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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.42 青い鳥(3)

TEM†PEST

 まるで、冷たい沼に沈んでいるかのようだった。

 掃き出し窓に引かれて乏しい陽を遮るカーテン、呼吸をするほど胸に影が蓄積していくような部屋、ローテーブル越しに鋭く見据える軍服姿の矢萩あすろともう1人の将校――梶浦翔一。自宅の薄暗いリビング――ソファに座らされた上下スウェットのユキトは、グレーの太ももの間に手錠がはまった手を挟み、黒ずんだテーブルにすり減ったまなざしを落としていた。

 

「何遍言わせるんだ、斯波」腕組みした矢萩がいらつく。「お前たちが得たディテオと黒の十字架に関する情報を残らず吐け」

「だから、何も知らないんですって……昨日から、ずっとそう言ってるじゃないですか……!」

 

 上目遣いでくすぶるように答える相手にため息をつき、矢萩はメガネ男子の梶浦に目をやった。

 

「斯波君……」梶浦が諭す。「我々が恐れるのは、君たちのつかんだ情報を野心家や小悪党どもが先に知ることなんだ。連中が我々を出し抜くようなことがあったら、取り返しのつかないことになりかねないんだよ」

「逆にこっちが先に情報をつかんで動けば、クズどもを二度と反抗できなくすることだってできる。黒の十字架にはとんでもない力があるそうだからな。お前、ハーモニーの平和と安定のために素直にしゃべろうとか思わないのか?」

「知らないって言ってるでしょう……! そんなに必死になるんなら、どうして僕たちだけで行かせたんですか?」

「佐伯リーダーは、お前らに期待していなかったんだよ。けど、こうして戻って来たら、色々取り調べるのは当然だろう?」

「だから、全部話したじゃないですか! モンスターと戦いながらひたすら西に進んで、新田さんがあんなことになって……いつの間にか遺跡に向かって歩いていた……それだけですよッ!」

 

 声を荒らげ、左右のこぶしを固めるユキトに梶浦は迷いをにじませたが、矢萩は眉間のしわを深め、いら立ちで目をいっそう尖らせた。

 

「矢萩大尉、彼の言っていることは本当なんじゃ……」

「どうかな……」

 

 腕組みを解いた矢萩はイジゲンポケットから出した日本刀・虎狼ころうを握り、ぎょっとする梶浦に目を滑らせ、手錠がはまった異形の右手を見下した。

 

「――こいつは、この醜悪な右手からどんどん人間じゃなくなっている。そんなヤツの言うことを簡単に信用はできないな……――」

 

 軍服姿がローテーブルの横に回ってユキトの鼻先に切っ先を突きつけ、唇で赤い下弦の月を作る。

 

「脅しじゃないぞ。星をひたすら追っていただけだとしても、何か気付いたことがあるはずだ」

「……だから、何も――」

 

 切っ先がすっと下がり、刃が右太ももにズグッと突き立てられる。うめき声を上げ、血の染みが広がる太ももを押さえる様を見ながら矢萩は手首をひねり、傷をえぐった。

 

「や、矢萩大尉……!」

「心配するな、梶浦。ポーションを使えば傷も衣服も元通り。大事にはならないさ。――」

 

 刀を引き抜いた矢萩は痛みに震えるスウェットパンツで刃の血を拭い、左手に出したポーションの蓋を外して傷にかけ、蛮行の跡を取りあえず消した。

 

「ほら、もう痛い思いはしたくないだろ? 言っておくが、ここは周りに何も無い不整地地帯のど真ん中だし、詰所にいるヤツらには多少声が聞こえても気にするなと言い含めてあるからな」

「……こんなこと、篠沢たちにもやっているのか……?」

「さあな。あっちはあっちのやり方でやっているんじゃないか? こっちはこっちのやり方でやらせてもらう。さ、正直に話せよ……!」

 

 醜く微笑し、矢萩は顔をそらした梶浦の横でうっすら汚れた切っ先を再び向けた。