REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.53 夜明けの決意(2)

 うっすら開いた目にぼやけたうつつ・・・が映り、だんだんと薄明るい天井がはっきりするにつれて一重まぶたが上がる。微光に誘われて枕の上で頭を傾けると、ぼんやり白んだ掃き出し窓のカーテンが黎明れいめいを知らせていた。眠気の残滓を払ったエリーは掃き出し窓とは反対にそっと寝返って掛け布団をどかし、むっくり起き上がってオフホワイト地・クローバー柄パジャマ姿をあらわにすると、床敷きされた敷布団に膝立ちして隣のパイプベッドをのぞいた。そこでは、新田が寝息を立てて安らかに眠っている。微笑してカーテンの方を振り返り、起こさないようにそちらにいざって立ち上がり、足音を忍ばせて近付くと隙間から外をうかがう……群青の空の下では濃紺の砂漠がまばらに立つ巨岩とひそやかに揺らめき、焚き火の明かりがぼうっとかすんでいた。

 

「……斯波さん?」

 

 炎のそば、イスの背にもたれた後ろ姿……エリーは新田を一瞥して引き戸に忍び寄り、そろそろ開け閉めして部屋を抜け出すと白のルームウェアにパッと着替え、素足にサンダルを履いて玄関からプレハブハウスを出た。冷えた砂を踏んで焚き火台に歩み寄ると、肌寒い揺らめきがほんのり暖かみを帯びる。イスの横に回って浅黒い顔をのぞき込むと、寄りかかってうたた寝しているのが分かった。

 

「……ん……」

「あっ」

 

 驚いてつい声を出し、慌てて口を手で押さえたエリーの方に寝ぼけまなこが滑り、二、三度瞬いてようやく焦点を合わせる。

 

「ご、ごめんなさい、斯波さん。起こしちゃって……」

「いや……んん……」

 

 伸び、あくびをしたユキトは左手で目をこすり、イスから背中を離して居住まいを正すと申し訳なさそうな顔に微笑んだ。

 

「おはよう、エリー」

「おはようございます……斯波さん、あのままずっと……?」

「ああ、まあね……」

 

 昨夜、新田を連れてプレハブハウスに戻るエリーにもう少し起きていると言い、そのままユキトは焚き火台の前で一晩明かしたのだった。

 

「……ずっと考えていたんだ。色々……」

 

 炎から影絵のような砂漠の彼方、東の地平ににじむ薄い光の筋を見やって、ユキトはしみじみと続けた。

 

「……結局、こんな世界にしたのは僕たち……特定の個人や集団だけが悪いんじゃない。一人ひとりの責任なんだ……」

「……そうですね」首肯するエリー。「わたしたちがもっとちゃんとしていたら、今みたいにはなっていなかったでしょうね……」

「……どうしたらゆがんだ世界をまともにできるのか……篠沢を救えるのか……一晩かけてもうまい方法は思い付かなかった……だけど、一つだけはっきりしたよ」

 

 おもむろに立ち上がったユキトは背筋を伸ばして両手を握り固め、見上げるエリーに真摯な顔を向けた。

 

「……悩んでいてもどうにもならない。とにかく行動するしかないんだ。そうすることでしか事態は変わらない……」

「そうですよね……わたしもお手伝いします。こんな世界、悲し過ぎますから……」

「ありがとう、エリー」

 

 地平で曙光しょこうがはばたき、揺らめき続ける世界をほのかに照らし出す。再び彼方を見つめたユキトはエリーとともに、淡い陽へ真っ直ぐなまなざしを重ねた。