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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.46 駆り立てる思い(1)

「これは、ドローン〈レイヴン〉が撮影した映像――このキャンプから直線距離で約10キロほど南西のものだ」

 

 議長席に座る佐伯は自分の前に表示される俯瞰映像――ドーム屋根住居の集まりと空を見上げる韓服姿を目で射、居並んでウインドウを見る部下たちに滑らせた。窓の無い、小さな集会所風の司令部……天井の蛍光灯に照らされ、鈍い光沢を放つテーブルを挟んで座る潤と村上薫、梶浦翔一と矢萩。ユキトたちを捕らえる名目で編成された部隊は峡谷の迷宮に続く森林手前の平原にキャンプを張ってプレハブの宿舎を並べ、先遣隊の報告を元にドローンを飛ばして行方を探っていた。

 

「こいつら、こんなところに潜んでいたのか……!」

 

 矢萩が舌打ちし、隣席の梶浦にうねり髪を傾ける。

 

「――映像には映っていないが、ここに斯波たちもいるんだよな?」

「はい。クォン・ギュンジも佐伯軍将とのコネクトの中で認めたそうです」

 

 梶浦を一瞥して佐伯はうなずき、クォンに身柄引き渡しを要求し、従わない場合は明朝部隊を進めると脅しをかけたことを明かした。

 

「――だが、奴は拒否した。我々との戦いも辞さないそうだ」

「ははっ、ステルスにしないでいるこの大軍を見てもまだそんなことを言うとは、つくづくバカな連中だな」

「部隊を進めてせん滅しましょう」潤が映像を冷視する。「こちらは佐伯軍将と私たち、オートマトンを合わせて総勢300名強。簡単に叩き潰せるはずです」

「加賀美大尉、勇ましいのはいいんだけど」村上がネコ目を潤へ転がす。「神聖ルルりんキングダムからまとまった数がこちらに南下しているのよ。あの妙ちくりんな集団がコリア・トンジョクに加勢するのは間違いない。うかつに動けば、入り組んだ峡谷で挟撃されるかもしれないわ」

「村上大尉の懸念はもっともだが、おそらくその心配は無いだろう」

「なぜです、佐伯軍将?」と、村上。

「部隊の動きが鈍い。あの女は、我々とコリア・トンジョクの共倒れを望んでいるのだろう」

「ふん、小賢しいな。これだからイジンは……」

「矢萩」じろっとにらむ佐伯。「混血や移民を全否定してはならない。ハーモニー運営に貢献している者たちもいることを忘れるな」

「……すみません……それで、どうするつもりですか?」

「明朝、峡谷に突入してコリア・トンジョクを討ち、返す刀で漁夫の利を狙う神聖ルルりんキングダムを蹴散らす」

 

 佐伯はテーブルの上で組み合わせた両手の指に力を入れ、注目する潤たちを見返した。

 

「――このゾーンを乱す輩を野放しにしてはおかない。我々は、ラー・ハブ事件の過ちを繰り返してはならないのだ……!」

 

 ジュリアの最期がフラッシュバックし、声に微かな苦みが混じる。ラー・ハブ襲撃の被害が甚大になったのはシン・リュソンたちがSOMAにおぼれたからであり、そうした乱れの温床は前リーダー――新田の甘さ。そのような認識ゆえに、佐伯は世界を縛り上げようとしていた。ジュリアたち犠牲者への償いとして……

 

「分かりました。ふふ、ヤツらに目に物見せてやりましょう」

 

 矢萩がサディスティックに嬉々とし、潤が冷たい美貌を研ぎ澄ます。他方、村上が首をひねるのを見た佐伯は、何か意見があるのかと聞いた。

 

「あ、いえ。ただ、例の『黒い嵐』のことが気がかりで……」

「斯波ユキトたちを捕らえようとしたときの、ですね……」

 

 梶浦が補足すると密室の空気が重みを増し、潤の左の目元がぴくっと動く。ひらめく巴を消滅させ、囲んでいた追手を吹き飛ばしたすさまじい力――

 

「……あれについては、自分も警戒している」と、佐伯。「だが、あれが魔人の力と関係があるのなら、なおさら早いうちに方をつけなければならない。力を使いこなせるようになってしまったら厄介だからな」

「軍将の言う通り。なあに、化け物の1匹や2匹、イジンもろとも俺が始末してやりますよ」

「いいえ、矢萩大尉。斯波ユキトは私が仕留めます」

 

 潤は矢萩を見据え、断固とした口調で言った。

 

「ふっ、こだわるじゃないか。まだあいつに未練があるのか?」

「私は、討ち損ねた恥を雪ぎたいだけです。ヤマトナデシコの面目にかけて」

 

 氷像のような顔で唇が赤く燃え、声には力任せに切断する調子があった。それを軽く鼻で笑い、矢萩は佐伯に視線を転じて唇の両端をつり上げた。

 

「では、明朝進軍開始ですね」

「そうだ。――異論は無いな?」

 

 潤たちが異議なしと答えると、佐伯は各自それぞれの隊に伝えて明朝に備えるよう命じ、散会を告げた。自分に合わせて立ち上がった矢萩たちと挙手の敬礼を交わし、彼等が外開きのドアから赤黒い黄昏の下に出て行くのを見送ると、佐伯はテーブルとイスの間に立ったままの潤に視線を向けた。

 

「どうかしたのか?」

「いえ……」

 

 目を合わせた佐伯は、瞳の奥をうかがうまなざしに不快さを覚えて表情のシャッターを下ろした。すると、潤はわずかに狼狽し、少し頭を下げて上目遣いで続けた。

 

「……私は、勝利をお約束しますとお伝えしたかったのです」

「そうか……期待しているぞ、加賀美大尉」

「はい、佐伯軍将」

 

 挙手の敬礼を交わし、後ろ髪引かれるような足取りで離れて司令部を後にする潤……独りになると、佐伯は顔を上げて虚空をにらみ、そのまま固まってしまいそうなほどこぶしを強く握った。密かにくすぶるジュリアへの想い……胸を黒く焼き、闘争に駆り立てる衝動――孤独な密室で瞑目し、佐伯は帰らぬ少女をまぶたの裏に浮かべた。