REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.43 黒い力(3)

「何だ、シャルマ少尉」

「そんなヤツ、リーダー自ら手を下す必要はありません。ボクにやらせて下さい。お願いします!」

「ちょっ、ジョアン、あんた、何言ってるの?」

「ボクは、そいつに恥をかかされた。その雪辱を果たしたいんだ」

 

 ジョアンは拘束されているルルフをちらっと見、ユキトをにらんだ。

 

「……ジョアン……やっぱり、あのときのことを……」

「男のprideがかかっているんです! お願いします、佐伯リーダーッ!」

「いいだろう。見事恥をすすいで見せろ、ジョアン・シャルマ」

「ありがとうございますッ、佐伯リーダーッ!」

 

 佐伯は兵士たちを動かし、ユキトたち3人をぐるりと囲ませた。その輪の中でユキトはこぶしを僅かに緩め、胸苦しさを覚えながら相対するジョアンを見つめた。

 

「……本気なのか……?」

「当然だろ。fearしたのか?」

「やめてよ、ジョアン! 何こじらせてんのよっ?」

「何もこじらせてなんかいない。これは、傷付いた誇りをrecoveryするためなんだっ!」

「……離れてろ、篠沢……」

 

 身構えて全身に光を帯びさせると、ジョアンは両手を軽く広げて深く呼吸した。と、その軍服姿の左右にラクビーボール大の、妖精の巻貝とでも形容すべき物体が二つずつ――計4体が『殻頂』をターゲットに向けて浮かぶ。

 

「これは、新たに覚醒したスペシャル・スキル〈フェアリー・スネイル〉だ! 行くぞッ!――」

 

 叫ぶやいなや『巻貝』がアクロバット、ジグザグとトリッキーな飛行をギュンギュン始め、構えを向け、頭を巡らせて目で追うユキトの死角に回った1体が『殻頂』からボッと火球を放つ。

 

「――くッッ!」

 

 背中への一撃――バリアで軽減されてなお火球――ファイヤー・ブリッドは、スウェットシャツを焦がしてその下の皮膚を軽く焼き、焦げ臭さで鼻を突いた。熱傷にうめいてつんのめったところへ他のフェアリーが素早くたたみかけ、連続する火球の衝撃がスウェット姿をどんどん焦がして前後左右に揺らす。

 

「――best conditionじゃないからって手加減しないぞ! 恨むのなら、調子を崩している自分を恨めッッ!――」

 

 ジョアンの前方に炎に包まれたフェアリーがサッと集結――大車輪のように回転して炎の輪を成し、身構える相手めがけて一斉に飛び出して一つの炎塊になる。膝を抱えて丸まった人間大の火炎球は迎撃する黒いこぶしと激突して競り、はじいてユキトの光る胸に炸裂した。

 

「――ぐぅおわァッ!」

 

 のけぞって後ろに倒れ、頭と背中を地面にしたたか打ちつけて――悶え、うめいて起きる体は、胸から上腹部にかけてスウェットシャツと皮膚が黒く焼け焦げ、べろりとむけている。体がずしりと重く、時折めまいが不意打ちしてくるとはいえ、仮にもデモニック・バーストしたパワーに競り勝ち、バリアを破ってこれほどのダメージを与えてくるのは、ユキトには予想外だった。

 

「やめなさいよ、ジョ――!」

 

 たまらずブレイズウインドを出した紗季の右肩に弾丸がヒット、矢がタブをはめた右手から地面に落ちる。痛みに顔をしかめて右腕を垂らす紗季の視線は、ハンドガンを構えた潤の冷酷な目とぶつかった。

 

「……加賀美さん……!」

「邪魔はさせないわ。――やるなら早くやって、シャルマ少尉」

「OK……――ポーションなんか使わせないぞ、ユキト。恥をかかせてくれた報いを受けろッ!」

「――ッ!」

 

 フェアリーを包む炎がボオッと火力を増し、ユキトのところまで伝わる熱が汗だらだらの顔をジリジリ焼く。

 

(――このままじゃ――ッッ――)

 

 アクセルをドンと踏み込むごとく飛び出し、急加速する前のめりのスウェット姿――炎のフェアリーたちが迎撃にかかろうとするより早く、ユキトはアンダースローのフォームで地面に黒いこぶしを放った。

 

「――Ohッッ?」

 

 こぶしが地面を削ってフェアリーの間から土を飛ばし、ジョアンの目を一瞬くらませてコントロールを乱す。その隙にユキトは跳び、鈍い動きの1体を思いっきり横――兵士の囲みへ殴り飛ばした。

 

「――走れッ、篠沢ッ!」

 

 叫び、ユキトはパニクったように火を噴くフェアリーに慌てるところへ突っ込むと、光が燃える右こぶしで連打した。ブレイキング・バッシュ――こぶしの流星群が兵士たちを殴り飛ばして突破口を開いたとき、それに気を取られた中塚に北倉が背中でドッと体当たりして逃れ、間髪入れずに筋肉質の体を入谷にぶつけてルルフの手錠をつかんでいた手を放させる。自由になったルルフが兵士の囲みを脱兎のごとく抜けてルルラーの群れに飛び込むと、それをきっかけに彼女を守ろうとするルルラーと取り戻そうとする軍が衝突――軍事務所前は、二つの大波が砕き合ってしぶきを飛ばす争いの巷と化した。その混乱に助けられたユキトは紗季と広場を突っ切って石壁の名残を飛び越え、住宅地域に飛び込んでプレハブハウスの間を全速力で駆けた。

 

「――遺跡を出るぞ! 付いて来れるよなっ!」

「もちろんよ。あんたこそ、体は大丈夫なの?」

「それどころじゃない……! とにかく逃げ切らないと!」

 

 肉体のエンジンフル回転――2人は住宅地域を西に抜け、石垣が崩れて坂になったところを駆け下りて真っ暗なフィールドに出ると旅でも役立った暗視スコープを装着し、小石を蹴りながら黒い岩石砂漠をひた走った。逆方向に走っていれば森に逃げ込むこともできたのだが、あいにく東側は警備隊事務所が塞ぎ、南側にはジョアンがいて、フェアリーを蹴り飛ばして突破口を開いた西側に無我夢中で走った結果なので後悔しても仕方なかった。

 

「――はぁ、はぁ……――んッ?」

 

 微かなうなりに振り返ったユキトの目に飛び込む、闇でぎらつく獣の目然とした光の揺らめき――うなり声を響かせてぐんぐん距離を縮めるそれらはやがてヘッドライトの正体を現し、ATV6台が土煙を上げてグオオッッとユキトたちの左右に回る。そのうちの1台には、ハンドルを握る佐伯の姿があった。

 

「――斯波、前ッッ!」

 

 十数メートル前に躍り出た1台の後部に立つ、長い髪をなびかせる影――起動させたライトンでそれを照らしたユキトは、細い眉を凄絶につり上げた潤が八相の構えを取るのを見て、脳天を割られたようなショックを受けた。

 

「――じゅ、潤――うわッッ!――」

 

 動揺で足がもつれたユキトが地面に突っ込み、紗季が急停止して駆け寄るのと、仲間が運転するATVから潤が跳んだのは、ほぼ同時――

 

 斜めに振り下ろされる白刃――

 目を見開くユキト――

 やめてと叫ぶ紗季――

 

 三者の意識が激しく交錯したそのとき、突如発生した爆発さながらの波動が手から刀を消して潤を紙屑のようにふっ飛ばし、左右のATVを衝撃波であおってドン、ドンッッ――と横転させる。

 

 黒い光の狂乱――巨大な手で一帯を凶暴にかき乱すがごとき嵐――

 

 数分、あるいはそれ以上に渡った激動がようやく収まり、流動もろとも飛ばされないように地面に伏せていた佐伯たちが顔を上げてライトンを巡らせたとき、辺りにユキトと紗季の姿は見当たらなかった。