読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.37 未明の離脱(4)

TEM†PEST

 会議散会後、運営委員会事務所を出た佐伯は、事務所前で照明灯に照らされながら待機していた潤と松川の高揚に迎えられた。

 

「おめでとうございます」潤が祝う。「佐伯隊長――いえ、リーダー」

「みんな喜んでますよ! コネクトをチェックして下さい!」

 

 顔を上気させた松川に促されてコネクトを開くと、警備隊メンバーからたくさんのメッセージが届いていた。それらはすべて、委員会がアナウンスした佐伯の暫定リーダー就任に歓喜する声。

 

「今のところは暫定だ。明日のメンバー投票で過半数の支持が得られるまではな」

 

 隙の無い微笑で応えた佐伯は肩の上にライトンをスタンバイさせ、照明灯と事務所の明かりを背に両名を従え、ひっそりとした夜更けの広場を歩いた。

 

「ところで、佐伯隊長」斜め後ろから、松川が報告。「新田のヤツ、ディテオ討伐隊を勝手に組織しようとしています」

「投票で否決されたというのに……どうなさいますか?」

「放っておけ」

 

 西の雲間――赤い輝きを横目で一瞥し、佐伯は粛々と歩み続けた。

 

「――落ち目の者がやることなど、うまくいきはしない。それに、委員会の方針に従わないやからを明らかにするのにも役立つだろう」

「なるほど! さすが隊長!――ねぇ、加賀美隊員?」

「ええ。――!」

 

 黒髪を躍らせて振り返った潤が出現させた巴を正眼に構えたとき、すでに相手の気配をとらえていた佐伯はゆっくり背後に向き直り、部下たちのライトンの光を反射させるメガネレンズを見た。

 

「……何か用か、後藤マネージャー?」

 

 十数歩隔てて問うと、後藤の右手がパッと現れたコンバットナイフを握る。表情を緊迫させ、殺気立つ潤と松川――その間から、佐伯は陶器人形さながらの高貴で冷血な印象を見据えた。先程の会議では、異論を唱えずに淡然と暫定リーダー就任に賛成していた赤毛女子を。

 

「何のつもりなの?」

「そ、そうだ! 隊長に何をするつもりだっ?」

「落ち着け」

 

 軽く右手を上げて制止し、佐伯は苦笑した。

 

「――傷付けるつもりなら、もっとましな凶器を出す。――用件は、単刀直入に言ってもらおう。明日から警備隊隊長、軍務マネージャーに加えてコミュニティ・リーダーを兼務する身。今夜くらいゆっくり休みたいからな」

「私を、警備隊に迎えていただきたいのです」

 

 面食らう潤と松川には目もくれず、後藤はクールに言葉を紡いだ。

 

「――幹部待遇でお願いします。ジョアン・シャルマのような一兵卒いっぺいそつではなく」

「大胆な売込みだな」

「私には、サブリーダーとしての実績と高い戦闘スキルがあります。それだけの価値はあると思いますが」

「思い上がったことを……無礼よ!」

「か、加賀美隊員の言う通りだ!」

「2人とも刀を下ろせ。これは自分と彼女の話だ」

 

 構えを解かせた佐伯は、後藤に「その要求に、ナイフはどう関係するのだ?」と問うた。

 

「――」

 

 刃がスッと、左手首に当てられる。

 

「――私の能力は申し分ないはず。それが認められないとすれば、理由は血統以外にありません。それならば、私は今ここで血の半分を抜きます」

 

 わずかに目を細め、佐伯は腕を組んで黒い袖にしわを寄せた。バカげた話だった。半分血を抜いたところでミックスの後藤が純血になれる訳も無い。これはつまり、覚悟を示して要求を呑ませるためのパフォーマンス。

 

「……そこまでして、なぜ警備隊に加わろうとする?」

「私の望みは、優れた人物と歩んで自らを高めること。ですから、あなたのもとで働かせていただきたいのです」

「……ふっ……いいだろう。望み通りにしよう」

「ほ、本気なのですか、佐伯隊長?」と、戸惑う潤。

「もちろんだ。優れた人材であれば、血統にこだわらないのがヤマト主義の理念。忘れたのか?」

「……ですが……」

 

 細眉を曲げた潤ににらまれる後藤は、コンバットナイフを消すと姿勢を正して慇懃に頭を下げた。

 

「ありがとうございます。きっとお役に立ってご覧に入れます」