読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.38 約束(3)

 紗季がユキトを家に連れ込むのを見届けると、新田はイジゲンポケットからアウトドア用ラウンジチェアを出して腰かけ、揺らめく雲間に見える赤い輝きを見つめながら眉根にひびを入れ、右手の平でそれを押さえた。その少し離れた横にエリーが突っ立ち、低スペックで処理速度が遅いPCさながらの間を置いてからかすれ声を出す。

 

「……ごめんなさい、新田さん……」

「え……?」

 

 怪訝な顔を向けられると、少女は暗い顔で下唇をかみ、うつむいた。

 

「……わたし……いつも足手まといで……」

 

 潤んだ小さな目が痛々しく瞬いたが、新田は「いや……」と素っ気なく返すと揺らめく荒野に視線を戻した。岩山が点在する礫と砂の乾いた世界は、離れるほどゆがみを強めて彼等を囲んでいた。

 

「……新田さん……遺跡に戻る気は、無いんですよね……?」

「……何だい、出し抜けに」

 

 いら立ちがにじむ声に体を固くし、エリーはうろたえながら説明した。

 

「……あ、あの、その、もう2週間も歩いているのにディテオは現れないし、遺跡とコネクトできなくなって……わ、わたし、みんなの……新田さんのことが心配で……」

「俺は、独りでもやり遂げるよ」

 

 ぴしゃりと言った新田は左手薬指にはまるマリッジリングに目を注ぎ、何かを胸に抱えるように両手を動かした。その腕に愛娘の重みがよみがえる。からの腕の中をいとしげに見つめ、ふっと目を上げると、微かに揺らめく愛妻が少し離れて立っていた。

 

(――はるか……)

 

 あふれ出す、思い出――失恋の痛手で成績が落ち、クラブ活動も休みがちだった高校二年のとき、気晴らしにと友人に誘われたシミュレーテッド・リアリティ・ミュージックゲーム〈フライング・プレイ〉で出会い――

 

(……そう、妖精の姿をした君は空で蝶の羽をはばたかせ、うっとりするほど美しいメロディーを奏でていたよな……それで俺が声をかけ、つれなくされてもめげずに、本当はおっさんだって構わないから友だちになりたいって頑張って……そうして仲良くなって、オフ会で会ってみたら同い年の女の子……そのうち付き合うようになって、お互い大学卒業して就職し、どうにか一人前になったところで俺が結婚を申し込んで……きれいだったよな、ウェディングドレス姿……――)

 

 沈んだエリーをよそに白昼夢はくちゅうむにふけり、揺らめく瞳――幻がすうっと消失すると、新田はガタッと立ち上がり、微かな頭痛をこらえながら流動にたゆたう赤い妖星を凝視した。

 

(……きっと帰るよ。どんなことをしたって……!)