REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.46 駆り立てる思い(4)

 閉め切られ、きりきりした緊張感がよどむ集会所……議長席――黒革の椅子にどっかと座したクォンは、本黒檀のテーブルの左右に仮面じみた顔を並べる韓服姿のファン・ヨンミ、ホン・シギ、イ・ジソンたち、そして末席で断崖をのぞくように卓上を見つめるユン・ハジン――王生雅哉等10名ほどを順々に見てカウンター越しのそれに似たスマイルを浮かべ、やや芝居がかった風に両手を薄紫の袖と軽く広げた。

 

「わざわざ集まってもらってすまないね、みんな」

 

 ねぎらうと、クォンは向かって右に座るファンに「客人の様子はどうだい?」とユキトたちの様子を尋ねた。

 

「異常ありません」

 

 黒髪をカチューシャでまとめ、ヘアゴムで一つ結びにした少女は細面を斜めに向け、よそよそしく続けた。

 

「――おかしな動きがあれば、カンシくんが発報します」

「そうだね。ま、さっきコネクトでハーモニー軍の動向を知らせたときの反応からすると、協力するしかないって彼らも理解してくれたようだしね。――さて、今夜集まってもらったのは、明日の戦いに備えて一致団結するためだよ」

 

 クォンはヘブンズ・アイズを開き、ウインドウをメンバーたちの方に向けて拡大した。峡谷に続く森の手前にキャラクター・アイコンの大群が表示される3Dマップ――左右に並んだ顔は、一様に青みを帯び、厳しさを増した。

 

「――ステルス・モードにせず、戦力を見せつけている。まったくいやらしいもんだね。連中がどの程度オートマトンを出すか分からないが、戦力差は3倍以上になるかな? まぁ、魔人の力を警戒しただけじゃなく、場合によっては姿をくらましていたボクらや神聖ルルりんキングダムとぶつかることも想定して部隊編成したんだろうけどね」

「この戦力が、明朝峡谷に入って来る……」ファンが、細目をきつくする。

「それで……」ホン・シギがうろたえ気味にメガネをずり上げ、クォンをただす。「勝算はあるんですか? ハーモニー軍の要求を突っぱねた責任は、取ってくれるんですよね……?」

「ふふっ」

 

 これ見よがしに苦笑し、クォンの両手指が合わさって三角形を作る。

 

「――そんな調子じゃ困るなあ。身をす覚悟が無いと、佐伯たちは倒せないぞ」

「も、もちろんそのつもりです。ただ、勝ち目の無い戦いはご免ですよ」

「そりゃそうだ。ま、どうにかなるだろう」

「ど、どうにかって!」

「あ、あのっ!」青ざめたアンパン顔――イ・ジソンが口を挟む。「援軍、神聖ルルりんキングダムの援軍は、間に合うんですか? ステルス・モードにしていて現在位置は分からないけど、ちゃんと来てくれるんですよね?」

「どうかなあ……一応急かしたけど、あんまり期待できないんじゃないかな。何とかかんとか遅れる言い訳をしていたからね」

「そ、そんな! 斯波ユキトたちの手を貸りるだけじゃ、勝てるかどうか……」

 

 イが椅子から崩れ落ちそうになり、うろたえたざわめきが空気を震わす。左口角を嘲りで曲げたクォンは動揺をしばし眺め、破顔して「心配いらない」と投げ込んだ。

 

「――ボクに策がある。思い通りにはさせないよ」

「策とは?」と、ファン。

「ヤツらは戦力を見せつけてプレッシャーをかけている。そこに隙があるということさ。詳細は直前まで秘密。お楽しみってことで。それと、これは遺跡にいるスパイからの未確認情報だが、斯波ユキトには黒い嵐を起こす力があるかもしれない。加賀美潤たちを吹き飛ばした、すさまじい力――それが味方すれば、まず間違い無く勝てるだろう」

 

 策、そして黒い嵐という単語に顔を見合わせ、揺れ続けるメンバーたち……鼻で笑ったクォンは腕を組んで椅子の背もたれに寄りかかり、意地悪げに唇をゆがめた。

 

「――だったら投降しなよ。別に止めやしない。ただし、前族長たちを殺すようなサイコパスどもだからね、どんな目に遭わされるか分からないぞ。それが嫌なら、黙って言う通りにしろ。オートマトンだって全部ボクのものなんだしな」

 

 静まり返り、口惜しそうな顔の連なりがうつむくと、薄笑いをたたえたクォンは軽く右手を振って重苦しい場を乱した。

 

「戦うしかないんだよ。ボクに従ってね。大丈夫。きっと、佐伯に吠え面をかかせて見せるから」

「……分かりました」苦々しげなファン。「それほどおっしゃるのなら、お任せします」

「分かってくれて嬉しいよ。――キミたちもそれでいいね?」

 

 一同の沈黙を異論なしと読み、クォンはにっこり笑って手を打ち合わせた。

 

「――ありがとう。それじゃ、明日は午前4時に集会所前集合とする。夜が明けて敵が動き始める前に行動開始だ。それまで各自休んでくれ。――あ、それと斯波ユキトたちには、ファン、キミから伝えておいてくれ。時間厳守、寝坊するなってね」

 

 散会を告げられた少年少女は無言で席を立ち、幾何学模様の絨毯を踏んで退室した。最後に席を立ったユンがちらっと議長席をうかがったが、クォンはそっぽを向いて全員出て行くのを待った。そしてユンが遅れて集会所を出、玄関ドアが閉まると、ぽつんと残ったクォンは肘掛けに肘を置いた両手を胸の前で組み合わせてうつむき、おかしくてたまらなさそうにげらげら笑い出した。

 

「――はははは、『北韓』に指図されるのは悔しいだろうが、お前らはボクに従うしかないんだよ!恨むんなら自分たちの無能さを恨むんだな!」

 

 頭をのけぞらせて哄笑――手にかけたキムたちを思い浮かべ、口の両端がさらに深く切れ上がる。

 

「――アンタらを始末して手にしたボーナスポイント、ボクのスピアやバリアの強化、オートマトンの購入に使わせてもらいましたよ。死んだ方が役に立ちますね、アンタたちは。くくく……あはははははっ!」

 

 飛び跳ねる勢いで黒革の椅子から立ち上がり、クォンは天井の照明の光を仰いで両手を大きく広げた。

 

「……見ていろよ。北韓のボクがこのゾーンの王になってやる。散々北韓、北韓とバカにした連中を見返してやるんだ! ふふふ、あはははは……!」