REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.36 きしむ会議(2)

 

 ――新田リーダーは、自分の都合で討伐隊派遣を急いでいるだけ! コミュニティのことなんか、これっぽっちも考えていないっ!――

 ――調査隊を強引に派遣して犠牲者を出し、自らのコミュニティ運営の甘さによってラー・ハブ襲撃の被害を甚大にしていながら、いまだにリーダーの座にしがみついている人物にこれ以上任せていていいのか?――

 ――自己中心的な人間に従っていたら、いいように利用されてお終いです! 皆さん、どうか賢明な投票を!――

 

「……ひどい言われようね……」

「そうだな……」

 

 オレンジジャージ姿の紗季と、その隣――ラー・ハブ戦での功績もあり、紗季たちの働きかけでようやく手錠無しの生活が許可されたユキトが黒い右手をスウェットパーカーのポケットに入れて立つ前で、新田批判のスローガンが書かれたプラカードを掲げる10人ほどの少年少女が騒がしい声を上げる。警備隊の監視付きで紗季と散歩に出、となが食堂とテルマエランドが立つ遺跡南部まで来た少年が目にしたのは、昼食を食べに集まるメンバーに向けた討伐隊派遣反対派のネガティブ・キャンペーン。

 

「……あれって――」

 

 聴衆に訴えかける者たちに眉をひそめ、紗季は後ろに少し離れて立つ警備隊員コンビに聞かれないようにささやいた。

 

「――佐伯さんの息がかかっているってうわさもあるわ。新田さんのこと、本気で潰すつもりみたいね……」

「……どうなるんだろう、明後日のメンバー投票……」

下馬評げばひょうだと、すぐにでも討伐隊を派遣しようっていう主張は、少し急ぎ過ぎって印象で分が悪いようよ。それに、ああしたネガキャンもあって、リアル復活を望む人たちも支持をためらっているみたい」

「……テラ・イセク戦の頃と比べると、ずいぶん人気が無くなっちゃったな……」

「うん……――あっ」

 

 小さく上がった声に視線を追うと、エリーを連れた新田が若者たちに熱っぽく語りかけ、握手を交わしながら近付いて来るのが目に入り、ユキトはわずかに身じろぎした。

 

「――やあ、斯波君、篠沢さん。君たちも来ていたのか」

 

 つかみ取る勢いで、左手を両手でもってがっしり握られたユキトは、間近で見る新田にイメージが損なわれるのを禁じ得なかった。目元に疲れがたまって少しむくんだ顔は、年齢以上に老けて見えた。

 

「――2人とも、ぜひ派遣賛成に票を入れてくれ! ディテオを探し出してリアル復活するために!――ほら、エリーちゃんも!」

「は、はい。――あ、あの、お願いします……よろしくお願いします……」

 

 恥じらいながらぺこぺこするエリーに続けて、愛想笑いをたたえた新田は念押しした。

 

「――君たちなら分かってくれるよな? ホントに頼むよ!」

「くどいですよ」後ろで傍観していた警備隊コンビの片方が、フンと鼻で笑う。「なりふり構わずですね。みっともない」

「ちょっと、言い過ぎじゃないの――あっ?」

 

 振り返ってとがめる紗季にドッと肩をぶつけ、真っ赤な顔で警備隊に詰め寄った新田が唾を飛ばして怒鳴り散らす。

 

「その言い草は何だッ! 警備隊の人間は、上から下まで年上に対する礼儀を知らないのかッ!」

「に、新田さん!」紗季がなだめる。「落ち着いて下さい! みんな、見てますよ!」

「篠沢の言う通りですよ! 騒ぎになりますから!」

 

 紗季とユキトに押さえられる新田は、再び暴発しそうな緊張のさざ波で辺りを乱した。反対派の活動家たちが演説をやめ、聴衆ともども騒動を注視した、そのとき――

 

「Hey! Stopだっ!」

 

 英語交じりの命令が、新田の気を散らす。声に視線を転じたユキトは、厳しい表情で接近する隊服姿のジョアン・シャルマに目を見開いた。そばに来た彼は、驚くユキトたちをじろっと一瞥し、新田をにらんだ。

 

「迷惑行為はやめてください。これ以上騒ぐと、リーダーといえどもarrestです。引いて下さい」

「シャルマ君……警備隊なんかに入ったのか?」

「引いて下さいと言ってるんです。逮捕されたいんですか?」

「君……!」

 

 新田は苦々しい顔で下がり、ユキト、紗季と黒隊服たちから足早に離れた。その後をエリーが慌てて追うのを見届けたジョアンは、よそよそしい態度の警備隊コンビに堅苦しく敬礼すると、離れたところで待っている純血日本人の相棒のところに戻りかけた。

 

「ちょっと、ジョアン! あんた、何やってるのよ?」

「何って、patrolだよ」

「そんなこと聞いてるんじゃないの! どうして警備隊にいるのよ?」

「僕の……せいなのか? あのとき、勝ってしまったから……」

 

 問いかけるユキトにジョアンは太い黒眉を寄せ、褐色の顔を暗く、険しくして見据えた。

 

「ボクは、正義感から入隊しただけだ。キミのことなんか、どうでもいい」

 

 そう吐き捨て、背を向けて相棒のところへ小走りに向かうジョアン――

 

 ――ふん、あいつもイジンの割にそこそこ使えるヤツだよな――

 ――だから、佐伯隊長も入隊を認めたんだろう――

 

 警備隊員コンビのやり取りを背に、紗季は再開された反対派の訴えを聞く者たちの間を通って去るジョアンを目で追った。

 

「……おかしいよ、ジョアンも新田さんも……無事なのかな、シンは……?」

 

 傍らのつぶやきにユキトは目を伏せ、体を硬くした。シンが引きずられて行くとき、ユキトは厳罰に処せられても仕方が無いと考えていた。だが、それがあのような結果――佐伯の言葉通りなら、手錠をはめたまま逃げ出して森の奥へ消えた――になってしまったため、それ以来罪悪感にさいなまれていた。

 

「……無事だと、いいよな……」

「……そうね……」

 

 陰鬱なまなざしにまぶたを下ろし、紗季は無神経に鼓膜を震わす訴えにグッと下唇をかんだ。

 

「……早く、ここから出たい……帰りたいよ……!」