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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.46 駆り立てる思い(3)

「あれぇ、もうビールが無いなあ~――ほら、ミセっち! 追加だよー!」

 

 座布団を尻に敷き、あぐらをかいた入谷が空き缶を振って騒ぐと、店舗デザインのウインドウ前で腕組みした手の平大の二つ編みアレンジ少女がため息をつく。

 

『はぁ……あんたら、未青年だよね?』

「うるさいなあッ! アタシはお客だよ? つべこべ言わずにさっさと出しなよッ!」

 

 唾を飛ばして怒鳴ると、ともにローテーブルを囲んで座布団に座る普段着姿の男性陣――矢萩、真木と中塚が、空の大皿を指差して横柄につまみを追加注文する。司令部での会議終了後、矢萩の宿舎――ワンルームマンションの一室ほどの空間での酒盛りにあきれ返ったミセっちが渋々ファストフードショップ『MASSフード』を開いて注文を通すと、空き缶が消えて新しい缶ビールが、空の大皿の上に熱々のフライドチキンとポテトの盛り合わせがパパッと現れる。

 

『……明日は戦いなんでしょ? ほどほどにしといたら?』

「ふん、余計なお世話だ」赤ら顔の矢萩が、缶ビール片手ににらむ。「酔ってるくらいがちょうどいいんだよ! イジン狩りはな!」

「そーそー。しらけるようなこと、言ってんじゃないわよ」

『分かったわよ、好きにすれば? はぁ……』

 

 ため息を残してミセっちが消え、StoreZが閉じる。すると、中塚が缶をテーブルにコトッと置いて矢萩をうかがい、遠慮がちに口を開く。

 

「……だけど、矢萩さん。酒臭かったら軍将に大目玉食らいますよ。ほどほどにしておいた方が……」

「ふん、臭いなんかスメルロスト飲んで消せばいいだろ。そもそも佐伯なんかにビビってんじゃねーよ」

 

 はねつける矢萩の向かいで真木が「くくく」と低く笑い、フライドチキンを振って入谷がけらけら嘲る。笑い物になった中塚はソフトモヒカンの髪をあちこちいじり、渋い顔をしてぐずぐず弁解した。

 

「……おれは、別にビビってるわけじゃ……ただ、面倒臭いことになったら嫌だなって……あの人、最近厳しいから……」

「俺たちにはな。その分、イジンには甘くなっていやがる」

「ですよね~ 赤毛メガネをナンバー2にしてるし。何でアタシらの上にイジンがいるのってカンジ」

「ふざけんな……」うなるように同調する、真木。

「まったくだ。劣等人種なんか使ったら、ジョアン・シャルマみたいにヘマしたあげく姿をくらますようなオチになるんだ。あいつ――佐伯は、分かっちゃいないんだよ。何が『混血や移民を全否定するべきではない』だ。偉そうに……! ちょっとばかりいい大学に行ってるからって……!」

 

 握ったアルミ缶をゆがませ、ビールをグイッとあおる矢萩。一流大学に籍を置く佐伯へのコンプレックスが、中卒フリーターの頬骨が張った顔をいびつに尖らせていた。

 

「……今に見てろよ。ここじゃ学歴なんか関係ないんだ。俺の方がヤマトオノコとして優れているって証明してやる!」

「さっすが矢萩さんっ! ギラギラしてるぅ~!」

 

 入谷がすり寄り、チャコールグレーのパーカーを着た体をしなだれかからせる。その肩を抱き、矢萩が大皿に盛られたフライドチキンに手を伸ばしたとき、銘々のコネクトが一斉にメッセージ受信を知らせた。

 

「またイカレ女からですよ」

 

 メッセージを開いた中塚がゴッデス・ルルフの勧誘映像にあきれ、真木がフンと鼻で笑う。

 

「たまんないわよね、このスパム。こいつらが南下して来ているせいで映像も結構クリアだし。コネクト拒否してやりたいわー」

「まったくだな」と矢萩。「だけど、これも連中の動きを知るためだ」

「そうですけど、これに引っかかるヤツもいるみたいじゃないですか~? 何人か遺跡から消えてますし~」

「それでいいのさ。スパムをふるい・・・として使っているんだよ、佐伯は」

「軟弱者、裏切り者は消えろ……」真木が、ぼそっとつぶやく。

「そうだよな」中塚が真木を一瞥し、フライドポテトをつまんでケチャップにつける。「本物のヤマトなら、こんなものにたぶらかされないものな」

「だけどさ~、マジでウザいよ。これ」

「もう少しの辛抱だ、玲莉。コリア・トンジョクを潰したら、次に滅ぼされるのはこいつら。そして、このゾーンは俺たちヤマトに支配されるんだ」

「早くそうなって欲しいな~ できれば、そのとき矢萩さんがトップだといいんだけど~」

「お、おい、入谷っ!」

「何ビビってんの、中ちゃん? ホント、ビビりだね~」

「くく……ビビり……くくく……」

 

 入谷と真木にバカにされた中塚は、言葉を詰まらせて目をぱちぱちさせた。

 

「……あ、あのな……おれは……もちろん、おれだって矢萩さんの方がいいけどさ……」

「だって、矢萩さん!」

「ふふん。機会があれば、すぐにでもなってやるさ。俺の方がヤマト主義を正しく理解しているんだからな……!」

 

 矢萩は後ろのベッドにもたれてふんぞり返り、甘える入谷を強く抱くと、野心をたぎらせてチキンをガツガツ食らった。