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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.37 未明の離脱(5)

TEM†PEST

 エレくしょん・エレンによる電子投票を経て佐伯がリーダーに正式就任した日の夜、ユキトはトイレに入ってカンシくんのカメラから逃れ、便座に腰かけ、コネクトの音量を絞ってから新田にコールした。ほどなく回線がつながり、3分割画面中央に新田、そして彼とコネクトしていた紗季、エリーの硬い表情が映る。

 

「……希望したのか? 篠沢たちも……」

 

 ドアの外に浮かんでいるカンシくんを気にして声を潜め、ユキトは新田の左右に目をやった。

 

『そうよ。あたしたちもディテオ討伐に加わるって決めたの。――ね、エリーちゃん?』

『は、はい』

『斯波君も決心してくれてありがとう。心強いよ。今、どこからコネクトしているんだい?』

「トイレからです。怪しまれるから、長くは話していられないです……それで、他には何人いるんですか?」

『……あたしたちだけ……みたいよ』

「えっ?」

 

 思わず声を漏らした口に左手を当て、ユキトは耳を疑った。

 

「……僕たちだけ……?……」

『……そうよ』

 

 新田が黙り込み、エリーが目を伏せてうつむく中、紗季は続けた。

 

『――委員会の決定に反する行為だから、援助なんてある訳ない。それで手強いモンスターが生息する西の砂漠を進んで最強のモンスターを相手にするとなれば、尻込みするのも仕方ないわ』

「……だけど……」

 

 ユキトは、めまいを覚えた。非常に困難であろうクエストなのに……しかも、エリーは最近少しずつ狩りに出るようになったとはいえ、いまだ幼稚園児レベルの戦力でまったく当てにできない。つまり、実質的に新田と紗季と自分とで挑むことになるのだ。そうした動揺を感じ取った新田は、絡め取るように両手を振り、まくし立てた。

 

『斯波君がいれば百人、いや千人力だよ。俺たちだけでも、きっとやり遂げられるさ。斯波君だって、早くリアルに戻りたいだろ?』

「もちろんですけど……――篠沢は、いいのか……?」

『やるしかないよ。あたし、1秒でも早くここから出たいし』

「……葉さんは?」

『は、はい。頑張ります……』

 

 けなげな決意に、ユキトはそれ以上ぐずぐず言えなかった。どれくらい道程が険しいのか、ディテオが手ごわいのかはワンが教えてくれないのでまったく不明だが、死に至る呪いから逃れるには他に手は無さそうだった。

 

「……わ、分かりました……」

『ありがとう、斯波君!』新田が、顔を明るくする。『俺もベストを尽くすよ。みんなで力を合わせて黒の十字架を手に入れよう!』

「はい……」

『よし、それじゃ簡単に説明するけど、出発は明後日の未明だ。集合場所はここ――』

 

 新田はヘブンズ・アイズを開いて住宅地域北西の崩れた石垣そばを示し、その位置データをユキトたちに送った。

 

『――家とかは、イジゲンポケットにしまった方がいいだろうな。考えたくはないが、留守中空き巣に入られるかもしれないし。ワークプランの調整は、出発した後で委員会にメッセージを送って――そうそう、斯波君、見張りから逃れられそうか?』

「えっ? あ、はい、多分大丈夫だと思います。篠沢たちのお陰で手錠は外れましたし、監視も緩くなっていますから。いざとなったら力尽くで何とかしますよ。それより、新田さんの方はどうなんです? あのメッセージで目を付けられているんじゃないですか?」

『うん、だけど、今のところ見張られている感じは無いみたいなんだ。どうせ大事にはならないと思われているのかもな……とにかく、各自集合するときは、パトロールに見つからないようにするんだぞ』

 

 やや早口に言った新田は、トイレが長いと疑われるだろうと気遣い、明後日の未明集合だと念押ししてコネクトを切った。ウインドウを閉じたユキトは背中を曲げてうなだれ、天井の照明によって床に落ちた自身の影を、視界を侵す膨れた黒い右手をにらんでひとりごちた。

 

「……やるしかないんだ……やるしか……」