REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.38 約束(1)

 

 激突――激震――赤茶けた大地、乾いた流動の震動が左右に跳ぶユキトたちをぐらつかせ、立ちすくんでいたエリーにドタッッと尻もちをつかせる。

 

「――エリーちゃんッ!」

 

 炎模様鮮やかな洋弓ブレイズウインドを手に駆け寄る頭上――ゴオオ……と巨岩が重々しく上昇し、くすんだ空を遮る黒い影が紗季とエリーをとらえる。人型の岩山――身の丈が4、5階建てのビルほどある前傾の岩石巨人〈ジガン・ベラ〉の右こぶしは、今まさに地上めがけて振り下ろされようとしていた。

 

「――突っ込めッ、斯波君ッ!」

「は、はいッ!」

 

 新田の指示に打たれて地を蹴ると、膨れた黒い右こぶしから光が噴き出し、袖をまくり上げた右腕からたちまち全身に広がる。フルバーストしたユキトは弦を引き絞るようにこぶしを引き、急降下する巨塊に側面から突っ込んだ。

 

「――うッォォおおおおおッッッッ!」

 

 ――ブレイキング・ソウルッッ!――

 

 魔人のこぶしが光を爆発させ、振り下ろされる前腕を渾身の一撃がドゴォオオオッと砕き散らす。その隙にエリーを助け起こす紗季の後方で、新田が発動させた光熱系魔法〈アステロイドクラスター〉――無数の光の塊が巨体に降り注いでぐらつかせる。頭部と背中とをでこぼこにされたジガン・ベラは、払おうと残る左腕をゴオッッと振った。

 

「――くッ!――」

 

 風圧にあおられながら飛びすさる新田の前で、岩のこぶしが流れる地面を激しく削ってれきと砂を爆発さながらに飛び散らせる。

 

「――斯波君、とどめだッ!」

「はあッッ!――」

 

 突撃した異形のこぶしが流星を生み、スペシャル・スキル〈ブレイキング・バッシュ〉で巨岩の右足を砕く。崩れ、左手をズゥンと地面に突く岩石巨人の懐に飛び込んだユキトは腹部めがけてブレイキング・ソウルをぶち込み、ズゴォオオンッと噴火さながらに岩をぶちまけて背中を突き破ったエネルギーの彗星が断末魔を響かせ、光のちりをブオオッと立ちのぼらせる。

 

「……やっ、た……!――」

 

 気が抜けた途端ユキトはめまいに襲われ、骨が消えたように足から崩れて小石だらけの地面にばったり倒れた。

 

「斯波っ!」

 

 紗季が洋弓をイジゲンポケットにしまって駆け寄り、ぐったりした体を助け起こす。その後ろでは、半べそのエリーが両手で握ったダガーガンを小刻みに震わせていた。銃身4インチのリボルバーに小振りのダガーがくっ付いた頼りなげな凶器……この2週間何度となく思い知らされた、その程度の武器しか扱えない無力さに少女はまた打ちのめされていた。

 

「斯波、しっかり! 今、キュア・ブレスかけるから……」

「いい……これは、治癒魔法じゃどうにもならないんだから……」

 

 苦しみに瞳を濁らせ、ユキトは流動のさざ波によろめきながら立ち上がって両膝に手を突き、だるい体を支えた。

 

「新田さん」

 

 ユキトのスウェットについた砂ほこりをはたき落とし、紗季が少し離れて立つ新田に気持ち眉をひそめる。

 

「――少し休みましょう。これじゃ、斯波が持ちませんよ」

「……うん……」

 

 新田はあいまいにうなずき、揺らめく薄汚れた雲の向こうで傾きかけた太陽を仰ぎ、西でぼんやり瞬く赤い星に焦れた視線を投げてから不承不承ふしょうぶしょう言った。

 

「……そうだな。斯波君は大事な戦力だからな。一休みしよう」

「ありがとうございます。――行こう、斯波」

「……どこに?……」

「あたしの家。今、出すから」

「え? だけど……」

「あんた、遺跡に家を置いて来たから、この2週間ずっとテントで寝袋でしょ。それじゃ、満足に休めないよ」

 

 言いながら紗季はイジゲンポケットからプレハブハウスを出し、遠慮するユキトをぐいぐい引っ張って奥――落ち着きとかわいらしさを感じさせるシンプルなインテリアの部屋に連れ込んだ。

 

「ほら、あたしのベッドで少し横になって」

「えっ? い、いや、いいよっ!」

「遠慮しなくていいよ。体調悪いんだから」

「で、でも……何て言うか、その……」

「何よ、あたしのベッドじゃ汚くて嫌なの?」

「いや、そうじゃなくて……」

「つべこべ言わないでさっさと休みなさいよ。ほらっ!」

「わ、分かったよ……」

 

 背中を押されたユキトはカーペットを踏んで遠慮がちにシングルベッドへ潜り込み、恥じらって壁の方に寝返った。ほのかに紗季の匂いがするベッドは柔らかで暖かく感じられ、さいなむめまいやだるさも少しずつ軽快していくようだった。一方、紗季はローテーブルそばにあったクッションを敷いて座り、ユキトが休むベッドに背中をもたれさせて小さくため息をついた。