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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.35 アップデート(4)

 ――『リクエスト』――解放――……

 ――『リクエスト』――解放――…………

 ――『リクエスト』――解放――………………

 

 薄闇の中、半死人のようにソファにもたれて座る新田は、繰り返される訴えをむなしく表示するだけのウインドウから目を落とし、視線をふらふら飛ばしてソファ脇に置かれた空のベビーベッドを、それから誰もいないカウンターキッチンをぼんやり見た。リアルの自宅マンションに似せたインテリアは、深い夜の淵にただ沈み続けるばかりだった。

 

「……どうして……こんなことに……」

 

 うわごとのようにつぶやき、頭がガクッと垂れる。ラー・ハブ事件をきっかけに実権を佐伯に奪われた新田は、心配して訪問するエリーにもドアを閉ざして引きこもり、救助が来ることを、脱出ルートが現れることを渇望してHALYにリクエストを送り続けていたが、願いは一向にかなえられなかった。

 

「……ここに飛ばされて7カ月……保険の保障期間が、もうじき切れる……そうしたら、延命措置継続にかなりの費用が……悠那を抱えた遥に無理をさせるのか? 父さんや母さん……お義父さん、お義母さんにまで迷惑をかけるのか……? それが、いったいいつまで続くんだっ……!」

 

 額に両手を当て、荒れ野状の髪をかき上げ、かきむしった新田は半べそ顔を上げ、哀訴を再開した。もう何万回と行われたリクエスト送信を。頭で考えた文章がリクエスト欄に入力され、確認画面を経て送られる。何度も、何度も、何度も……――

 

「……アプリの追加は、すぐやったくせに……俺の願いを聞けよ! 聞いてくれよッ……!」

 

 背中を曲げ、両肘を太ももに突いて頭を抱えた新田の両目から涙がカーペットにしたたり、嗚咽が孤独なリビングダイニングにはかなく流れる。そんな青年の耳を不意に通知音が打ち、ウインドウが開かれた――