REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.45 逃避行(2)

 

「斯波ユキト、篠沢・エリサ・紗季っ!」アイドリング音に混じって峡谷に反響する、梶浦の生真面目な声。「抵抗はやめなさい! 投降すれば、悪いようにはしませんっ!」

「いきなりグレネードをぶっ放しておいて、よくもそんなことが言えるなッ!」

「お前たちが逆らうからだろッ!」松川が、梶浦の隣でなじる。「その魔人の力でやられたけがの治療費とATVの修理費は、払ってもらうからなッ!」

「いい加減にしてよ、もう!」

 

 紗季がユキトの横に立ち、イジゲンポケットから出したブレイズウインドに矢をつがえる。

 

「――ほっといてよッ! あたしたちのことはッ!」

「そうはいきません。逃亡者を放置したら、ハーモニーの面目は丸潰れです」

「佐伯リーダーは、是が非でもお前たちを処罰なさるおつもりなんだ」と、すごむ松川。「わざわざ部隊を率いてこちらに向かっておられるんだからな! さっさと降参した方が身のためだぞッ!」

「嫌よ!――斯波、走れる? あたしが足止めするから、先に逃げて!」

「バカ言うなよ! そんなこ――ッ……!」

 

 軽いめまいに襲われ、ユキトの顔に走る亀裂。構えがぐらついたのを遠目に見て取り、松川が乾いた唇を舐める。

 

「今度こそやれそうですね、梶浦大尉。俺が、あの化け物を仕留めてみせますよ!」

「我々の任務はあくまで偵察。無理をする必要は――松川中尉ッ!」

 

 松川のグレネードランチャーがバスッ、バスッと榴弾を発射――避けるターゲットをかすめて岩肌に着弾、耳をつんざく爆音をとどろかせて石片を飛び散らせる。手柄を立てんとする松川はハンドルを左手で握り、右手のグレネードランチャーを刀に替えて急発進――紗季が放った矢を斬り落とし、加速して突っ込んで来た。

 

「――ふざけんなよッ!」

 

 怒鳴り、魔人のこぶしが光を引いて真っ向から迎え撃つ。振り下ろされた刃をはじく打撃――踏み込んだユキトはしかしまためまいに襲われ、崩れて流れた体を脇からザッと斬り付けられて転倒した。

 

「斯波ッ!――このおッ!」

「――痛ッッ!」

 

 近距離から矢が放たれ、バリアを貫いて松川の右肩に突き刺さる。勃発した小競り合いにやむなく梶浦たちも白刃片手にATVを走らせ、迫る――

 

「分からず屋ッ!――」

 

 メテオ・ライツ――弦が引かれ、宙で分身した光の矢が白い車体にドドドドッと突き刺さり、軍服姿を傷付けて勢いを鈍らせる。

 

「――走るよ、斯波ッ!」

「あ、ああ……」

 

 助け起こされ、紗季とエスケープを試みるユキトだったが、ATV相手では逃れられるはずもなく、すぐに囲まれてしまった。

 

てて……やってくれたな……」

 

 前に回り込んだ松川が右肩の矢を抜き、ポーションで傷を治す。

 

「――これも賠償に上乗せさせてもらうぞ! 覚悟しろッ!」

 

 刀を振りかざしてスロットルを回したとき、背後からの銃声――衝撃が松川を崩して転落させ、ドライバーを失ったATVがユキトたちの横を抜け、避ける軍服姿の前で崖に激突、破片を飛ばして横転する。

 

「あれは……コリア・トンジョクよっ!」

 

 ユキトたちが逃げようとしていた方角から、猛獣のごとく疾駆して来る3台の黒いATV――その先頭でハンドルを握る、薄紫のパジチョゴリの上に紫のベスト姿――クォン・ギュンジは松川を狙い撃ったスナイパーライフルをイジゲンポケットにしまうと、ハンドルを切ってズザザザザッッッとドリフトしながら敵が態勢を整えるより早く右腕を続けて振った。と、手から放たれた妖しい二筋の光がユキトたちの脇から白軍服姿に絡む。

 

「――〈アタック-ダウン〉と〈ディフェンス-ダウン〉ッ!」うなる梶浦。「全員リカバリー・ポーションで状態異常を治せッ!」

 

 だが、補助魔法の効果を打ち消す間も無くクォンの左右でイジゲンポケットが開き、精巧なモデル人形然とした身長2メートルの戦闘人形――オートマトンが10体、それぞれアサルトライフルを構えて飛び出し、急いで避難したユキトたちをよそに攻撃を開始した。

 先手を取られた梶浦たちに加えられる、激しい銃撃――弾丸はディフェンス-ダウンで弱ったバリアを貫通してヒットし、起き上がった松川の背中にめり込んで再び地面に倒す。

 

「――退却! 退却だッ!」

 

 叫んだ梶浦は仲間に松川を拾わせ、被弾しながらATVを走らせてゆがんだ峡谷の影に消えていった。

 助かった――崖を背に胸を撫で下ろしたユキトと紗季はオートマトンたちに銃口を向けられ、ATVを降り、人形たちの間を通って前に出て来たクォンとファン・ヨンミ、そしてこわばった顔でアサルトライフル〈K5〉の銃口を向けるユン・ハジンこと王生雅哉に威嚇された。

 

「偵察中に派手な爆発音が聞こえたと思ったら……久しぶりだね」

 

 薄笑い混じりにキツネ目を細め、クォンが自分の左横に立つユンにあごをしゃくって見せる。すると、ユンはK5を構えたまま一歩前に出、微かに震える銃身越しにユキトをにらんで声を引きつらせた。

 

「お、おとなしく両手を前に出せ! 2人ともだっ!」

「何……?」

「両手を出せって言ってるんだ! 従わないと、ひどいことになるぞ!」

「お前……!」

「や、やる気か? だけど、ぼくだっていつまでもやられてばかりじゃないからなッ!」

 

 精一杯吠えるその両目の奥によどむ恐れ……それを目にしたユキトはかつて闇の中で脅し、暴力を振るいかけたことを想起して言葉を失い、胸の前に上げていたこぶしをふらふら下げた。

 

「……斯波、言う通りにしよう」

 

 紗季が青ざめた横顔に言い、ブレイズウインドをイジゲンポケットにしまうと両手をそろえて前に出した。コンディションや戦力差を考えると、抵抗するだけ無駄だった。ユンから視線を外したユキトもそれに倣うと、オートマトンがそれぞれの前に立って長い鎖付きの封印の手錠をカシャッ、カシャッとはめた。

 

「悪いね、お2人さん。色々聞きたいことがあるんでね、一緒に来てもらうよ」

 

 にやにやするクォンはユンにK5を下ろさせ、手錠につながる鎖をオートマトンに引かれるユキトたちを連れてATVの方へ歩いた。