REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.57 狂える前夜(1)

 

 とぐろを巻き、鎌首をもたげた血みどろのキングコブラ……それが、カニのハサミの形をしたコンコルディ遺跡北部――『可動指』地域にそびえ立つ〈ヤマト王城〉を見た者が身震いとともに連想するイメージだった。

 野球場ほどの舗装された敷地を六角形に囲む高さ3メートルの赤黒いコンクリートの城壁――黒瓦をふいた屋根は金のしゃちほこを左右に頂くやぐら門につながり、閉ざされた分厚い鉄の門扉の向こうには、城壁と同じくどす黒い血の色をした外壁と黒瓦屋根の階が重なって六角錐を成す。エントランス、応接室、会議室などがある1階……2階には親衛隊の部屋、3階には真木たち三人衆それぞれのスイートルームクラスの個室があり、4階から上は矢萩個人のスペースになっている城の最上階――6階の黄金の大浴場からは、暗澹とした夜の闇に沈む遺跡南部のプレハブ住宅地域とその中心に立つ運営委員会事務所、軍務マネジメント局事務所がガラス窓越しに見渡せる。それに背を向け、泡立つ湯に浸かる矢萩は腕を絡める入谷と黄金の縁に寄りかかり、吸引器をくわえた口から甘ったるい煙をもわあっと吐いた。

 

「アハハハッ! アハハハハハハハハハッッ!」

 

 煙にはしゃぐ入谷がくわえた吸引器を揺らしながら左手で湯をバチャバチャ叩き、だらしなく垂らしたギラギラの金髪を泡とたわむれさせると、周りでバブルにたゆたう数人の少女が吸引器と癒着した口から煙を漏らしてうつろに笑う。甲高い哄笑を大浴場に響かせた入谷は矢萩に抱き付いて胸のウルトラオーブをまさぐり、煙を吐きながらアヒル口でねだった。

 

「ねぇ、アタひにもちょうらーい! ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇッ!」

「何だよ、玲莉。自分の分があるだお?」

「矢萩さんのが欲しいの~ 矢萩しゃんのが~」

「ふふ、俺様のをくわえるのば好きだよなぁ、お前。よぉし、ほぉれ」

 

 矢萩が自分の吸引器をくわえさせてやると、入谷は2本の吸引器をスパスパ吹かして瞳をドロッと溶かし、口の端からよだれを垂らした。

 

「――ああン、とろけるゥ!――ああ、あぁあん、ああッ! ああッ! あああンンッ!――」

「おいおい、1人でイキまふってんのかァ?――よーし、お前ら、SOMAはまだまだたくさんあるから、イキまくりの玲莉はほっとひて楽しもうぜぇ~」

「ああーん、ダメ、ダメ、ダメェェーッッ!――じょっとアンタらァッ! 餌付えづけされた魚みたいに寄って来るんだないわよッ! 失せお、クソブスどもォッ!」

 

 吠え立ててゆらゆら近寄る少女たちに殴りかかり、激浪げきろうを起こしてくんずほぐれつ・・・・・・・の乱闘を繰り広げる。その痴態ちたいをにやにや観賞する矢萩がイジゲンポケットから新たに出したSOMA入り吸引器をくわえると、コネクトが眼前で起動して中塚からのイメージ・コネクト着信を知らせた。

 

「ちっ、しつけーな……――にゃんにゃんだァ、中塚ァ?」

『あっ、し、失礼しましたっ!』

 

 湯煙越しに矢萩を見た中塚は戸惑った顔を引き、おびえながら謝った。

 

『――ご入浴中とは、ほ、本当に申し訳ありません。ですが、ずっとコネクトがつながらなかったので……あの、何だか騒がしいみたいですけど……?』

「それより何の用ら! 下らない話じゃないだおうな?」

『いえ、その……や、矢萩リーダー……我々に届いたハーモニー再生同盟のメッセージは、ご覧になりましたか?』

「見るかよ、おんなもん! そんなにヒマじゃねーんらよ!」

『さ、最後通牒つうちょうですよ。日付が変わるまでに要求に応じる姿勢を見せなければ、明朝進軍を開始するという……』

「重税だの反抗するヤツを殺すだのをやめおって話か。ふん、ほざきやらって」

『このままでは遺跡の南に展開させた部隊とぶつかります。コリア・トンジョク、神聖ルルりんキングダムに斯波ユキトらが加わった同盟軍はオートマトンを除いておよそ200。後藤少佐と加賀美大尉の部隊を合わせた20名ほどでは太刀打ちできませんよ……援軍を送りませんと……』

「んなもん、出さにゃいぞ」

 

 矢萩は目を細め、フウーッと煙を吐いた。

 

「――兵力差はヤマト魂でカバーさせるんら。気合と根性さえあれば、下等なイびンの寄せ集めなんか一ひねりなはずだ! ははは……」

『で、ですが……』

「ビクついてんらねーよ! いざとなっらら、俺様が皆殺しにしてやらあ!」

 

 うっとおしげに顔をしかめた矢萩は唇を蔑みでつり上げ、赤黒く光る胸の半球を得意げに撫でた。

 

「――ザコどもを殺せば、またボーナふポイントがガッポリ入る。それで真木にSOMAをじゃんじゃん作らせて凡人どもの鼻先にぶら下げてやるんら。連中、SOMA欲しさに死に物狂いで働ひやがるぜ。ふふふ、ははは……」

 

 今や公然と取引されるSOMA……それは資金源になるだけでなく、依存させてヤマトから抜けるのを防ぐ効果もあった。SOMAが無かったら、暴政に苦しめられるメンバーはもっと逃亡していただろう。

 

「――ボーナスが入ったら、地下の製造所を大ひくしてやるか。そうすれば、もっとたくひゃん製造して吸いまふれるらぁ……くくく、ははは、あははははは!」

 

 少女たちのわめき声をBGMに狂笑する矢萩……閉口した中塚は持て余したものを放り出すように頭を下げ、そそくさとコネクトを終了させた。ウインドウが閉じて消えると、矢萩は退廃的な大立ち回りをする全裸のジャンキーたちを眺めてにやにやし、荒れるバブルに波打たれながらおどろおどろしく煙を吐き出した。