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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

 話はそこで終っていた。

 

 わたしは本を閉じて妻を見た。彼女はただ、じっとわたしを見つめていた。闇が忍び込み始めた部屋はどこか異様さを増しており、熱のせいか寒気がして頭が少し朦朧もうろうとしてきた。わたしは一言、怖い話だねと言って本を返すと、妻はゆらりと本を受け取り、ためらいがちに、あなたはもし私が死んで醜くなっても愛し続けてくれるでしょうか、と尋ねた。どこかぞっとする響きがあったが、わたしはそれを打ち消すように笑って、当たり前じゃないか、どんな姿になろうともわたしは君を愛し続けるよ、と答えて妻を抱き寄せ、唇を重ねて酔った。

 

 そのとき、突然リビングの電話が鳴り出した。わたしは妻を離したくなかったが、しつこく鳴り続けるので仕方なく妻を残して薄暗いリビングに駆け込み、受話器を取った。



 何を言っているのか、分からなかった。

 

 わたしは、電話口から聞こえる話が理解できなかった。妻が……帰宅途中トラックにひかれて……間もなく死亡が確認されたと……身元確認をしたいので搬送先の病院に来て欲しい……警察を名乗る男は痛ましげに言うのである。たちの悪いいたずらにしか思えなかったわたしはいきどおり、何をばかな、妻はちゃんと家にいる、いい加減にしろと言って、がしゃんと受話器を置いた。

 

 ため息をついたわたしは、妻のところに戻ろうと振り向いて硬直した。リビングに黒い人影があった。黄昏たそがれが消えた中に妻が立っていた。なぜか……金縛りにかかったように動けないわたしに、妻は線香の煙が揺らめくように言った。

 

 ただ一言、

 

 ――約束よ――

 

と。

 

 そして、凝らした目に映った姿に私は――

 

 せみの鳴き声は、もう聞こえなかった。