだつ光景だった。

 

「――入谷玲莉ッ!」

「アぁん?」

 

 呼び捨て、ブラケットライトの光で白刃をぎらつかせたジョンナを入谷はギロッとにらみ、ハエジゴクを思わせる黒まつ毛のトゲをそり返らせた。

 

「イジンのゲリブスがアらシを呼び捨て? ずいぶんチョーシくれてンねェ! テメェが薄汚いイジンだってことは、今やプロフにバッチシ表示されテンだよォ! 劣等人チュの分際でさんざんヤマトナデヒコをかたりヤガって!」

 

 ブワブワ煙を吐いて罵って殺気みなぎる目を左右にやり、くわえた吸引器を勃起したごとくそそり立たせる。

 

「――アンダらッ! そこのクザれイジンと化けモンをブッ殺ジたらSOMAをタップリくれてやルよッ!」

 

 少女たちのよどんだ目がカッと一変、目一杯トリガーを引かれたMIC14がフルオートで弾丸を発射したが、階段を駆け上がるジョンナが剣光を交差させて放った斬撃がそれらを散らして銃撃者に叩き込まれ、吹っ飛んだ裸体が踊り場の壁にドッと打ちつけられ、階段の手すりを乗り越えて階下に転落する。

 

「――ナメんにゃよッ、ゲリブスゥッ!」

「――ッ!」

 

 バリアを強めてひとり耐え切った入谷が斬撃を放ったジョンナの隙を突いて飛び出し、シャアッッと宙を走ったナーガラージャで2本の滝夜叉を絡め取ると、セーラーブレザーの腹部に蹴りを入れて後ろのユキトにぶつける。

 

「――あぐっ!」

「ぐっ、ジョンナッ!」

「死にさらぜェッ! クソゲロどもォォッッッ!」

 

 奪った滝夜叉を投げ捨てたナーガラージャが身を躍らせて襲いかかり、とっさにジョンナをかばったユキトの右腕に巻き付く。

 

「――づぅッ!」

「ふふ、フ、グフフ、ふふ、ふッ、フフフッ、グフッフ……」

 

 黒く膨れた右腕をギリギリ締め上げる鋼の大蛇――入谷は貧しい胸を興奮で上下させ、濡れ濡れの唇の端からツウッとよだれを垂らした。

 

「――そのマジキモな腕をもいでかヤるおっ! そうふれば、少しは長生ちできるんだンッ?」

「――余計なッ、お世話だッッ!」

 

 右手をグイッと引き、踏み込んだユキトが繰り出す左手が光を強めるや醜く膨れ、バリアを破って入谷のみぞおちにめり込む。腹部から折り曲がった裸体を浮かせ、くわえていた吸引器を吹き出して目玉を飛び出させた入谷にユキトの脇から猛然と氷晶が吹きつけ、標的を凍り付かせながら飛ばして踊り場の壁に激突――床に叩きつける。そこに素早く駆け寄ったジョンナは、氷系魔法クレイジー・アイスを放ったマジックダガーを消す代わりに手にした封印の手錠を床でガタガタ震える入谷の両手首にはめた。

 

「命までは取らないであげる。そこで震えていなさい」

 

 冷たく見下ろして言い、ふうっと息を吐いて振り返ったジョンナは肥大化した左手を見つめるユキトに胸を詰まらせ、階段を下りてそばに戻った。

 

「……左手……」

「……どうってことないよ」

 

 こわばった表情を微笑で紛らわせ、ユキトは光が消えた左手を下ろすと落ち着き払って言った。

 

「……右腕と同じようになっただけさ。力を使いまくっているんだから、影響が出るのは当たり前だよな」

「……体の方は?」

「相変わらずだよ。もう慣れっこさ」

 

 日に日につらくなるだるさや頭痛を押し殺し、ユキトは視線を階上に向けて汗に濡れた髪を右手でかき上げた。

 

「行こう」

「……ええ」

 

 うなずいたジョンナは視線を外して瞬き、うっすら潤んだ瞳で滝夜叉を探し、拾った。パートナーの準備が整うとユキトは一緒に階段を――倒れている裸の少女たちと入谷を避けながら上がって6階フロアにつながる扉に近付いた。閉じられた鋼の扉……その隙間から空間そのものを蝕みそうな悪臭と邪気が漏れ、扉の両脇に立った2人に嘔気を催させた。

 

「……いるわ」ヘブンズ・アイズを見て、ジョンナがささやく。「2時の方角、距離およそ13メートル」

 

 うなずき、右こぶしの光を強めたユキトは、圧して潰そうとするプレッシャーに逆らって目配せし――

 

「――らァッッ!」

 

 叩き込まれたパンチで扉がひしゃげて吹っ飛ぶと2人は赤じゅうたんの領域に踊り込み、10メートルほど隔てた黒革ロングソファの真ん中にだらしなく座った半裸の魔王をとらえた。蛇の束のようなうねった髪を無秩序に乱し、緩んだベルトが通る黒のスラックスをはいただけの矢萩は、前で鈍く黒光るローテーブルにでんと乗せた右素足の裏をユキトたちに見せ、左に傾いた体を左肘で支えて、右手の指に挟んだ吸引器と口から漏れ出る煙で窓シャッターがすべて下り、華やかながらうつろな光が天井の照明から降るがらんとしたラウンジの空気を腐らせていた。

 

「……にゃんだ、テメェら?……」

 

 半分下りていたまぶたが上がって双眸が凶悪にぎらつくと、胸のウルトラオーブが赤黒い輝きをはらむ。右足を大儀そうにローテーブルから下ろした矢萩は体を立て直し、頭を傾けると闖入ちんにゅう者をにらんで眉間に稲妻を二筋走らせた。

 

「……クズどもがどうしてこんらところにいやがる? 玲莉たちはどうしタんざ……?」

「終わりよ」滝夜叉の刀身がきらめく。

「軍は潰走、親衛隊と入谷も倒れたんだ! おとなしく降伏しろ、矢萩ッ!」

「ははっ」

 

 せせら笑った矢萩は悠然と吸引器を運んで吸い、瘴気しょうき然とした煙を吐き出してユキトを見据えた。

 

「……ヤマトの王に大層な口を利きやラッて……しばらく見なひ間に色黒になって、キモい両腕になりヤらったな! もうアレだろ? 中身はすっカり化け物になり果ててンだろ?」

「それはあなたのことでしょう」静謐せいひつな声で切り返すジョンナ。「ユキトはユキトのままよ。姿形がどれだけ変わろうともね」

「ふふんっ、ほざいでンじゃねーよ、イジンッ!――」

 

 蹴り飛ばされたローテーブルが横転し、ユキトたちの数メートル手前で脚を天井に向けて止まる。吸引器片手に立ち上がった矢萩の素足にパッとヤマト軍の黒ブーツが装備され、邪悪な輝きを増した胸から大嵐のようなエネルギーが発生すると、後ろのロングソファと左右のソファがひっくり返って赤じゅうたんの上をずるずる逃げ、ガラスが瞬時に砕け散ってゆがんだ窓シャッターが吹っ飛び、おびただしい災いの卵をはらんだような雲がフロアをのぞいて、風が略奪でもしに来たように荒っぽく吹き込んで来た。

 

「カスどもなんざ、俺様1人で皆殺しにしてやらあッ!」

 

 くわえた吸引器を上下させ、赤い下弦の月を表した口が、暴風に抗うユキトとジョンナにけたたましく吠える。

 

「――見せげやるッ! ウルドラ矢ハジ様のパワーをなぁッッ!」

 

 ウルトラオーブの前で輝く腕がクロス――放たれた赤黒い光線が左右に避けたユキトとジョンナの間を一直線に飛んで階段とエレベーターが収められた六角形の中央区域を、さらにその向こうにある大浴場をぶち抜いて外壁を吹き飛ばす。がれきを地上にばらばら降らせるエネルギーが尾を引いて彼方に消えたとき、矢萩は左右からの輝くこぶしと白刃の挟撃を広げた両腕で受け止めていた。

 

「――ははハッ、ほの程度あよッッ!」

 

 腕にはじかれた2人は、すぐさま体勢を整えて連携攻撃を仕掛けた。息の合った打撃と斬撃のコンビネーションが前後左右から矢萩を殴り、斬りつけて――だが、それらはSOMAで損なわれてなお強力なバリアのせいで本体にほとんどダメージを与えられなかった。

 

「――スペシャル・スキルをぶつけるわっ!」

 

 叫んだジョンナの刃が輝き、巻き添えを避けるため飛びすさったユキトの視界で光の斬撃が立て続けに矢萩へ飛ぶ。が、次の瞬間必殺の緋修羅は左腕の一薙ぎではじき散らされ、そろった右手指先から飛ぶ矢尻型光線――ブラッド・アローが滝夜叉の刀身を交差させてガードするジョンナに炸裂――紙屑のごとく吹っ飛ばして叩きつけた壁にひびを走らせる。

 

「ジョンナッ!――このおッ!」

 

 ユキトの全身――こぶしが光を強めて燃え上がり、果敢なラッシュが胸に腹に、顔面に強烈な連打を打ち込んで口から吸引器をはじき飛ばす。

 

「――ダははッ! ヘヤアッッ!」

「ぐッッ!――」

 

 左肩にドォンッッとめり込んだチョップの衝撃がユキトの右膝をガクッと折り、続けざまあごに炸裂した膝蹴りがのけぞらせて赤じゅうたんに背中を打ちつける。跳ね起きたところを狙って繰り出されかけた矢萩のストレートが脇からの斬撃にタイミングを狂わされ、迎え撃つブレイキング・ソウルとの激突で生じた衝撃波が王城をグラグラ揺さぶる。

 

「ちっ、ザケやがって……ザコどもが……!」

 

 2,3歩後退した矢萩が、痛めた右手を振って舌打ちする。対するユキトはジョンナと並んで身構え、しわが寄った険しい顔に脂汗を流した。

 

「……フルバーストしてるってのに……!」

「とんでもない怪物ね……!」

「ふフん、俺ザマは無敵ダんだよ。身のホゾ知らずのゴミどもべ! さっさとクダばってボーナズをよこしやがレッ!」

 

 腕が再びクロスして赤黒く輝き――しかし、エネルギーがフルチャージされる寸前、ユキトたちの斜め後ろから虚空を水平に貫いた一撃が矢萩の右肩を激しく突き、構えを崩してよろめかせる。

 

「――誰ガァ!」

 

 血がにじむ右上腕を左手で押さえ、血走った目がギョロッと動き、先程ブラッド・レイに真ん中をぶち抜かれた中央区域の陰から現れた人影をとらえて大きくむかれる。

 

「……テッ、デメェ……!」

 

 驚きはすぐに冷ややかな嘲りに変わり、凶相が残忍にゆがむ。矢萩を警戒しながら振り返ったユキトとジョンナは目を疑い、光を鍛えたような刀身の日本刀を握る右手を下げ、厳粛な足取りで近付いて来る白軍服姿の青年を穴が開くほど見つめた。