「――くそっ、上等だ! あいつら、全員ぶっ殺してやるッ!」
ストレートウイスキーをグイッとあおったキムがグラスをコースターにガンと置くと、ローテーブルの向こうで横二列に並んで正座しているユンたちがビクッと体を震わせる。抗議のみじめな結果に怒りが収まらないキムはメンバーを引き連れて赤瓦台に入り、会議と称してやけ酒をあおっていた。
「……ったく、俺たちみたいな闘士は他にいないらしいな! どいつもこいつも佐伯と警備隊に尻尾を振るか腹を見せるかだ! まったく情けねえッ!」
「ホントっスね、兄貴」
隣でチュ・スオがうなずき、赤ら顔をしたキムのグラスにウイスキーを注ぐ。
「――このままじゃ、早晩コリア・トンジョクは潰されてしまうっス。殺るしかないっスよ、佐伯を……オレたち全員でかかれば、きっとできるっスよ」
「デュフフフゥ! やろう、やろう! おれのクローでズバズバーッと切り裂いてやるっ! デュフフーッ!」
キム、そして左右からあおるチュ・スオとオ・ムミョン――それを一列目の端からうかがうユンは、どんどん悪い方向へと転がる状況に青くなる一方だった。ホン・シギやイ・ジソンたちも『敵』憎しの気持ちが強い半面、対立が深まっていくことへの恐れで顔をこわばらせている。だが、誰も自分たちを飲み込んだ流れを変えようとはしなかった。
「あの~ よろしいでしょうかぁ?」
二列目の後ろ――独り正座するクォンが、そろそろと右手を上げる。先刻肘打ちを食らって流血した鼻は、ポーションで完治していた。
「何だクソ犬! また生意気な口を利くつもりか!」
「いえいえ、そんな
黒革ソファにふんぞり返って吠えるキムにクォンは両手をふるふる振って恐縮し、背中と首を伸ばすと横二列の頭越しに
「――お気持ちはよく分かります。とってもね。だけど、佐伯は手強い。その上、いつも
「ああ? どういうことだ?」
「ゲリラになるんですよ。ハーモニーを抜けてね。今の戦力じゃ、正面切ってやり合うなんて無謀。だから、この遺跡を出て他のフェイス・スポットを探し、そこをベースにしてコツコツやるんです。ワークプランに縛られずに狩りをして力を付け、StoreZで機械人形〈オートマトン〉を購入して頭数を増やし、狩りに出て来たハーモニーのメンバーを襲って地道にダメージを与え続ける……賢明なキム族長なら、この案をご理解下さいますでしょう?」
「ふん、なるほどな。しかし、お前も散々俺に殴られているくせに、ずいぶんとまともな意見を言うじゃないか? ま、闇討ちだの何だのをやるとなったら、一番に突っ込むことになるのは自分だからだろうけどな」
「そんな~ 邪推ですよ、族長。そりゃ、確かに殴られたりするのは嬉しくないですけど、ボクは族長に忠誠を誓った身ですし、何よりもあいつら純血日本人が嫌いなんです。何よりも、ね。だからこそ、しっかりこってりたっぷりと思い知らせてやりたいんですよ」
「ふん。それで、いつ実行するとかも考えているのか?」
「しばらくは油断させるためにおとなしくしていましょう。そして、機を見計らって警備隊の誰かを血祭りに上げてから離脱するんです」
「警備隊のヤツを?」と、チュ・スオがグラス片手に聞き返す。
「はい。狩りに出て来たところをやるんです。チームの他のメンバーを追い払って数人がかりでやれば一捻りですよ。その方がただ離脱するより面白いでしょう? ま、宣戦布告ってやつです。標的は、そうだなあ……あのクソ娘――加賀美潤なんかどうですか?」
「あいつか……お前にしてはナイスアイデアだな、クソ犬」
「はは、やってやりましょうっス、兄貴!」
「デュフフフゥ! 面白そう!」
鬼畜な案にキムたちは盛り上がり、黙って正座し続けているユンたちの前で