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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.35 アップデート(3)

TEM†PEST

「――何なんだ、貴様らァッ!」

 

 カンシくんのアラートを受けて仲間と赤瓦台せきがだいを飛び出したキムは、ライトンをカッと光らせてずかずか近付いて来る警備隊を阻み、青筋立てて怒鳴りつけた。キムの左右にはチュ・スオとオ・ムミョンが立ち、コネクトで呼ばれたユンたちコリア・トンジョクメンバーが駆け付けて、薄闇の中、黒い隊服の一団をこわばった顔で取り囲む。

 

「何しに来たってんだよ……!」

 

 鞘に収まった日本刀――羅神を携える先頭の佐伯、その斜め後ろに控える潤をにらみ、キムは虚勢を張ってすごんだ。パジチョゴリ姿のコリア・トンジョク総勢15名に対し、門扉を破ってヴィレッジに踏み込んで来た警備隊員は30人強。しかも、隊長の佐伯以下ポイントを使って武器や魔法、バリアを強化した精鋭ぞろい。まともにぶつかったら、蹴散らされるのは目に見えていた。

 

「貸しポイント業を廃業しろ」

 

 佐伯が、威圧的に命じる。

 

「ああん?」

「お前たちが、闇で行っている金融取引をやめろと言っている」

 

 鉄壁をほうふつとさせる相手にキムはうなり、曲がった口の端を引きつらせてせせら笑った。

 

「客はな、納得して借りてるんだぜ。とやかく言われる筋合いは、無いと思うがな」

「委員会は、あなたたちの貸しポイント業を認めていない」

 

 潤の蔑んだ目が、キムを冷たく見据える。

 

「――しかも、利息は常識の範囲をはるかに超えている。借主を食い物にしようという悪辣さが見え見え。だから、あなたたちみたいなドブネズミをこれ以上放置しておけないのよ」

「何だとォ! なめるんじゃないぞ、クソアマァッ!」

「従えないと言うのか?……」

 

 佐伯から殺気が立ちのぼり、鯉口が、ぞっとする響きとともに切られる。歯向かえば、即座に首を切り飛ばされそうな気迫にコリア・トンジョクメンバーは戦慄し、チュ・スオとオ・ムミョンは凍り付いた。ラー・ハブ事件――そして、あの私刑以降、鬼気を増した佐伯にさしものキムもたじろがずにはいられなかった。

 

「……ど、どうしようってんだ! あのガキのときみたいに手前勝手なリンチをするつもりか?」

「必要ならば、な」

「……上等じゃないか……やれるものなら――」

「――すっみませぇーんッ!」

 

 破滅へ転がる強がりは横から割って入った愛想笑いに遮られ、キムの前に立ったクォンが佐伯たちにもみ手をし、媚びを売りまくる。

 

「参りました! 勘弁して下さいよ。ボクら、警備隊に逆らうつもりなんて1ミリも微塵もありません! 本当です。200パーセント降参ですよ。何でも言う通りにしますから、どうか、どうか許して下さい!――ねっ、キム族長?」

 

 黙っているキムをうかがいつつぺこぺこし、クォンはどうしたら許してもらえるのかと佐伯に伺いを立てた。

 

「貸しポイント業をやめろ。借ポイントは、すべて帳消しだ」

「なっ、ふざけ――」

「ああー! はいはい、わっかりました! 承知致しました! おっしゃる通りに致します!――それでよろしいですよね、族長? ボクら、コミュニティ・ハーモニーの善良なメンバーですもんねっ?」

 

 へらへら笑いをにらみつけたキムは、佐伯たちのぎらつきに目を転じ、左頬をぴくぴくっと痙攣させた。

 逆らえば、斬られる。

 その確信が、苦虫を何十匹もまとめてかみ潰したような顔で首を縦に鈍く振らせた。

 

「――はい、この通りです! 貸しポイント業は廃業、貸し借りはすべてチャラ! そのようにアナウンスしていただいて構いません!」

「分かった」

 

 羅神が再び鞘に収まり、潤がキムたちを鼻で冷たく笑う。佐伯は屈辱に震えるキムとチュ、オ、立ち尽くしているユンたちを撫で斬るように見回し、高圧的に付け加えた。

 

「――委員会からのアナウンスで知っているだろうが、今後は脱税も厳しく取り締まる。そうした行いをした場合は、財産をすべて没収するからそのつもりでいろ。いいな」

 

 ギリギリかみ締められた歯の裏で舌打ちしたキムに背を向け、佐伯は潤たちを率いて整然と引き返し、破られた門扉から出てコミュニティ中心部へ去った。それらの影が闇に消えたところでキムは罵声を吐き、火が付いた爆竹のごとく地団太踏みまくった。

 

「――ちくしょうッ、くそったれめッッ! あの連中がコミュ税からたんまりポイントを引き出して強化していなけりゃ、どうにか戦えたものをッ!」

「まあまあ、族長。落ち着いて――」

「黙れ、このクソ犬ッ!」

 

 なだめようとしたクォンをゴッと殴り飛ばし、倒れたところをひとしきり蹴ると、キムは唾を吐きかけて罵った。

 

「――北韓のクソが! 今度出しゃばりやがったら殺すぞ!」

「……は、はい、すみません、族長……」

「鳴くな、クソ犬ッ!」

 

 追加で腹に蹴りを食らわしたキムは、さっさと帰れと両手を振ってメンバーに怒鳴り散らし、側近2人を従えて憤然と赤瓦台へ戻って行った。よろよろ立ち上がったクォンに近寄ろうとしたユンは、彼に向けられるホン・シギやイ・ジソン等の蔑みに足を止め、薄笑い顔をぶら下げてコリア・ヴィレッジの端へふらふら消えていく後ろ姿をただ見ていた。