REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.44 不遜な進化(2)

 挨拶したクォンの映像が消えてウインドウが閉じると、青筋立てた北倉がテーブルを両手でバンッと叩く。

 

「まったく頭に来るヤツだッッ! あの韓国系めッッッ!」

「ロベー、そのテーブルは、マホガニー製でハイパーに高いのよ。バンバン叩かないで」

「あッ、もッ、申し訳ありませんッ、ルルりん……だけど、悔しいじゃないですかッ! あんなヤツにコケにされてッッ!」

「北倉さんの気持ちは分かりますが、オートマトンを100体前後有するらしい連中の力は侮れません。あれだけの数を購入するポイント、いつの間に稼いだのか……」

「こっちも買いたいけど、キャッスル建設に注ぎ込んで余裕が無いからね~ シャイロック金融からもかなり借りてるし~ あー、もっとポイントが欲しいなあ~」

 

 椅子の背にもたれてルルフがため息をつくと、鎌田がジト目をしっかり開き、真剣な面持ちで切り出した。

 

「……この数日ずっと考えていたのですが、ルルりんキングダムはターニングポイントにいるのではないでしょうか?」

「ん~? どういうこと?」

「今キャッスルにいるのは、一緒に離脱した百数十名のみ。遺跡に残ったメンバーは、結局ハーモニーを選んだ……その事実を、僕らは真摯に受け止めなければいけないと思います」

「……ふぅん。ごめんね、ルルの魅力が足りなくて」

「い、いえ、ルルりんを責めているんじゃありませんよ。これは、ブレーンである僕のプロデュース力が足りなかったため……そのせいでキングダムの収入は減ってしまいました。遺跡に残っているメンバーは、ポイントの流れを厳しく監視されているので寄付すら容易にできませんからね。この現状を踏まえ、ここからいかに飛躍するか、ハーモニーやコリア・トンジョクと渡り合う力を付けるのかを考えなければ」

「鎌田ッ、それでお前は何か考えたのかッ?」

「ええ。私見を述べさせてもらうと、今のキングダムに必要なのは、コミュニティそのものの魅力を高めることだと思います」

「魅力を――ってのは、ルルにもっとチャーミングになれってこと?」

「それも含めて、です。人心を今以上に引き付ける組織へのメタモルフォーゼ……それが実現すれば、もっとたくさんの人間が集まって大きなうねりになるでしょう」

「なるほどなッ! だけど、どうしたらそんなグレードアップができるんだろうなッ?」

「……いいこと思い付いた」

 

 目をぱっと輝かせ、ルルフはぴょんと立ち上がってパンッと手を打ち合わせた。

 

「――ルル、いいこと思いついたよっ! カマック、ロベー、今すぐみんなをバルコニーに集めて!」

「今からですか? 早い者は、もうベッドに入っている時刻ですよ?」

「いいから、いいから! サプライズだから! ほら、早く早くっ!」

 

 急かされるまま両名はコネクトで皆に指示し、両開きのドアを自らバンと開けて応接間を出るルルフの後を追った。広間に出、半円型エレベーターを背にしゃなりしゃなり歩きながらイジゲンポケットから出したヘッドセットマイクを装着、両開きドアとガラス戸とを鎌田たちに開けさせてベランダに足を踏み入れるルルフ――彼方で黒い地平がうごめく夜陰に躍り出て手すり際に立つと、眼下――4階バルコニーからライトアップされたベランダを見上げる数多の熱視線が集まる。

 

「みんなぁ、急に呼び出してごめんね~」

 

 白レースの手がきらきら振られ、マイクで増幅された甘々の声で形ばかりの謝罪が響くと、オリジナルTシャツ一色のルルラーたちからは「気にしないで下さい!」とか「何も問題ありません!」といった返事が、花火のようにドンドン上がる。そうしたリアクションにツインテールの天使は満面の笑みを浮かべ、光を帯びた両手を翼状に広げ、高く掲げた。

 

「突然だけど、ルルはたった今から『神』にハイパーレベルアップします! これからは天使じゃなくて女神――〈ゴッデス・ルルフ〉でーすっ! それに合わせてコミュニティ名も〈神聖ルルりんキングダム〉に変更しちゃいます! ルルとみんなの衣装も一新するから、楽しみにしててねー!」

 

 天啓さながらに声が響き渡ると、地鳴りに似たどよめきが起き、大陸隆起の鳴動に匹敵する興奮が沸き上がってたたえる。ツインテールの魔に魅入られた者たちの瞳は、少女の姿をした神のまばゆさにくらんでいた。

 

「……さッ、さすが、ルルりん――いや、ゴッデス・ルルフ様ッッ! 恐れ入りましたッッッ!」

「……ご自身とコミュニティにはくを付けて求心力を高め、メンバーをより激しく熱狂させる……すばらしいです……」

 

 ひざまずいたコンビを振り返ってニコッと笑うと、光り輝くツインテールの神はしもべたちを見下ろして万雷の拍手を全身に浴びた。