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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.45 逃避行(3)

 陰りを帯び、妖星がぎらつく西の空……暗さを増す峡谷をATVが徐行し、その後ろを歩くオートマトンが封印の手錠をはめられたユキトと紗季を鎖で引く。のたくり、波打つ小石だらけの道を進んだ一行はやがて開けた盆地に出、地面に影を伸ばすドーム屋根住居の一群を目指して坂を下った。

 

「あれが、コリア・トンジョクの集落……」

 

 紗季が、隣のユキトに目を向ける。

 

「――世界史の授業で見た遊牧民の家――ゲルとかってのに似てる……空間が揺らめいていないところを見ると、あそこはフェイス・スポットなんだろうね」

「ああ……」

 

 半ば上の空でうなずき、ユキトはATVのハンドルを握るユンの赤黒い背中をまた見つめた。頭の中で先刻の出来事――敵を憎むまなざし、向けられた銃口が繰り返しよみがえって鈍痛をもたらし、胸が苦しみにあえぐ。行いの数々をわびたいと思うも力が湧かず、囚人の歩みを続けるうちに集落に着いたユキトは待ち受けていた韓服姿たちの前で紗季ともども引き回され、最終的にパープルカラーの、ひと際大きい2階建てのドーム屋根住居――クォンの住居兼集会所の前に並んで立たされた。

 

「先程コネクトで知らせたように、ボクが捕まえたんだ。ハーモニー軍のヤツらをコテンパンにやっつけてね」

 

 ATVを降りたクォンがユンの隣でたてがみを振り回すように両手を大きく動かし、韓服を夕焼けで赤黒く染めながら拘束された2人を冷ややかに囲むファン・ヨンミ、ホン・シギやイ・ジソン等に得意顔で語る。

 

「――この2人はディテオを探しに出て、帰って来た。見つけられなかったらしいが、探索で得た情報をハーモニーに伝えていると思われる。――それを、ボクたちにもぜひ聞かせてもらおうか? じっくりとね」

「……やっぱり、こうなるのか……!」

「……あのね」嘆息する紗季。「あたしたち、何も知らないわよ」

「そうかい? まぁ、ちゃんと確かめてみないとね。なにしろ、ボクらは敵に前族長たちを殺されているんだ」

「えっ?」

 

 耳を疑い、ユキトと顔を見合わせた紗季は、唇をうろたえさせた。

 

「……いつの間にかリーダーが代わってたから、どうしたんだろうとは思っていたけど……まさか……」

「そのまさかさ」口角が、にいっと曲がる。「キム前族長とチュ・スオ、オ・ムミョンは、佐伯たちに殺されたんだ。ハーモニーを離脱するときにね。ボクはその現場を確かに、ばっちりこの2つの目で――」これ見よがしに見開き、指差されるつり目。「――見たんだよ。だから、自衛のために知るべきことを知っておかないと。――ユン」

 

 あごをしゃくられたユン・ハジンは唇を真一文字に結び、手錠とつながる鎖をオートマトンに握られる2人に近付いてK5を構えた。

 

「しょ、正直に話すんだ! ディテオに関して知っていること、すべて!」

「知らないって言ってるじゃない」と、紗季。「王生君、こんなこと似合わないよ」

「似合うかどうかなんて……強くならなきゃ、ひどいことされるばかりなんだ……! だから……!」

「こうやって脅すのが、強いってことなの?」

「……ぼ、ぼくは……」

「ユン!」

 

 クォンが腕組みし、黒カプシンを履いた足で地面を鳴らす。

 

「――もたもたするな! お前の決意のほどを示せ! 先にそっち、斯波ユキトに見せてやれ!」

「は、はい」

 

 ユンは狙いを定め、微かに震える指をトリガーにかけた。

 

「!……」

「さ、さあ、洗いざらい吐くんだ! ハーモニー軍に教えたのと同じことを……!」

「――知らないって、言ってるだろッ!」

 

 鼻先の銃口に逆なでられ、ユキトは感情のまま吠えた。黄昏が濁って黒ずみ、盆地を囲む尖った稜線やドーム屋根住居、コリア・トンジョクメンバーの影が色濃くなっていく中、暗いまなざしでにらみ合う少年たち……

 

「クォン族長」ファン・ヨンミが細眉の根を寄せる。「それくらいにして下さい。ワタシたちには、彼らの力が必要なのですから」

 

 その発言を機に、メンバーが視線を交わし合って包囲が弱まる。すると、クォンは一転にこやかになって差し伸べる形に両手を広げた。

 

「分かっているさ。――いやいやすまなかったね、お2人さん。一応確認させてもらったまでさ。申し訳ない。――おい、外してやれ」

 

 命を受けたオートマトンが鍵で手錠を外し、両名を解放する。跡が残る黒い右手首をさすったユキトはK5を胸に抱えて後退するユンに口をもぞもぞさせたが、その前にクォンが立って薄紫の袖を振り振りしゃべり出す。

 

「さ、これでいいだろう? それじゃ、これからは手を取り合って佐伯たちと戦おうじゃないか。よろしく頼むよ」

「ぬけぬけとよく言えますね。――ね、斯波?」

「あ、ああ……」

「ひどいな。恩着せがましく言いたくはないが、ボクらはキミたちを助けてやったんだぞ? それは分かっているよね? それとも、連中に捕まるのを黙って見ていた方が良かったのかい? そうだとしても、キミらはもう助けられてしまった。つまり、借りができたってことなんだよ。ボクはそういうのにこだわるたち・・なんでね、ちゃんとお返ししてもらうよ?」

「……それは、もちろん感謝してますけど……あたしたちをハーモニー軍と戦わせるつもりなんですか?」

「つもりも何も、捕まりたくなければ戦うしかないだろ? ボクらは神聖ルルりんキングダムと一応同盟関係にある。そこにキミたちが加わってくれれば心強いよ。とくに斯波君、君には魔人のスーパーパワーがあるからね」

「クォンさん! 無理をさせたら、それだけつらくなるんですよ!」

「それは分かっているけどね、さっきの小競り合いでボクたちがこの辺りにいると知られてしまったからなぁ。遠からずぶつかることになるだろうね。ふふ、ま、キミたちには宿舎を提供するから、しっかり体を休めてくれ。――みんなも決戦に備えて英気を養っておくんだぞ」

 

 ユキトたちとコリア・トンジョクメンバーを笑顔で眺め、クォンは両手をパンと打ち合わせた。