REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.43 黒い力(4)

 夜気を震わす、鳥獣の奇怪な鳴き声――耳を打たれ、まぶたをぴくつかせたシン・リュソンは薄く開いてのしかかる闇をぼんやり見た。どす黒い黒雲の層……悶え、ねじれて引きつったように枝葉を伸ばし、茂らせる木々を飲み込んで流れる泥状の闇……下生えの上で仰向けのずたぼろをとらえた、深海の底に沈んでいる錯覚……

 

「……」

 

 投げ出されていた右手が、のろのろ這いずる……後ろ手に拘束していた封印の手錠は、もう無かった。佐伯のリンチから逃れて森の奥へ走り、出くわしたリュ・パスに深手を負わされながら斧状の角で巧みに手錠の鎖を断ち切ったシンは、襲い来るモンスターと死闘を続けながら異次元を思わせる闇の奥へ、奥へと流されていた。

 

「……」

 

 奇妙な気配を感じてごろりと横を向き、一寸先も見えない闇を見据えながら起き上がる……傷だらけ、血まみれの頬や首に寒気が走り、Vネックの半袖Tシャツから出た腕にゾワッと鳥肌が立つ。瀕死さながらの動きで立ち上がり、ずたぼろのカーゴパンツとサンダルをはいた足で前のめりの体を支え、ライトンを起動させる――

 

「……!」

 

 妖魔の舞踏会を思わせる森の揺らめき……その中に黒い塊――高さ6メートルに達する巨岩のような物体が浮かび上がる。それはライトンの光に刺激されて動き出すと、ガサガサ、バキバキッと枝を折り、ベキベキィッと幹をへし折って上へ、左右へと膨れた。

 

 黒い巨獣――

 

 巨樹の幹並みに太い足で巨体を支え、筋肉が異様に盛り上がった両腕から象をわしづかみにできるほどでかい手を生やす、全長10メートル強ある毛むくじゃらの怪物――それは、跳ねた尻尾で地面をドォンッと打つと両手で邪魔な木々を次々折ってズンッ、ズンッと前進、闇が牙をむいたようにも見えるほど口をばっくり裂けさせ、はしゃぐエンジン音に似た重いうなり声を響かせた。

 

「……ンだ、このデカブツ……!」

『〈ニガ・モーズ〉です。おめでとうございます』

 

 ぼさぼさ髪の数メートル上――黄金の光球がフッと現れ、暗闇できらめく。

 

『――あなたはラッキーです、シン・リュソン。ニガ・モーズはレアモンスター。宝くじの一等が当たる確率でしか遭遇できません』

「……だから、どうだってんだ……!」

 

 うめくようにつぶやき、虚無的にゆがんだ顔が皮肉っぽく引きつる。

 

「……なにか、いいコトでもあるってのかよ……!」

『はい。あなたの望みをかなえるチャンスです』

「……あ?……」

『破壊。それが、吉原ジュリアを失ったあなたに唯一残るもの。違いますか?』

「!……」

『ニガ・モーズを倒すと、レアアイテムが得られます。それは、あなたに大きな力を与えます。世界を相手にできる力を。手負いのあなたではほとんど勝ち目はありませんが、命をかけてみますか?』

「……おもしれえ……」

 

 うなり声を高めて闇の森をガタガタ震わせ、流動を波立たせる巨獣を見上げたシンは出現させたバイオレントⅣを右手で握り、破滅的な笑みを浮かべて構えた。その周りをアサルトライフルやグレネードランチャー、対戦車ロケット弾といった銃火器がごてごて囲む。

 

「……ぶっコワしてやるよ、ナニもかも……ッ!――」

 

 呪いを吐き、シンは特攻をかけるごとく駆け出してトリガーを引いた。