REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.49 笑う悪魔(3)

 

「――おらおらァ! こんなもんかよ、軍将様ァッ!」

「――はあッッ!」

 

 鋭い突きをかわして斬り結んだ佐伯は、押しやろうとする矢萩の力を利用して後方に跳び――下腹部から燃え上がる気合で刃を輝かせ、生み出した9頭の猛虎を斬撃とともにグワッッと解き放った。

 

 スペシャル・スキル――九虎流くこりゅう――

 

「――うッ、おォオッッ!――」

 

 襲いかかる虎たちが斬られながら爪で腕や肩を切り裂き、体当たりの衝撃で矢萩の体勢を崩す。すかさず踏み込んだ佐伯の赤い突きが、バリアもろとも心臓を貫こうと――

 

「――ッッ?」

 

 軍服を透過し、矢萩の胸中央からほとばしる赤黒い輝き――鉄壁にぶつかったかのように刃が阻まれ、爆発さながらの凶暴な波動が佐伯をはじき飛ばす。宙でしなやかに身を立て直し、着地して羅神を構える先では、不気味に輝く人影が戸惑い、源の胸をまじまじと見つめていた。

 

「……ま、また……何だ? 力が……あふれてッ……!」

 

 網膜に突き刺さる、ギラギラした赤光――戦慄したかのように震える一帯――潤たちが驚く揺らぎの中、輝く矢萩はぶるぶる震える左手でジャケットのカラーとボタンを、それから下に着ているワイシャツのボタンを外して左右に開き、Tシャツの襟をガッと下げた。すると、胸の中央で盛り上がる赤黒いこぶがあらわになる。毒々しい光を沸騰させるそれは、先刻ミストの中で発光したときにはまだ現れていなかった。

 

「こ、これは……?」

『〈ウルトラオーブ〉の完全な発現です』

 

 無機質な声に皆が目を上げると、矢萩の頭上でワンが黄金色にきらめいていた。

 

『――それが、あなたに与えられた力です、矢萩あすろ。感じますでしょう? マグマのようにたぎる荒々しいウルトラパワーを』

「……こんな力が……ふふふ……あははははははッッ!」

 

 哄笑が噴火して高らかに響き、下げた襟が下側に引っかかってむき出しのオーブが輝きを増すと、矢萩を核に爆発した強烈なプレッシャーが地面の草をジェノサイドして緑の猛吹雪を現す。

 

 それはまるで、突如出現したハリケーンの暴君――

 

 地面をググッと踏み締め、飛ばされぬようこらえる佐伯たちの前で矢萩は餓狼を投げ捨て、世界に食らい付こうとするごとく両手を大きく広げた。

 

「あんたなんかに刀はいらないッ! 俺のウルトラパワーを存分に思い知らせてやるぜェッッ!」

「――佐伯軍将ッ!」

「引っ込んでやがれッ!」

 

 滝夜叉を握って飛び出す潤に矢萩の右手から暗赤色の矢じり型光線――ブラッド・アローが飛び、足元でドォンッと爆発してふっ飛ばす。倒れた潤に駆け寄る村上やうろたえる梶浦たち――それらをじろっとにらんで力を抑え、感嘆する入谷たちに軽く手を振って応えた矢萩は、自らの存在を地に打ち込んで荒波に逆らい、気を練って全身にみなぎらせる佐伯をせせら笑った。

 

「もう一度食らわせてみなよ、ご自慢のスペシャル・スキルをさ」

「!……」

 

 挑発に、佐伯は闘気を全身から羅神の先端まで行き渡らせて己を一振りの刃に変えた。巻き添えを避けて上昇したワンに見下ろされながら憎しみの直線上に立つ二つの影――並び立つことができないゆがんだ鏡像同士は、ざわめき、激しく揺らぐ流動のただ中で起爆に向けて力を増幅させた。

 

「――――――はあああッッッッッ!――」

 

 白革靴が爆ぜて地面を削り、ゴオッと飛び出した佐伯が突き出す羅神――赤い刃から放たれ、猛然と飛びかかる9頭の猛虎――と、赤黒い輝き――矢萩の胸の前で両腕が☓の字にガッと合わされ――

 

「――スペシャル・スキル、ブラッド・レイィィッッッ!」

 

 叫び、どす黒い☓の輝きからドオオッッッと放たれる暗赤色の光線――獰猛な激流は光の猛虎たちをぶち抜いて吹き飛ばし、とっさに羅神を盾にしてバリアを強める佐伯を直撃――

 

「――くッッッ!――」

 

 爆発――噴き上がり、猛り狂う炎に焼かれて散る草――そして、煙の中からゆらりと浮かび上がる、ジャケットを焼かれ、上半身の皮膚がただれて肉が焦げた姿……真ん中付近から無残に折れた赤い刃の日本刀……食いしばった歯をきしらせてうめき、脂汗あふれる顔をねじれさせた佐伯は、爆発による土煙を噴き出すパワーで蹴散らして現れた矢萩の組み合わされた両腕が、先程をはるかにしのぐエネルギーをみなぎらせているのを見た。

 

「――食らいやがれッ、ブラッド・レイ・インフィニティイイイイイイィッッッッ―――――――――――――――――――――ッッッ!」

 

 ブラッド・レイを津波だとすれば、これはまさに大津波――射線上の空間を猛然と食らう暗赤光の波動は瞬く間に佐伯を丸呑みし、草原を焼いてえぐりながら飛んで――

 爆炎の魔神が召喚されたかのごとき、凄絶な大爆発――

 世界を砕き、鼓膜を破らんばかりの轟音――陥没し、悶絶する大地――

 彼方でおぞましく立ち昇る巨大なキノコ雲……そのとてつもない破壊力に誰もがしばし言葉を失った。

 

「……すッごぉいッッッ!」

 

 入谷のキンキン声が、はじける。

 

「――すごいッッ! すごいッッ! すごいッッ! すご過ぎですよッ、矢萩さんッッッ!――ねぇ、中ちゃんッ?」

「え? あ、ああ……」

「超強ぇ……」ぼそっと言う真木。

「……反応が……」

 

 ヘブンズ・アイズを見る潤……見開かれた双眸は、佐伯のキャラクター・アイコンが消え、コネクトもつながらなくなっている事実に凍り付く。

 

「――ぅわあああああッッッ!」

「加賀美大尉ッ! 落ち着いてッ!」

 

 滝夜叉を左右に握り――矢萩に斬りかかろうとするのを村上が後ろから押さえ、前に回った梶浦が懸命になだめる。興奮してもがく潤を三人衆に囲まれた矢萩は鼻で笑い、うねった焦げ茶色の髪をザラッとかき上げた。

 

「頭を冷やせ。ヤマトナデシコのお前が、イジンのメスガキに熱を上げる軟弱男に殉じることはない」

 

 潤がひるむと、矢萩はウルトラオーブが輝く胸を張り、自分を注視する者たちにまなざしの切っ先を突き付け、声をとどろかせた。

 

「これからは、俺様がお前らを導いてやるッ! 文句のあるヤツは、前に出ろッッ!」

 

 動く者は、いなかった。

 桁違いのパワーを見せられた上に佐伯が消え去ったショックで彼、彼女たちは半ば放心状態になっていた。佐伯に代わるトップがいない――後藤アンジェラが一応ナンバー2だったが、純血日本人でない彼女では……という考えが主流だった――状況にも助けられ、ヤマトのトップ、そしてハーモニー軍とコミュニティ・リーダーの座を簒奪さんだつした矢萩は、黙り込んだメンバーを見回して不敵に笑い、ウルトラオーブに引っかかっていたTシャツの襟を戻してワイシャツとジャケットのボタンをはめながら高圧的に告げた。

 

「一旦遺跡に帰るぞ。今すぐイジンどもを始末しに行きたいところだが、派手にやって少し疲れたし、遺跡にいる連中にも俺様が新しいリーダーだと知らしめてやらないとな。一休みしたら発つから準備をしておけよ」

 

 命じて真木と中塚を従え、甘える入谷の肩を抱いて、新たな王は行く手であたふたと左右に割れる者たちの間を蹂躙する足取りで歩き、自分の宿舎へ向かった。