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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.36 きしむ会議(1)

「俺は、討伐隊を派遣するべきだと思う」

 

 開口一番押し付けるように言い、テーブルに両こぶしを置いて身を乗り出した新田が一同を見回す。アップデートのアナウンス後、新田がすぐさま強引に翌朝開催を決めた会議に出席する委員たちは、書記のエリーが小さな目を不安げにキョロキョロさせる前で煮え切らない態度を見せ、あるいは無言で腕組みした。彼等の服装が隊服や学生服、ビジネスからカジュアルファッションとバラバラなのもあって、会議はひどくまとまりが無い印象だった。

 

「……どうなんだ? 意見があるなら、はっきり言ってくれ!」

「反対です」

 

 断固とした佐伯の返答――ジャブを食らってひるんだ新田はしかし、負けじと立ち上がって語気を強めた。

 

「どうしてだ? 黒の十字架があれば、リアル復活だってかなうんだぞ! 君は――君たちは、戻りたくないのかッ?」

「いつまた恐ろしいモンスターが襲って来ないとも限らないのに、戦力を割くなど賛成できるはずがありません」

 

 固く腕組みする黒隊服姿の佐伯は、半ばあきれ顔で斜に切り返した。

 

「――それに、敵は外からだけとは限らない。獅子身中の虫もいるのです。浅はかな提案をなさるのは、やめていただきたいですね」

「な……何ぃッ!」

「ま、まあ、落ち着いて下さいよ、リーダー。ねっ?」

 

 里見実央が苦笑いして両手を軽く上げ、抑えるようにジェスチャーする。

 

「――気持ちはよく分かりますよ。うん。だけど、まだみんなうろこミミズのショックとかから立ち直っているとは言い難いですし、今すぐってのはちょっと……――ねぇ、川瀬マネージャー?」

「え、ええ。それに、調査隊を出したときみたいなことになるかも……」

 

 難色を示す川瀬の真向かいで、沢城麻綾が表情をもだえさせる。調査隊の一員だった彼女は、秋由大の犠牲が心の傷になっているせいで新田に賛同するのをためらっていた。

 

「――そこまでしてリアル復活しなくても、いいんじゃないですか?」

 

 ため息混じりの冷めた声――転じた新田の目が、そっぽを向いた鋭角顔をとらえる。

 

「……それはどういう意味だ、鎌田君?」

「そのままですよ。ラー・ハブが現れた西の砂漠地帯に足を踏み入れるだけでも恐ろしいのに、ディテオって最強モンスターと戦わなければならないなんて死にに行くようなものじゃないですか? そんなの、ご免です。リアル復活のために無理して死ぬくらいなら、ここで残りの人生を有意義に過ごしたいですよ」

「私も――」テーブル上ですらりとした指を組み合わせ、後藤が意見する。「今、討伐隊を出すのは、賛成しかねます。皆のレベルをもっと底上げしてからの方が賢明でしょう」

「それじゃ遅いんだよッ!」

 

 感情的にテーブルを叩いた新田は、ぎらっとした佐伯の眼光にハッとし、身じろぎした。

 

「……久しぶりに家から出て来たかと思えば、また周りを振り回して危険にさらそうとする……そんな人間がリーダーとして適当とは、とても思えません」

「――ッ……!」

 

 紅潮を引きつらせた新田は目をそらし、こぶしを振って声高に訴えた。

 

「これは、この問題は、俺たちだけで決めていいものじゃない! ハーモニーのメンバー全員に関わることなんだから! だから、エレくしょん・エレンでメンバー投票を実施しよう! みんなの意見を聞いて、どうするか決めるんだ!」

 

 分が悪くなるやメンバー投票を持ち出してあがく姿に、委員たちが苦笑したり冷笑を浮かべたりする。そこには、かつてのように新田を長として曲がりなりにもまとまっていた組織の面影は無かった。

 

「……いいでしょう」

 

 峻嶮な鼻からため息を漏らし、佐伯が冷淡に同意する。

 

「――投票にかけてみればいい。あなた自身の信任も含めて。それで敗れたときは、おとなしくリーダーを辞任していただく。いかがですか?」

「い、いいとも。君の言う通りにしようじゃないか! 投票で俺の案が否決されたら、そのときはリーダーを辞めてやる!」

「結構」

 

 言質を取った佐伯は後藤たちを見、「皆、今の言葉を覚えておいてくれ。書記も議事録にしっかり残しておくように」と言って退路を断った。