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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.48 世界フィーバー(3)

『何をぼんやりしている! 早く手を貸すんだッ!』

「だ、だけど、これって仲間割れじゃないですか?」

「そうですよ」と、同じくコネクトされた紗季。「助けてもらった借りは、さっきの戦いでチャラなはずです。これ以上利用されたくありませんよ」

『分かってないなァ!――』

 

 ドッペルアドラーを振り回して刃をはじき、クォンは語気を荒げた。

 

『――傍観なんてしていたら、どっちが勝っても立場が悪くなるんだぞ! さっさと付く側を決めろッ!』

『ユッキー!』

 

 乱戦越しに響く、甘々な声。

 

『――そこからコリア・トンジョクの背後を突いちゃってぇ! そしたら、ハイパーにかわいがってあげるよー!』

「た、高峰さん……!」

 

 誘いが頭の中で反響し、理性を乱してぐらつかせる――さらわれそうになったユキトは眉間に溝を刻み、左手をググッと押し当てた。

 

「……そんな話には乗らないぞ……! 乗るもんかッ!――」

「ちょっ、斯波っ?」

 

 飛び出し――ユキトは奮戦する韓服姿の間を駆け、プロテクター胸部を紋章ごとパンチで砕いてふっ飛ばしたのを皮切りにガーディアンを次々殴り倒した。そうでもしていなければ、ルルフに飲み込まれてしまいそうだった。

 

「――んッッ?」

 

 頭上に獰猛な殺気――飛びのいた直後、蹴った地面が急降下して来た巨大鉄球のごとき一撃でズガァッッと陥没――空間を砕き散らす勢いでたたみかける右フックをかわしてユキトは間合いを取り、鼻息荒い筋骨隆々の巨漢に光を燃やして対峙した。

 

「なかなかやるなッッ! 斯波ッッッ!」

「北倉さん……! 仮にも同盟を結んでいたのに、こんなせこい真似して恥ずかしくないんですかッ?」

「ゴッデス・ルルフ様は、いつも10000%正しいんだッッッ! 侮辱は絶ッッ対に許さないぞおッッッッッッ!」

「狂ってる……!」

「黙れッッッ! 行ッッくぞぉッッッ、斯ィ波ァァァッッッッ!」

 

 赤ゴーグル越しの眼球に血管の稲妻を走らせて叫び、北倉ロベルトはショベルカーを連想させる一対の巨大な鋼のこて――メガ・ナックル・ガントレットを再びこぶしにして猛然と繰り出す。迎え撃つ魔人のこぶしとの壮絶なラッシュ――乱打の衝突が空間を激しく波立たせ、争い渦巻く峡谷を揺さぶる。

 

「――くッ!」

 

 押され、ユキトはまるで大津波を相手にしているかのような凄まじさに焦りを覚えた。金色にきらめき、実際以上の巨大さを感じさせるハイパーゴッデス号――そのベランダに立つゴッデス・ルルフが放つ力と一つになったような、異様なプレッシャー――

 

「――何なんだ、このパワーッ?」

「ゴッデス・ルルフ様に歯向かうヤツはッッ、地獄に落ちろォォッッッ!」

「――加勢してやるよ、斯波ユキトッ!」

 

 猛り狂う鋼の巨拳に横から火炎弾がドドドドドッッとヒット――気が乱れた巨体にクォンがATVをドゴォッとぶつけてぐらつかせる。その隙に体勢を立て直し、ユキトはこぶしの光を燃え上がらせて間合いに踏み込み――

 

「――うおォオオオオオオオオッッッッ!」

 

 ブレイキング・バッシュ――左胸に紋章のワッペンがある金のレザージャケット、その下のミノタウロス顔負けの肉体をめった打つ光――うめいてよろめくところへダメ押しに渾身のブレイキング・ソウルが叩き込まれ、強烈なストレートをみぞおちに食らって失神した北倉の図体が仰向けにドォンとぶっ倒れる。

 

「やったな、斯波ユキト!」

「クォンさん……」

『ユッキー!』斜め上方からとどろく、いら立った声。『いつまでもきかん坊してると、ルルぷんすかしちゃうよっ!』

「そっちこそ大概にしたらどうなんだよッ!」

 

 はねつけ、ATVを乗り回すクォンと協力してガーディアンを蹴散らし続けるユキト――ルルフはうっすら赤らんだ頬をぷうっと膨らませ、血なまぐさい戦場を見下ろして息を吸うと、ラウドのスピーカーから一帯に大声を響かせた。

 

『みんなー! ルルにポイントをチャージしなさーい! ありったけだよー!』

 

 ハイパーディバイン!――100前後の口が腹から喉を震わせて叫びを重ね、交戦しながらポイントを送る。と、ベランダ上で輝きが急激に増し、神々しい黄金のオーラがズオオオッッと立ちのぼる。

 

『――ふふふ、来てる! 来てるよッ! ハイパーにッ! もっともっともっともっともっともっともっともっとォッッ!――』

 

 殺到するポイントをバックグラウンドのミラにチャージするルルフ――気おされて後ずさる鎌田の前で天のかがり火のごとく燃え盛る女神は、天衝く力のまましもべたちを鼓舞した。

 

『――ルルに逆らう者は、全員天罰てき面ッ! こてんぱんにやっつけちゃいなさいッッ!』

 

 ――ハイパーディバインッッ!――ツインテールたちの叫びがうねりとなって峡谷を、一帯を凶暴に揺さぶる。ハイパーディバインッッ!――ハイパーディバインッッ!――ハイパーディバインッッ!―――――――

 

「――うっ、な、何だ?」

 

 アサルトライフルで殴りかかるガーディアンをよろけつつ殴り飛ばし、ユキトは縦横じゅうおうにシェイクされながら光の柱――ハイパーゴッデス号ごと輝くゴッデス・ルルフを仰いだ。その現象は、まるで世界が彼女に熱狂しているかのようだった。

 

「――ど、どういう力なんだっ、これっ?」

「斯波っ!」

「し、篠沢!」

 

 振り返ったユキトの袖を右手で引っ張り、紗季はブレイズウインドを握る左手を振った。

 

「やばいよ! 下がろう!――クォンさんも、みんなに下がるよう言って下さい!」

「バカな! こんなこけ脅しなんか――」

『――イッくよォォォォォッッッ! 〈突撃GO TO HEAVEN〉ッッッ―――――――――――!』

 

 ツインテール太陽が振られて歌声が噴き出すと、空間の震えがルルフたちと共振し、薄曇りの空が、両側にそびえる崖が、小石散らばる地面が、神聖ルルりんキングダム勢とともに怒涛となって押し寄せる。世界を巻き込んだそれは、オートマトンたちや逃げようとするコリア・トンジョクメンバーをATVごと飲み込み、クォンを、ユキトと紗季をとらえて熱情のままに押し流した――