REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.38 約束(2)

 

「新田さん、斯波に頼り過ぎてるよね……デモン・カーズのこと、知っているのに……」

「……」

 

 壁をにらみ、ユキトは苦虫を奥歯ですり潰した。新田はスペシャル・スキル――オーバーロードを使い渋り、その分周りに負担をかけていた。

 

「……あの人、スペシャル・スキル使った後に頭痛とか起きるらしいし、あんまり使いたくないんだろ……」

「極力使わずに済まそうとしているよね。あんたの呪いみたいな何か、あるのかな?」

「知らないよ。聞いたってはぐらかすし、言いたくないんだろ。だけど……」

 

 どんな事情があるにしろ、他人に命を削らせるなんて許されない――その怒りは、黒い右腕を抱えたまま飲み込まれた。エリーは正直足手まとい、頼りは紗季と新田だけ……ひびが広がり、深まったら、ディテオどころか先刻戦ったジガン・ベラのような強敵に勝つことさえ難しくなる。それでは、黒の十字架を手に入れてリアル復活することなど到底無理。

 

「後で新田さんに言っておくよ。あんまり斯波に負担かけないで下さいって」

「やめろよ。泣き入れてると思われるだろ」

「何言ってんのよ。無理してたら、つらくなるだけじゃない」

「いいって言ってるだろ。変にこじれたら嫌だし、うまくやるよ……」

「……まったく、困った人たちね」

 

 振り返った紗季は後頭部を見てあきれ、影がうっすらよどむ天井を仰いだ。

 

「……新田さん、何が何でもリアルに戻るって気持ちが強いから、つい自分を守ろうとしちゃうんだろうね……ねぇ、斯波は誰なの? リアルで待っている人とか会いたい人とかって?」

「……別にいないよ……」

「家族は? お父さんとかお母さん、心配してるよね?」

「いないって言ってるだろ……うちは、そんな仲良し家族じゃないんだよ……」

「そうなんだ……」

「……お前はどうなんだよ?……彼氏とか、いるのか?」

「いないよ、そんなの。あの人みたいにモテないから……」

「あの人?」

「……姉よ」

 

 頭を巡らせ、左肩越しに見るユキトに、紗季はアイボリーのカーペットに目を落としたまま続けた。

 

「……あの人は、すごいよ。家族でスウェーデンに渡航したときは、いきなり聖ルチア祭のルチアに選ばれて……あ、聖ルチア祭って、あっちで毎年冬にやってる伝統行事……学園祭ではミス恵成けいせいに選ばれ……人気者で成績優秀、スポーツ万能、生徒会長としても有能。テニス部のキャプテンもやっていて、インターハイで優勝経験あり……次元が違うのよね。ふらっとうちの部に遊びに来たとき、やったこともないのにいきなりど真ん中に当てたりするし……1年以上やっているあたしより、ずっと上手……」

「……お前だって、弓はうまいじゃないか?」

「全然だよ。取りあえず当たっていたり、数打ってごまかしたりしているから分からないだけで、狙ったところからは外れていることが多いの。アポロミスみたいにはいかないんだ……」

「アポロミス? アポロミスって、『聖弓せいきゅうのアポロミス』?」

「あ、うん、そう。知ってるんだ、あのアニメ? ちょっとしたブームになってたもんね。あたし、ヒロインのアポロミスに影響されてアーチェリーを始めたんだ」

「へえ……」

「……だけど、才能ないんだよね。アーチェリーだけじゃない。すべて劣ってるの。だから、両親もあの人ばかりかわいがって……」

「……別に、そうは思わないけど……」

 

 振り返る紗季にユキトは顔を壁側に傾け、気恥ずかしげに唇をもぞもぞさせた。

 

「……その、つまり、お姉さんにはお姉さんの良さがあるし、お前にはお前の良さがあると思うよ」

「……そんなふうに言ってくれるのは、ゆかりと知依ちえと、それからスウェーデンのおばあちゃんくらいよ……あぁ、会いたいな……ねぇ、斯波――」

 

 紗季はベッド側に体を向けて縁に腕を乗せ、ユキトの後頭部に微笑んだ。

 

「――リアルに戻ったら、みんなで遊びに行こうよ。あたしとあんたと、ゆかりと知依の4人で。きっと仲良くなれると思うよ。機会があったら、スウェーデンのおばあちゃんにも紹介してあげる。ね?」

「……うん」

 

 また頭を巡らせてスマイルを横目で見、ユキトは素直にうなずいた。全身を蝕んでいただるさはいつの間にか引き、安らかな気持ちが胸を満たしていた。

 

「よし、約束だよ、斯波。絶対リアルに戻ろうね」

「うん」

 

 微笑み返した掛け布団の下で、ユキトは決意を込めて二つのこぶしを固めた。