読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.47 よみがえる悪夢(1)

TEM†PEST

 蒼く、薄ら寒い夜明け――全員ステルス・モードにしたハーモニー軍はキャンプを引き払って進軍を開始、冷え冷えとした木々の影がたゆたう森を抜けて峡谷に踏み入った。

 指揮官の佐伯と矢萩たち将校4名がそれぞれ部下10名、オートマトン50体を率いる、数の上ではコリア・トンジョクの3倍近い兵力――

 亀裂のラビリンスと早朝の冷気をはらみ、静々と流れる薄暗い空間を徐行で先行する矢萩と潤のATV……

 その後に続く梶浦翔一と村上薫の隊……

 そして、佐伯率いる本隊……――

 オートで前進するATVに座し、白い外套の裾を流動に揺らされる佐伯は、自身の前に表示されている峡谷の3Dマップ――先遣隊とドローン・レイヴンがデータ取得したもの――を、それから蛇の道のように曲がり、起伏する行く手を妖刀・羅神が収まった黒漆の鞘を握りながら見据えた。

 

『佐伯軍将』コネクトが開き、潤が映る。『今のところ敵の気配はありません。ヘブンズ・アイズにも反応なしです』

『ふん、この大部隊にビビッて逃げたんじゃないですかね?』矢萩がコネクトに加わり、嘲る。

「油断はするな」

 

 佐伯は部隊全員とコネクトし、全方位に神経を研ぎ澄ませるよう指示した。

 

「――アリの巣のように入り組んだ峡谷のどこから仕掛けて来るか、分からないのだからな。――村上大尉、上空を飛んでいるレイヴンで連中の動きはつかめたか?」

『コリア・トンジョクのキャンプは影も形もありません。行方を追っていますが、霧に視界を妨げられてうまくいきません』

「霧?」

『はい。ヘブンズ・アイズには表示されていませんが……我々もじきに接触――あっ、あれです』

 

 村上の報告通り、矢萩と潤の隊の前方で大きくカーブした崖の陰から白いものがぬう……と顔を出す。地上を流れる雲……あるいは巨大な白蛇……そうした形容が浮かぶ、高さ数メートルに及ぶ霧の塊は、ハーモニー軍の方へゆっくりと這い寄って来た。

 

「全隊、止まれッ!」

 

 命じ、佐伯は行く手の霧をにらんだ。その脳裏に霧の魔人がよぎり、第六感が危険を知らせる。

 

「……後退だ。峡谷の外まで戻るぞ」

『はァ?』ウインドウ上で、矢萩の顔がゆがむ。『何言ってるんですか? 霧を見て引き返したなんて知れたら、イジンどものいい笑い物ですよっ!』

「これは命令だ!」

 

 佐伯はウインドウ越しに数十メートル前の相手を従わせようとしたが、矢萩は眉間の溝を深め、憤然とした。

 

『冗談じゃありませんよ! あんな霧がなんです! あれがもしイジンどもの仕業だったとしても、どうせ目くらましくらいなものでしょう!』

 

 矢萩は命令に従うようコネクトで迫る潤たちをはねつけ、強硬に前進を主張した。

 

『――こっちには、これだけの戦力があるんだ! 罠を破って敵を仕留めることができるはずです! そんなに怖いのなら、俺が確かめてやりますよッ!』

「待て、矢萩ッ!」

 

 コネクトを切った矢萩がスロットルを回して加速――真木たち三人衆とオートマトン部隊が従ってダダッと駆け出す。佐伯が再コネクトして抑えようとしたとき――

 

 ――――――――――ッッ!

 

 目を見開く佐伯、そして矢萩を始めとする部隊メンバーにドッと霧が襲いかかる――鉄砲水のごとき勢いのそれは、逃げる間を与えず部隊すべてを飲み込んだ。そそり立つ崖と崖の間を占め、揺らめく霧……

 

「――く……!」

 

 濃霧に飲まれた佐伯は、何らかの有毒物質が含まれているかもしれないと考え、とっさにバリアを強め、手で鼻と口を押さえて油断を悔いた。ゲリラ戦は想定していたが、こうした攻撃――これがコリア・トンジョクによるものだとすれば――への備えは無かった。と、周りの者の姿がまったく見えない霧の向こう――前方から歩いて来る小柄な影がぼんやり浮かぶ。

 

「――誰だ!」

 

 誰何すいかし、羅神を抜刀して外套と鞘を消した佐伯は、現れた者を見て目を疑った。それは、モンスターに殺されたはずの吉原ジュリアだった。