REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.57 狂える前夜(2)

 

 泡立った泥色の雲がよどみ、揺らめく夜空の下……左腕を上にして腕組みした加賀美潤は荒涼とした野を覆う闇に切れ長の目を細め、落ち着きなく流れを変える不安定な流動と、うなり、うめくような響きとともに吹き乱れる風に長い黒髪を弄ばれていた。鼻から下を覆うくろがねの面頬、ヤマト軍の黒い軍服、革ブーツともども夜陰に半ば同化した少女が黒く塗り潰された軍のキャンプを背ににらむ闇の向こうには、丘を隔てて1キロほど南に陣を張ったハーモニー再生同盟軍がいる――

 

「――!……」

 

 張り切った左眉が背後の気配にピクッと動き、全身を覆うバリアが強まって黒髪が魂を失ったように垂れる。鉄のマスクの上でささくれ立った目を走らせて振り返った潤は、揺れる闇から浮かび上がった後藤アンジェラが隙の無い動きで近付き、横に立つのを冷たく眺めた。

 

「明日、火ぶたが切られるわね」

 

 マネキン人形然とした顔で感情を交えずに話しかけ、後藤は再び前を向いた潤をメガネレンズ越しに見た。ヘアゴムでサイドポニーテールにされた赤毛は潤同様バリアで流動と風から断絶され、菊が描かれた金の肩章を経て左胸へ冷然と流れている。

 

「……加賀美大尉、投降を呼びかけるコネクト、あなたのところにも来ているの?」

「私は、連中とのコネクトを切っています。そんなものに煩わされはしません」

 

 くぐもった声でにべもなく言い、潤は黒い袖に右手の爪を立てた。眉根にしわがうっすら刻まれ、面頬と同じように顔の上半分が硬くなっていた。

 

「援軍が来そうもない以上、数の上ではこちらが不利。厳しい戦いになるわよ」

「覚悟しています」

「勇ましいのね」

「私はヤマトナデシコです。ヤマトに仇なす者は、すべて討ちます」

 

 面頬の裏で歯をかみ合わせ、激しい摩擦にさらされているようにきつく目を細めて……そんな横顔を横目で見た後藤は暗闇に視線を転じ、ポーズを取るように軽く腕組みをして左肩を流れる髪に指を滑らせた。

 

「明日は血戦になる。きちんと体を休めておくことね」

「お心遣い、感謝します」

 

 視線を合わせず返される礼を一瞥して後藤は離れ、踵を返してプレハブの宿舎が闇に沈む方へ消えた。独りに戻った潤は袖に爪を食い込ませ、グッと下唇をかんだ。

 

(……私は過去を断ち切った。それなのに……だから……!)

 

 ユキトを思って眉間のひびを深めた潤は、体が小刻みに震えているのに気付いてはっとし、腕組みを解いてまじまじと己を見た。

 

「……どうして震えているの? なぜ……!」

 

 目元をゆがめ、自分を拘束するように腕を交差させて……頭を垂れて身を縮めた少女は、揺らめく暗闇の彼方を上目遣いににらんで黒髪を乱した。