REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.44 不遜な進化(1)

 

 ――僕たちがルルりんと遺跡を脱出し、ヘブンズ・アイズで事前に見つけていた北西30キロ地点のフェイス・スポットに腰を落ち着けて3週間……佐伯修爾率いるハーモニーに対抗するため、ルルりんキングダムは遺跡南西に新たな拠点を構えたコリア・トンジョクと同盟を結ぶことになった。だが、コリア・トンジョクの族長クォン・ギュンジは油断ならない相手……この世界で生き延びるには、今以上に力を付けなければいけない……それには、いったいどのような方策があるだろうか? 

[鎌田キヨシ テンペスト・ライフ 283日目のライフログより抜粋]

 

 コンコルディ遺跡から北西に約30キロ……周りにいくつもの林をはべらせ、ライトアップされて夜に白輝はくきの威容を浮かび上がらせる大理石のピラミッド――〈ルルフキャッスル〉。地上10階、地下――駐車場及び監房――1階の巨大建造物は、ルルフとルルラー百数十名の共同住居。シャイロック金融から融資を受け、StoreZのダイダロス組にデザインを伝えて建造依頼するや、草原に蜃気楼しんきろうのごとく出現したピラミッドは、1階から3階にシルバークラス、バルコニー付きの4階と5階にはゴールドクラス、6階にはプラチナクラスの鎌田と北倉が居住し、応接間と会議室、広間とベランダがある7階を挟んでその上の階すべてがルルフのプライベートスペースになっている。

 そのピラミッド7階の応接間――ロリータスタイルのルルフは猫チックな椅子に座ってなまめかしい足を組み、自分の右斜め、左斜め前に座るオリジナルTシャツ姿の鎌田・北倉コンビを従えて、ロココ調テーブルの上に開いたウインドウに映るクォン・ギュンジを見据えていた。

 

「クォン族長」

 

 鎌田がテーブルの上で両手の指を組み合わせ、細めたジト目でにらむ。

 

「――先日の一件……ぼくたちのテリトリー内にある南南西の森でまたあなた方が狩りをし、それを発見したルルラーとの間で起きた衝突でけが人が出た件について、どう責任を取るおつもりですか?」

『責任? はは、ひどい言いがかりだなあ。冗談きついよ。すごくね』

 

 紫のチョゴリの上に薄紫のベストを着たクォンはにやにや笑い、冷ややかなルルフと真っ赤な顔で鼻の穴を膨らませる北倉を一瞥してから切り返した。

 

『――あの辺りは、元々ボクらの狩り場だったんだ。勝手に自分たちのものにしないでもらいたいね。まったく、ずうずうしい』

「貴ッ様ァァッッ! ふざけたことをォォッッッッ!」

「ロベー、お座り」

「はッ、はいッッ、ルルりんッッッ!」

 

 テーブルを叩いて立ち上がった北倉を座らせると、ツインテールの天使はレーストリムグローブをはめた左手で胸元にかかるブロンドを軽くいじり、身を乗り出してシロップドバドバ的な甘ったるい声を出した。

 

「意地悪しないで下さいよ~ 族長さ~ん。 ハーモニーと戦う仲間同士、仲良くしましょうよ~ ねぇ~?」

『キミの言う通りだね、高峰リーダー。つまらない縄張り争いは、ボクとしても本意じゃない。どこまでがどっちなんてケチなことは言わず、仲良くやろうじゃないか』

「クォン族長! ルルりんは、テリトリーを荒らすなと言ってるんです!」

『鎌田君、それじゃまた振り出しだよ。らちが明かないから、この件は棚上げにしておこう。それとも、これを理由に同盟を解消するかい? それは、決して賢い選択じゃないと思うけどなあ。キミらにとって』

「それは、そちらも同じじゃないんですか? コリア・トンジョクだけで、佐伯率いるハーモニーに対抗できると考えている訳じゃないでしょう?」

『まさか。オートマトンを購入して頭数を増やしたとはいえ、ボクらだけじゃとてもかなわないさ。だけど、うちは少人数な分、身軽だからね。いざとなったら拠点を引き払って身を隠し、しぶとく戦うよ。だけど、キミらはそうもいかないだろう? 白ピラミッドをイジゲンポケットにしまって逃げるとしても、玉石混合のメンバー百数十人を連れて目立たず移動するのは難しいだろうからね。ハーモニー軍の攻撃を受け、追撃されてボロボロになるのが目に見えるよ』

「この野郎ォッッ! バカにしやがってェッッッ!」

 

 噴火して立ち上がる北倉を目の端にとらえ、ルルフは結んだ赤い唇の裏でギリと歯をかみ締めた。カリスマレベルアップに比例して魅力は高まっていたものの、まだクォンを操れる域ではなかった。

 

「……ロベー、お座り。――クォン族長、ルルとしてもせっかくの同盟を壊したくはありませんから、この問題は取りあえず脇に置いておきます。だけど、いずれ必ず決着はつけますからね」

『怖いなあ。ふふ……ところで話は変わるけど、斯波ユキトの行方について、そちらで何かつかんでいないかい? ステルス・モードにしているみたいでどこにいるのか分からないし、コネクトにも応答しないんだけどさ』

「知りませーん。断っておきますけど、ユッキーはうちのメンバーですからね」

『大きな戦力になるからこだわるのは分かるけど、どこにくみするかは彼が決めること。個人の意思を尊重しないとね』

「ユッキーが、コリア・トンジョクの仲間になると?」

『さあ? ま、まずは彼を見つけないとね。では、話も済んだことだし、今夜はこれで失礼するよ。――』