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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.42 青い鳥(4)

「――聞かれたことにちゃんと答えなさい!」

 

 いら立つ潤の声が4畳半ほどの取調室に響き、向かい側にうつむいて座るエリーがいっそう体を縮める。向かい合わせた机越しに取り調べる潤――その斜め後ろには佐伯が腕組みをして立ち、峻嶮しゅんけんな顔付きでやり取りをじっと見つめる。私服のエリーと白い軍服姿の図は、経緯を知らない者が見たら街頭で補導された少女が事情聴取されているようにも見えるだろう。

 

「……知っていることをすべて話しなさいと言っているの」

 

 佐伯を気にした潤は顔のしゅを薄くし、自分の左側に浮かんでいるボイスレコーダーアプリ――ミミがーを横目でちらっと見て視線を戻した。

 

「――例えディテオを見つけられなかったとしても、赤い星を追っているうちに何か気付いたことがあるでしょう?」

「……に、新田さんは、どうしているんですか……?」

「また、それ……!」

 

 机上の右手をこぶしにする潤にエリーは顔を上げ、おずおずと言った。

 

「……そろそろ、おトイレの時間なんです……もじもじするのがサインなんです……だから――」

「そんな話をしているんじゃないの!」

「だ、だって、に、新田さんは……新田さんは1人じゃ何も……わたしがお世話しないと……」

「あなたね、頭の中にはそれしかないの?」

「加賀美」

 

 佐伯が腕組みを解いてたしなめ、厳しい表情のままエリーに近付いて斜め上から見据える。

 

「新田氏の面倒は部下に見させている。今のところはな」

「い、いつになったら、ここから出してくれるんですか? 新田さんのところに行かせてくれるんですか?」

「……自分は、彼を死なせてやろうかと考えている」

「えっ! な、な、何を言っているんですかっ?」

「君は――」

 

 佐伯は再び腕を組み、辛辣な口調で言った。

 

「――生けるしかばねのような状態で生き続けることが良いと思うのか? 己の執着や自己満足を抜きにして」

「あ、当たり前じゃないですかっ! 新田さんは生きているんです! 生きているんだから、生きなきゃ! そ、それに、わたしは新田さんをリアルに戻してあげたいんですっ! 奥さんや赤ちゃんがいるところに帰ってもらいたいんですっ!」

「アストラルがあんな状態では、リアル復活してもおそらく植物状態だぞ?」

「そ、それでも、やらなきゃ――わたしが、やらなきゃいけないんですッッ!」

 

 涙ぐみ、裏返った声で叫ぶエリーに潤は閉口し、佐伯は唇を結んだ。人見知りで、内気で、いつも新田の陰に隠れていた少女が、これほど激しく感情をあらわにするのは初めてだった。

 

「……気持ちはよく分かった。こちらの要求に応えてくれるのなら、君と彼を自由にすると約束しよう」

「ほっ、本当ですか?」

「コミュニティ・リーダーの名誉にかけて誓おう。だから話してくれ。どんな些細なことでも推測でも構わない。君が赤い星を追っている間に気付いたこと、すべて」

「……わ、分かりました」

 

 エリーは真剣に見上げてごくっと唾を飲み、一呼吸間を置いてためらいがちに唇を動かした。

 

「……青い鳥って童話、知ってますか?」

「知っている。下の妹が、小さい頃よく読んでいたからな。探していた青い鳥は、自分たちのすぐそばにいたという話だろう?」

「そうです……」

 

 僅かに逡巡、そして、これはあくまでも自分の推測に過ぎないと前置きがされる。

 

「……わたしたちは赤い星を目印に旅をし、その結果遺跡に戻って来ました……これって、青い鳥の話と似ていると思うんです。つまり、その……黒い十字架を持つモンスターは……この遺跡にいるのかもしれません……」