REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.48 世界フィーバー(2)

 ――ユン、そしてイ・ジソンのATVが薄れゆく霧から現れ、合流してアイドリング状態になると、疲れ顔のクォンはATV上から自軍メンバーがそろったことを確かめて重たげな息を漏らした。消耗に比例して霧は力を失い、もはやちょっとした煙幕でしかない。クォンの周りでは、あちこち傷だらけのホンやファンたちがATVの運転席に座ったまま休んでおり、ただ2人走って来たユキトと紗季がガスマスクを外して汗を拭い、熱い呼吸を整えている。

 

「……追って来ないのか? 佐伯さんたち……」

 

 汗で手をべたつかせたユキトが薄霧を振り返ると、紗季がぼやけた峡谷から視線を転じる。

 

「どうなんですか、クォンさん? 偵察に出したオートマトンからの報告は?」

「『退却』で間違いないようだね」

 

 オートマトンからの報告を表示するコネクトを見て答え、クォンはメンバーを見回して双頭のスピア――ドッペルアドラーを握る右手を誇らしげに掲げた。

 

「大勝利! 大勝利だ! ボクらはハーモニー軍を打ち破ったんだ! 素晴らしい快挙だよ!」

 

 勝利宣言に高揚し、ガスマスクを外して歓喜に沸く韓服の一団。他方、疲労とデモニック・バーストによるひどいだるさにさいなまれるユキトは、紗季ともども人間同士の争いの一幕を暗い顔で眺めていた。

 

「――ハーモニー軍は、戦傷に加えてミストのダメージで士気が低下しているだろう。それは、ポーションや治癒魔法じゃどうにもできない。ま、尻尾を巻いて遺跡に戻るしかないんじゃないかな」

「……でも、また攻めて来るんじゃないですか?」と、紗季。「佐伯さんにも意地があるだろうし……ミストのことを知られてしまった以上、もう今回みたいにはいかないですよ」

「そうだろうね。だけど、まだやりようはあるさ。それはさておき、取りあえず休もうじゃないか。肉体労働で鍛えられてきたボクも、大量にミストを出してさすがにへとへとだからね」

「……分かりました……――どうしたの、斯波?」

「あ、いや……何か、流動がざわついてきたような……」

 

 腰を入れてふらつきを押さえ、ユキトは薄霧越しに北――まだ陽が差さず、夜の残滓がいくらか残る薄暗い峡谷に目を凝らした。かつては河であったろうくねった幅広の道は数百メートル向こうで大きく右にカーブしていてその先は見えなかったが、ぼやけた峡谷を揺さぶる波、そして微かな地響きはそちらから寄せて来ていた。

 

「……んっ? あれは……?」

 

 ホン・シギがメガネをずり上げ、揺らめく崖の陰からぬうっと現れた巨影をいぶかる。薄暗がりで映える黄金の輝き――それは、遠目には陸を行く大型クルーザーに似て見え、巨大装輪で地を繰り返し轢いて迫るに従って特急列車のように丸みがかった前面から巨砲をそそり立たせる、3階建てビル並みに大きいゴシック様式大聖堂の威容を見せつけて一同をざわつかせた。全高10メートル強、全幅約10メートル、全長約18メートル……その『動く黄金の大聖堂』の周りには、ツインテールを思わせる角状突起がある銀のヘルメットをかぶり、白の戦闘服に太陽とツインテールが合わさった紋章が描かれる銀のプロテクターを装着してアサルトライフルを携帯した100名ほどの兵士――ルル・ガーディアンズが隊列を組んで付き従っていた。

 

「……神聖ルルりんキングダム……」クォンの唇が、嘲り混じりにゆがむ。「今頃のこのこ現れたのか、キテレツ集団め」

「見て、斯波」紗季が指差す。「高峰さんよ。ベランダのところ」

「本当だ……」

 

 ユキトは中2階部分から突き出た160ミリ榴弾砲の上、2階ベランダに目のピントを合わせた。そこにはツインテール太陽の黄金杖を右手に持つ、燦然とした影――翼を広げたデザインの銀の王冠を戴き、胸元あらわな黄金ドレスの襟と肩口から羽を模した飾りをクジャクのように広げるツインテール美少女――ゴッデス・ルルフこと高峰ルルフが立ち、左右には学者然とした帽子と金のひだ襟がついた中世ヨーロッパ風衣装の鎌田キヨシ、金のレザージャケットに白のレザーパンツをはいた北倉ロベルトがはべっている。

 

「……こうして見ると、つくづくヒーロー物の悪の組織っぽいわね……あの金ぴか大聖堂っぽい超デカ車、〈ハイパーゴッデス号〉だっけ?」

「ああ、勧誘のメッセージにも何度か自慢げに登場させてたよな……」

『ハイパーにグッモーニン! ユッキー+αの皆さーん!』

 

 100メートルほど隔ててハイパーゴッデス号と隊列が止まり、耳かけ型ヘッドセットとスピーカーアプリのラウドで増幅された声が峡谷を震わす。そのメッセージで再生される声以上のパワーに打たれてユキトはよろめき、引き潮に持っていかれそうになるのを踏みとどまってこらえた。神を自称し、ルルラーたちからポイントを吸い上げてカリスマレベルをアップさせたルルフは、ギリシア神話に登場する魔物セイレーン顔負けの力を付けていた。

 

『あれ~? ひょっとして、もう戦いは終わっちゃったのかな?』

「白々しいね」ドッペルアドラーの穂先を上げ、高みへ声を投げ付けるクォン。「偵察くらい出しているんだろう? 終わったことなんか百も承知じゃないのかい?」

『もちろんだよ。神様のルルは、ちょっと遅れても問題ないってことも分かってたもん』

 

 周囲から沸く感嘆と賛美の拍手――ルルフは不遜な微笑みを浮かべ、おもむろにコネクトを開いた。

 

『――コリア・トンジョクのみんな、ハイパーにご苦労様~ それじゃ、ルルからご褒美あ・げ・る♡――ファイヤァッ!』

 

 号令が響くや巨砲がドオオンッッと轟音を上げ、榴弾がユキトたちの前方に着弾して大爆発――大地がひっくり返らんばかりの衝撃に吹っ飛び、転がったところに土と小石がバラバラ降り注ぎ、眼前のクレーターから炎と煙がごうごうと立ちのぼる。度肝を抜かれ、耳鳴りにさいなまれながらえぐれた地形を凝視した者たちは、ベランダから破壊の跡を得意げに見下ろすツインテールの神をにらんで身構えた。

 

「――高峰さん! どういうつもりよっ!」

『今のは脅しだよ。だけど、次は当てさせるかも。――さあ、おとなしく降伏してもらおうかな~?』

「ふん、どうせそんなことだろうと思ったよ」

 

 苦笑したクォンはATVをハイパーゴッデス号とルル・ガーディアンズにグイッと向け、イジゲンポケットから90体弱のオートマトンを出現させて左右にずらっと並べると、メンバーたちを振り返って青ざめた天にドッペルアドラーを突き上げた。

 

「相手は、ただのオタクどもだ! ついでに蹴散らすぞッ!」

 

 気炎を吐いて走り出すクォン――銃剣を着剣したK7を構えるオートマトンの波が続き、赤系統の韓服姿がスロットルを回して突撃を開始する。その後ろ姿を、ユキトと紗季はぼう然と見送った。

 

「……どうする、斯波?」

「どうするって……」

 

 煙炎えんえんを突っ切ってクレーターを渡り、グオオッッと襲いかかるコリア・トンジョク――俯瞰するルルフは、シフトレバーを入れるように黄金杖を前へ傾けた。

 

『――総員〈バーサーカー・アイ〉装着! おバカさんたちをハイパーに叩き潰しちゃってっ!』

 

 コネクトを通じての命令一下――ガーディアンたちが「ハイパーディバインッ!」と叫び、赤いゴーグル型アイテムをデュワッと目に当てる。すると、火に火薬を投げ込んだごとく気勢が爆発し、韓服とオートマトンの波をツインテールのそれが迎え撃つ。余勢を駆るコリア・トンジョク対アイテムで闘志を高めたルル・ガーディアンズ――入り乱れて相争う様を見ていたユキトは、応答を求めるクォンとコネクトした途端に怒鳴られた。