読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.37 未明の離脱(1)

TEM†PEST

 時刻は21:06――

 マスコットキャラのエレンが乗り乗りに腕を振ってモンキーダンスを踊る後ろ――『集計中』と大きく表示されるウインドウが、ちょうど議長席でこぶしを固めて固唾を呑む新田の正面――運営委員会事務所3階会議室後方にスクリーンサイズで開き、緊張した面持ちで列席する委員たちの注目を集める。

 

『ディテオ討伐隊緊急派遣に関する投票結果ァ――くしょんっ!』

 

 ジャケットにブラウス、スカート、パンプスと白一色のエレンが、くしゃみしてから景気よく発表する。

 

『――投票率94.6パーセント、有効票数629票! 緊急派遣賛成34票、反対595票ッ! へっくちょんっ!』

「これが答えです。新田リーダー」

 

 佐伯がウインドウ、そして緑のミディアムボブを躍らせてダンスする少女から目を転じ、斜め前で青ざめ、歯がみする新田に視線を刺す。

 

「――ところで、前回の会議でのご自身の発言は覚えておられますか? お忘れなら、隣の書記に確かめてみて下さい」

「……覚えて、いるさ……!」

 

 新田はテーブルに肘をつき、組み合わされた両手の指にゆがんだ唇を押し当てた。左手薬指にはまるマリッジリングが、手とともに小刻みに震える。求心力の低下、反対派によるネガティブ・キャンペーン、尾を引く霧の魔人やラー・ハブ襲撃のショック、テンペスト・ライフへの慣れ、リアルへの執着の薄れ――そうした要因が重なった結果だった。

 

「それなら結構。約束をたがえるようなことはありませんね?」

「――分かっているってッ!」

 

 裂けるように離れた両手でテーブルを叩く新田に隣席のエリーがおびえ、川瀬や里見、沢城たちがビクッと身じろぎする。鎌田が腕組みし、肘を突いた後藤が胸の前で両手の指を組み合わせる中、ガターンッとイスを後ろに倒して立ち上がった新田は、佐伯を斜め上からにらみつけて沸騰した感情をぶちまけた。

 

「やめてやるよッ! それでいいんだろッッ!」

「結構。次のリーダーは、我々で話し合って決めるつもりですが、それでよろしいですね?」

「勝手にすればいいだろ! 俺には、もう関係ないんだからッ!」

「あっ、あのっ!」沢城麻綾が、慌てて立ち上がる。「れ、冷静に話し合いませんか? そんな簡単にやめるなんて……」

「その必要は無い」佐伯が、ぴしゃりと返す。「元・リーダーは、潔く身を処したのだ。そうしなければ、ますます泥が付くことになる」

「で、でも……」

「いいのよ、沢城マネージャー」

「後藤マネージャー……?」

 

 横から沢城の視線を受ける後藤は、怒り心頭の新田をメガネの奥から冷ややかに見上げ、そして目を閉じた。

 

「私に見る目が無かったのよ。ごめんなさい」

 

 後藤にとどめを刺された新田はイスを蹴り、エリーの潤んだ目にすがられながらドアに向かって、張り飛ばす勢いで開けて出て行ってしまった。それを見届けた佐伯は沢城を着席させ、残った委員で新リーダーを誰にするか話し合おうと言って身を乗り出した。