REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.54 魔王(3)

 

「――!」

 

 右斜め前方に転じられた目を赤い光がくらまし、ハッとする三人衆の見ている前で胸がはだけた上半身と腰とを消し飛ばそうとした高出力のビームがバリアにぶつかってバアアッッと拡散――とばっちりを食った木々が黒焦げになり、下生えごと焼かれてえぐられた地面がブワッッと白煙を上げる。

 

「――不意打ちしてんばねえぞッ!」

 

 ビームの衝撃で地面を削りながら十数センチ後退させられ――矢萩がグッッと腰を入れ、腕を胸の前でクロスさせて、射線上にあったがゆえに幹をぶち抜かれた木々が倒れるところへブラッド・レイを――地獄の炎色の光線は遮るものすべてを超高熱で消し飛ばし、赤いビームの発射地点、薄暗いよどみの彼方に吸い込まれて大爆発を起こした。すさまじい爆風が枝葉を引き千切って広葉樹群を放射状になぎ倒し、暗雲を食らわんばかりに噴き上がった炎が猛り狂ってごうごうと黒煙を吐き出す。ブラッド・レイによるオーバーキルで切り開かれた向こう、片っ端から辺りの草や樹木をむさぼる火炎を見据えた矢萩は、三人衆が慌ててオートマトンにリーダーを守るよう命じるのをやめさせた。

 

「――お前らは下がってろ……!」

 

 炎と空間の揺らめきから影が――赤い仮面が左右に揺れながら現れ、熱を帯びた黒光る荷電子粒子砲の右腕がグウッッッと縮んで人の手に戻る。入谷たちを後退させた矢萩はウルトラオーブがぎらつく胸をそらして腕組みをし、黒ずんだぼろぼろのカーゴパンツから出た黒い素足が焼け焦げた下生えを踏む歩み、方々がこぶのように盛り上がる黒い裸の上半身と傷だらけの呪い面をじろじろ眺めて、くわえた吸引器をクイッと上げた。

 

「ははっ、うわさには聞ひてたが、実際見ると悪趣味な仮面だら。そいつをつけて魔人になったんらってな、クソガキ。そのあちこち腫瘍みてえになってんのは魔人化が進んでるってことかぁ? まあ、どうでもいいがな。それにしても、霧の魔人といい、斯波といい、テメエといい、まったくそろいもそろって気色悪いもんだ。くくく……」

「……しね……!」

 

 数十メートル隔てて呪いが吐き捨てられ、いぼいぼの黒い両腕と胸、腹、背中からハリセンボンさながらに小型ミサイルが突き出し、間髪容れず一斉にエンジンを噴射――バアァッッッッと爆ぜ飛び、樹間を縫う無軌道を矢萩へ集束させる。息をつく間も無く次々炸裂して耳をろうする爆発――付近の枝を、幹をへし折り、散る葉の吹雪を起こす立て続けの衝撃波――バリアを強める三人衆が凝視する前で恐ろしく執拗に、ちり一つ残ることを許さぬ苛烈さで続く猛攻撃は、赤黒い輝きの爆発にはねのけられた。。

 

「……ふん、何だぁ、これは? シャボン玉でもぶつけれんのかぁ?」

 

 破壊の空隙で無傷の矢萩があざけり、少し乱れたくせ毛を軽く片手で整えると、嬉々とした獣の顔で口角をぐにゃりとつり上げた。

 

「いいのかよ、こんな真似しれ? あの動画、ばらまいちまうぞぉ。テメエの大事なメスガキが泣きながらヤられてる傑作をよぉ! けけけ!」

「――しッッねェェェェェェェェッッッッッッッッ――――――――――――――――――――ッッッ!」

 

 黒い肉体が高速で飛び出し、こぶしを固めた両腕がボゴオッと筋肉質化して二回り膨れ上がる。スペシャル・スキル〈オーガ・フィスト〉――ボウリングのボール大になった両こぶしが襲いかかり、ガードする腕との間で雷鳴さながらの衝撃音を連続させる。凶暴に吠え、狂い死にしかねない激烈さでめちゃくちゃにラッシュするシン――そのみぞおちにドンッッとめり込んだボディブローが体を折って動きを止め、レッド・デスマスクを直撃する右ストレートがのけぞらせてぶっ飛ばし、スザァッッッッと背中で十数メートル地面を削らせた。

 

「あはは、イカレちまったらひいな。イジンのクソガキめ」

 

 うめきながら体を起こすシンをとろけたまなざしで眺めて煙を吐き、矢萩は苦笑混じりに顔をしかめた。

 

「――ふっ、そういやテメエはもう人間じゃならったな。魔人とかいう怪物――いや、いぼいぼのいぼ虫か。ははは、いぼ虫、いぼ虫! ふん、目障りだから跡形も無く始末してらるよ!」

 

 ふらふら立ち上がるところを狙って両腕が☓の字に組まれ、帯びた赤黒い光がエネルギーを高めてまばゆく輝く。

 

「――消え失せろッ! ブラッド・レイ・インフィニティィィィッッッ!」

 

 クロスした両腕からドオオオオオッッッッッと放たれた光線がシンを飲み込み、赤黒く焼かれる森が奔流に消し飛ばされて割れ――やがて彼方での大爆発の衝撃が半死半生の木々にとどめを刺して下生えを虐殺し、矢萩の背後に控える部下たちを吹き飛ばしにかかる。三人衆がハンドルを握ってこらえる一方、あおりを受けて吹っ飛び、倒れてごろごろ転がるオートマトンたち――そして、立ちのぼったおぞましいキノコ雲が睥睨へいげいする一帯では、直径数百メートルに及ぶ巨大なクレーターの周囲でジェノサイドさながらに木々が折り重なっていた。

 

「……ちっ、仕留め損なったか」

 

 変動しないポイント額に舌打ちした矢萩は、ATVを降りて駆け寄る三人衆を振り返ってうねった髪を左手でかき上げ、右手の人差指と中指で挟んだ吸引器を口から離して、けがれた煙をふうっと吐いた。

 

「やりましたね。矢萩リーダーっ!」じゃれつき、目を輝かせる入谷。「これでまたイジンが一匹減りましたねっ!」

「いや、逃げやがっらみたいだ。ゴぎブリ並みのしぶとさだな、あのクソガキ」

「そうなんですか~? でも、矢萩リーダーのウルトラな強さを思い知ったんですから、ビビって二度と現れないですよ。――ね、マギくん、中ちゃん?」

「あ、ああ、そうだな……」

 

 MoBeeを肩の上に浮かべる中塚がすっかり変った地形に感嘆しながら首肯し、真木が「逆らうのは自殺行為……」とつぶやいて低く笑う。

 

「ふふん。ま、また出て来やがったらばっちり駆除してやるさ。ははは……さて、城に戻るかぁ」

 

 上機嫌に言い、吸引器片手に真木の肩がぽんと叩かれる。

 

「――今回のボーナスも回すから、いっぱい頼むぜ。ミスター・ケミスこリー」

 

 SOMA製造指示に、にやりと笑う真木。そのやり取りを間近で見ていた中塚は目元を曇らせ、矢萩の左の横顔をうかがいながら数秒逡巡して、揉み手しながらおずおずと意見した。

 

「……あ、あのリーダー、ちょ、ちょっと、一言だけよろしいですか?」

「あん?」

 

 歩きかけた矢萩は足を止めて見やり、けげんそうに左目を細めた。

 

「いえ、あの、SOMAはほどほどになさった方が……吸い過ぎはお体に障りますから……」

「ふん」

 

 一笑に付され、再びくわえられた吸引器の先端が上がる。

 

「――お前、この俺様を誰だと思ってるんら? ウルトラ矢萩様だぞ? SOMAにやられるほど柔じゃねーんだよ!」

「そ、それはそうでしょうが――」びびりながら、中塚は食い下がった。「吸い過ぎてもしそのお体――アストラルに悪影響が出たら、ウルトラパワーが損なわれるかもしれないじゃないですか……そんなことになったら……」

「心配いらないよ、中ちゃーん!」

 

 入谷が矢萩の左腕に抱き付き、遮る。

 

「――アタシが目を光らせるからさ~ ピカピカっとね! アハハッ!」

「そんなことより、撮影した動画の編集をしておへ。俺様の絶対的な強さと、逆らうとどうなるかが凡人どもにもよく分かるようにな! ふふ、はははは……」

 

 煙を吐き、入谷を同伴させる矢萩が自身のATVへ歩き、真木が薄笑いをたたえて続く。言葉を詰まらせていた中塚も結局引きずられ、死屍累々ししるいるいの火炎地獄といった感のゆがみをおぼつかない足取りで歩き出した。