読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.42 青い鳥(2)

「……それで、どうしてこんな夜更けに僕らを呼び出したのですか? ここは、軍に見張られているんですよ?」

 

 白ローテーブルを挟んで鎌田は北倉と顔を見合わせ、並んだアーチ型窓に引かれた艶めくカーテンの向こうを気にして尻をもぞもぞさせた。羽根柄ソファに座る彼等オリジナルTシャツ姿の上座では、カーテンを背にしたツインテールの天使が扇情的な脚を組んでアームチェアにふんぞり返り、定番のロリータ・ワンピース姿をルルフパレス1階応接間天井のシャンデリアの光で燦然とさせていた。

 

「気合を入れるためよ。プラチナクラスのあなたたちに」

「気合ですかッ、ルルりんッッッ! 分ッかりましたッッ! どうぞやって下さいッッ! ビンタでもパンチでも思う存分ビシバシとォッッッ!」

「今日昼過ぎ、ユッキーたちが軍に連行されて来たでしょ」

 

 ヒートアップを無視してルルフは鎌田に振り、その後の動きはどうなっているのかと尋ねた。

 

「はい。軍にいるルルラーからの情報によれば、篠沢・エリサ・紗季と葉エリー、新田前リーダーは軍事務所――旧警備隊事務所地下留置場、斯波ユキトは不整地地帯にある自宅で取り調べを受けているそうです」

「黒の十字架について、何か得られたっぽい?」

「今のところ、これといった情報は得られていないようです。彼らの探索は無駄骨折りだったのかもしれませんね」

「まったく訳が分からないなッ。赤い星を目印にして旅を続けたんだろうにッ」

「謎なら、取りあえず置いておくわ。分からなければ誰も手にできないんだから。それよりも……また一騒動起きそう――っていうか、起こせそうなにおいがするのよね~ コリア・トンジョク離脱事件並み、あるいはそれ以上のがドッカーンと」

「あの事件並みの、ですかッッ?」

「そう。あのときは失敗だったわ。騒ぎに乗じて逃げ出していれば、こんな生活も終わりにできたのにさ。だから、今度はチャンスを逃さない。遺跡からさよならして、他のフェイス・スポットを見つけてそこに拠点を構えてやるわ。そのときが来たら、ツートップのあなたたちにはみんなをしっかりリードしてもらうわよ」

 

 レーストリムグローブをはめた手でググッと肘掛けをつかんで身を乗り出し、ルルフは鎌田と北倉を妖しく潤む双眸で交互に見つめた。チャームが瞳を通じて両名をさらに深くとりこにし、半開きになった口から熱くとろけた吐息を漏出ろうしゅつさせる。

 

「お、お任せ下さいっ! 僕たちルルラーは、ルルりんのために粉骨砕身働きますよっ!」

「そうですッッ! 一致団結して軍でも何でもやっつけてやりますよッッッ! うおおおおッッッ!」

 

 にんまりしてルルフはアームチェアの背もたれに寄りかかり、胸元にかかるブロンドの流れに指をゆったり泳がせた。大事に先立って呼び出し、恍惚に誘う芳しいフェロモン、天上のメロディさながらの甘い声、あがめずにはいられない麗姿をもっていっそうがんじがらめにしようというもくろみは、見事に果たされていた。

 

「――2人とも、これからもルルのためにハイパーに頑張ってねぇ~」

「もちろんです! ハイパープリティ、ルルりんっ!」

「ハイパープリティッッッ! ルルりんッッッ!」

 

 熱狂者たちが右手を高く挙げて敬礼したとき、玄関前で言い争う声が飛び込んで来る。見張りに立っているルルラーと誰かが押し問答をしているのだ。強引に玄関ドアを開けて踏み入る音に鎌田と北倉が腰を浮かすと、応接間に軍服を着たジョアンがずかずかと入って来た。

 

「シャ、シャルマッッ! 勝手に足を踏み入れるなんて無礼だぞッッッ!」

「そ、そうだ! 裏切り者の分際でっ!」

「Shit upッ!」

 

 いきり立つコンビを一喝し、ジョアンは胸を張って白い軍服を見せつけた。

 

「――ボクに手出しをしたら、公務執行妨害で引っ張るぞっ!」

 

 歯ぎしりする鎌田たちをふんと鼻で笑うと、ジョアンは悠然と座り続けているルルフを斜に見て結んだ唇をねじり、濃い眉をグッとひん曲げた。

 

「……見張りから不審な動きがあると聞いて来てみれば……こいつらとどういうwilesを考えてるんだ?」

「関係ないでしょ、ストーカー」

「ほっ、What?」

「追放された腹いせに寝返って、ルルの周りをうろつくキモいヤツ。顔を見るのさえハイパー不愉快なんだから、さっさとどっかに消えちゃってよ。シッシッ」

「そうだ! 僕たちはルルりんの顔を見に来ただけで、何もやましいことなんかしていない! 君はルルりんに相手にされたくて難癖を付けているんだろう? とことんみっともないなっ!」

「そうだッ、そうだッッ! 情けないヤツめッッ! 恥を知れッッッ!」

「ふふん、この場で土下座して泣いて謝るんなら許してあげることを考えなくもないけど? どうする、ストーカー?」

「……バっ、バカにするなッ!」

 

 褐色の顔が怒りでゆがみ、激する。

 

「――ボクは警告しに来たんだッ! もしおかしなことをしたら、こんなコミュなんかすぐに潰されるんだからなッ!」

「はいは~い。それじゃ、とっとと帰って。もう二度と顔を見せなくていいからね~」

「……キ、キミは、いつまでこんなことを続けるんだ……! 改心しようと思わないのかっ?」

「うるさいなあ! いつまでもごちゃごちゃ言ってると、ひどい目に遭わせるよ!」

「早く出て行け! 権威を笠に着るのもいい加減にしろっ!」

「ルルりんをいじめるヤツは、何者だろうと断じて許さないッッッ! ぶち殺してやるぞッッッ!」

 

 今にも飛びかからんばかりの鎌田と北倉にジョアンは後ずさり、胸をナイフでめった刺しにされたような顔でルルフをにらむと、応接間を飛び出して玄関から走り去った。

 

「まったくろくでもないヤツですね! あんなのがルルりんのそばにいたなんて悪夢ですよ!」

「ホントよ。今すぐにでもハーモニーを離脱したくなったわ」

「お気持ちは悶絶するほどよく分かりますッッ! 早いところ自由になりましょうッッッ!」

「そうだね……手を考えてみるから、カマックとロベーも頭をひねってよ。くれぐれも軍にこれ以上怪しまれないようにね」

「はいッ!」

「了解しましたッッ、ルルりんッッ!」

「うん。それじゃお開きにしよっか。監視の目があるからね」

 

 意気込む鎌田と北倉を帰らせ、ルルフは応接間で座り続けた。外には警備に当たっているルルラーがいるが、ルルフパレス内には彼女以外誰もいない。

 

「……ふん、マジでうっとうしいヤツ……! あたしの邪魔は誰にもさせない。もっともっともっともっとポイントを手に入れてやるんだから……!」

 

 地を出してひとりごち、ルルフは夢見る瞳をシャンデリアの光できらめかせていやらしく唇を緩めた。