REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.58 涙を抱いて(1)

布告

 

 ハーモニーの再生を目指す我々同盟のメンバーは、再三に渡る要求を拒んで非人道的行為を続けるコミュニティ『ヤマト』に対して、ここに宣戦を布告します。

 元は同じコミュニティに属していた者同士がこのような事態に至ったのは非常に残念ですが、このまま放置すればさらに多くの人たちが苦しむことになるため、苦渋の決断をすることになりました。

 我々は災いの根を断ち、この世界に真の平安を打ち立てるために一丸となって戦いに臨みますが、非を悔いて投降する者は受け入れる用意があります。できることなら、ヤマトに属する全てのメンバーが武器を捨て、戦いが早期に終結することを望みます。

 

ハーモニー再生同盟加盟者一同

 

「――では、戦場で相まみえましょう」

 

 ユキトの説得を蹴ってコネクトを切り、騎馬を思わせるデザインの赤いATVにまたがった後藤は空一面のうろこ雲を焼くおぼろな朝日で横顔を染め、ざわめく風をよそに金の肩章から左胸へ流れる赤いサイドポニーテールを几帳面に整えて、彼方で揺らめきながら徐々に迫る蒼い丘陵をメガネレンズ越しに見据えた。彼女の後ろには駿河たち9名が銃器や重火器を携帯して立ち、横手ではハンドルを握り締めてATVをアイドリングさせる潤が今にも起爆しそうな気迫を放って10名弱の部下を率いる。

 

「いよいよですね、隊長殿」

 

 斜め後ろに控える駿河がリヴォルヴィング・グレネードランチャーの銃口を丘に向け、鼻息荒く照準器をのぞいて気炎を揚げる。

 

「――このゾーンを統べる資格があるのはヤマトのみ。それを理解できないバカどもなんて、ヤマト魂で蹴散らしてやりましょう!」

 

 後藤はいくらか瞳がとろけてのぼせたような顔の駿河を肩章越しに一瞥し、視線を前に戻した。景気付けの『一服』による高揚もあるのだろうが、自らも矢萩に重いコミュ税を課されていながらウルトラパワーと独裁の大渦に魅せられて一体感に酔う……こうした輩が悪き組織を支えているのだ。

 

「――歌――」

 

 丘の向こうから流動に乗って聞こえる歌声を耳にし、後藤は黒光るブリッジを右手中指で押してメガネをずり上げた。甘いささやきで血を沸き立たせ、闘争に駆り立てる歌――スピーカーで目一杯増幅された『突撃GO TO HEAVEN』――が荒野に響き渡っていくにつれ、さざ波立った流動がうねりに変わり、空間ごと丘陵を崩して後藤たちの方に流し始めた。

 

「――総員、流されないように踏ん張れ!」

 

 凛とした声で指示を出した後藤はATVのハンドルを左手でしっかと握り、横に水平に伸ばした右手でイジゲンポケットから出したワルキューレ――切っ先から柄頭までが後藤の長身と同じくらいある大剣とグレネード・マシンガンが合体して白い翼の戦乙女の姿となった兵器の柄を握り締め、押し流そうとする流れに逆らった。後ろでは駿河たちが、ハンドルを握る側では潤の部隊が、空間の波によろめきながら手で空をかき、流れを踏み締めて陣形を保とうとやっきになっている。

 

「……流動にまで影響を与える歌……聞きしに勝る力ね……――来たわね」

 

 崩れる丘の陰からどことなく新幹線の先頭車両に形が似たゴシックタイプのカテドラル――ルルフの2階建て巨大パレード車・ハイパーゴッデス号が尖頭アーチ窓を並べる黄金の車体を揺らめかせて現れ、武装した若者たちが歌声で引き起こされた流れ――ブームに乗って押し寄せる。ツインテールを模したヘルメットとプロテクターを装備したルル・ガーディアンズの左右で、韓服姿のコリア・トンジョクと戦闘服から学校の制服、カジュアルな服装まで様々なメンバーとが両翼を成す。ハーモニー再生同盟軍――オートマトン抜きの総勢およそ200名は豆粒大で揺らめいていた影をどんどん大きく、クリアにしていった。

 

「……あの砲は使わないつもり?……」

 

 後藤はハイパーゴッデス号から突き出た160ミリ榴弾砲――ハイパーゴッデスキャノンが沈黙したままなのをいぶかり、つぶやいた。

 

「――オートマトン抜きで攻めてくるだけあって余裕ね。それとも弾の消費を嫌った?」

 

 一般的な兵器の金額から推し量るしかないが、あの特製榴弾砲の砲弾を1発購入するのにかなりのポイントが必要なのは間違いない。黒の大流動でほぼ全壊したルルフキャッスル再建のためにシャイロック金融から多額のポイントを借り入れて負債が増し、資金もといポイント繰りが苦しくなっているらしいという情報から後藤が推測してワルキューレのトリガーに指をかけたとき、反対側でエンジンがけたたましく吠え猛り、同盟軍の右翼めがけてロケット弾さながらに飛び出した黒いATVの上で軍服が燃える桜花柄の振袖にチェンジした。

 

「あッ! た、隊長ッ!」ワンテンポ遅れて、斜め後ろで駿河が慌てる。「加賀美大尉が勝手に!」

「――総員、銃撃しながら突撃! ヤマト魂で賊を蹴散らせッ!」

 

 号令をかけるや、左手でスロットルを全開にして押し寄せる流動に突っ込む後藤――それに続いて駿河たちが雄叫びを上げて駆け出し、発射されたグレネードや弾丸が赤毛を躍動させる後藤の横を抜けて同盟軍へ飛ぶ。

 

「……私もヤマト魂とやらを見せておかなければね……」

 

 シャープなフレームとレンズの奥で閃光を走らせた後藤は、ハイパーゴッデス号を背にするルル・ガーディアンズの銃撃をバリアではじいて火花を派手派手しく散らし、炸裂したグレネードの爆炎をものともせずにワルキューレを前方に突き出してトリガーを引いた。