REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.40 畜生(1)

 荒々しく波打ち、逆巻く黒髪――深緑にひらめく潤の白刃が外骨格もろとも左腕を断ち、腹部を斜めに切り裂いて化け物ナナフシ――ア・ギスウにとどめを刺す。鋭く磨かれた瞳をきらめかせ、暗緑色の枝葉の間からのぞく昼下がりの曇天へのぼる光のちり――その周りでも散弾がぶち込まれ、刃が振り回されてばたばたとア・ギスウが倒れ、うっそうとした辺りを束の間照らして消えていく。

 

「ふう……」

 

 モンスター全滅に安堵の息をつき、汗だくの城木シゲルがアサルトライフルを下ろして「やっぱり警備隊は頼りになるなあ」と、黒髪の流れを手で整える潤を褒める。本日非番の潤は隊服ではなく、聖奏学園のものとは別の白いブレザーを着て、グレーのミニスカートと黒タイツ、ブラウンのローファーと合わせていたが、氷の華のごとき冷艶さは変わっていなかった。

 

「――マジで助かりますよ。ベーギャラの支給額が引き下げられて、なもんで」

「ホントですよ~」近江おうみみちるが、猫なで声を出す。「加賀美さんと同じチームで大助かりです! さすが警備隊ですよね~!」

「ちょっと、あんたたち」と、ショットガンを携帯する遠山冴織が、むすっとする。「加賀美さんに頼ってばかりいないで、もっと前に出なさいよ。そうすれば、ポイントだってたくさん入るでしょ。――ねぇ、新津君?」

「そうそう。甘い考えでいると怒られるぞ。新田さんの頃とは違――」

 

 新津功輔にいづこうすけは慌てて言葉を飲み込み、おずおずと潤をうかがった。体を斜にしていた潤は横目で見返し、じわじわ流れる下生えに刀――巴の切っ先を突き付けて、うっそうとした森の湿った空気を冷厳な声で震わせた。

 

「佐伯リーダーは乱れたハーモニーを引き締め、正しく導こうとなさっているのです」

「わ、分かってるよ……ごめん……」

 

 うつむく新津から視線を外し、潤はヘブンズ・アイズで他チームやモンスターの位置を確認した。密猟のダメージを受けた森は奥まで踏み入らないと満足に狩れなくなっており、各チームはまだらに表示される赤い光点をそれぞれ目指して奥へ、奥へと移動していた。

 

「……この辺りにモンスターはいないわ。移動しましょう」

「そ、そうね……」と、遠山。「まったく、コリア・トンジョクが密猟なんかしなければ、遺跡の近くで十分狩れたのに……」

 

 歩き出した潤に遠山たちが続こうとしたそのとき、揺らめく木陰から何かがフッと飛来――

 

 ――鋼色のリンゴ――

 

 それが手榴弾だと気付き、バリアを強めるよう指示した潤は爆発の衝撃で吹っ飛び、太い幹にドッとぶつかって根元に倒れた。

 

「――く……!」

 

 すぐさまイジゲンポケットから出したポーションを使うと、体に刺さった手榴弾の破片が消えて傷が塞がり、破れて血で汚れた制服が元通りになる。バッと跳ね起きて巴を構えた潤は、新津がチュ・スオに鉄製ハンマーで殴打――オ・ムミョンの鉄爪で切られ、倒れた遠山がコリア・トンジョクメンバーに封印の手錠をはめられるのを見た。

 

「何をしているッ!――」

 

 遠山を助けようとひらめく巴を鉄の爪がギィンッとはじき、横からキムのアックスガンがグォッと振り下ろされる。五撃、六撃、七撃――腕にしびれを覚えながら重い斬撃をしのいでキムと斬り結ぶ潤を、横と背後からチュとオの得物が襲って追い詰めていく。チームメンバーたちは――新津は殴打、近江は爆発の衝撃で気を失い、手錠をはめられた遠山は下生えを乱してもがき、城木は逃げたらしく姿が見えない。

 

「――ッく!」

 

 ホン・シギたちや顔面蒼白のユン、薄笑いのクォン韓服の一団に囲まれ、キム、チュ、オに抗う潤――その背中がハンマーで殴られ、巴をアックスガンではじき飛ばされた直後――

 

「――がッ!」

 

 ドドドドッと胸や腹にめり込む、アックスガンからの弾丸――ドザッと下生えの上に仰向けに倒れた潤はキムたちに腕をつかまれ、強引に前で封印の手錠をはめられてしまった。

 

「はぁ……手こずらせやがって、このメスガキめ」

 

 立ち上がったキムが額や頬の汗を手で拭い、チュ、オと見下ろして下卑た笑みを浮かべる。

 

「けど、これでもう抵抗はできないっスよ」

「デュフゥ、さあ、料理してやって下さい、兄貴」

「ふふ、おうよ!――」

 

 キムはアックスガンをしまう代わりにサバイバルナイフを出して握り、左手で手錠の鎖をつかんで潤の両腕をグッと上げさせると、銃撃のダメージを負ったブレザー、そしてその下のワイシャツを刃でザッと裂いて、わななく瞳いっぱいに獣欲みなぎる顔を映した。

 

「――ぶっ殺す前にヤッてやるよ! さあ、どうしてやろうかァッ!」

「――ッ!――――――」

「――や、や、やめて下さいっ!」

 

 悲鳴に近いユンの叫び――気が散った瞬間、キムの左手からすさまじい勢いで鎖が外れ、狂獣が飛びかかるような絶叫で加速した手錠が顔にぶち当たる。

 

「――ぶグッ!――おグォッ!」

 

 殴られてのけ反り、左脇腹ではじける激痛に目をむくキム――潤がブレザーの右ポケットに忍ばせていた飛び出しナイフの刃がひるんで弱まったバリアを破り、ベストとチョゴリを貫いて深々と突き刺さっていた。

 

「――こッ、の、ガキィッッ――」

 

 サバイバルナイフを振り上げた腕が鼓膜を震わす銃声で止まり、韓服軍団が横手の揺らめく木陰から飛び出す佐伯と九十九式自動小銃を構えた警備隊員たちに仰天する。

 その数、この場にいるコリア・トンジョクメンバーの倍以上――

 意表を突かれたメンバーはたちまち銃撃で蹴散らされ、潤から飛びすさったキムは、赤い刃の羅神を八相に構え、首を斬り落とさんばかりの殺気を噴いてずんずん迫る佐伯によろめいた。

 

「――な、何で警備隊、佐伯がッ?」

「やっ、やばいっスよ、兄貴ッ!」

「デュ、デュ、デュ、デュ――」

 

 浮足立ったキムたちは銃撃に追われて駆け出し、逃げ散ったメンバーと遺跡で掃除業務をこなしているメンバーにコネクトで指示を出しながら空間のゆがみに全力で逃げ込んだ。