REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.35 アップデート(1)

 

「……素晴らしい……素晴らし過ぎですよ、ルルりん。あなたを称えるルルラーと予備軍が、こんなにもたくさん……ふふふ……」

 

 熱気を放ってごった返すステージ前を舞台袖からのぞき、鎌田は背でルルフの金シルエットが踊るTシャツ姿を震わせた。夜のとばりの下、ツインテール形のペンライトを握り締め、耳かけ型イヤホン――メディアプレイヤーアプリ『mediko』でルルフの歌を聴きながら待ち焦がれるルルラーが大半の、ルルりんシアターに集まった300人強――ラー・ハブ事件の傷を癒そうと企画されたチャリティコンサート開幕を控えてどんどん高まる熱は、舞台袖までむんむん伝わって背中や脇の下を汗ばませた。

 

「人類の至宝、歴史に燦然さんぜんと輝くディーヴァ、神が造りし最高傑作……そんなルルりんの第一のしもべでいられるのは、この上ない幸福です。ああ……っと」

 

 細身をよじった鎌田はライフログ・アプリ〈アカレコ〉に思いのたけを入力し、MoBeeで撮ったステージ前の様子を添付してから引っ込み、スキップしながら楽屋前まで行ってドアを前に深呼吸、背筋を伸ばしてノックし、中に飛び込んだ。

 

「――盛況ですよ、ルルりんッ! みんな、新曲『Beautiful Prayer』を引っ提げての登場を焦がれに焦がれてもだえながら待っていますッ!」

「そっかー ふふ……」

 

 ドレッサーの鏡が真正面から高慢な笑みを映し、白い羽根を集めた優美なショートドレス姿のルルフが、回転椅子の背もたれに寄りかかったまま鎌田に顔を傾ける。日に日に増すまばゆさに鎌田はジト目をうっとり細め、こみ上げるエクスタシーのまま、2人きりの空間に吐息を漏らした。

 

「――それで、今回もハイパーに稼げそう?」

「あっ、は、はい、もちろんです! コンサート終了と同時にプリティ・ルルで『Beautiful Prayer』のmediko用ファイル、羽根ドレスverのフィギュアを大々的に売り出します! ルルラー始め興奮冷めやらない観客が、こぞって購入するのは間違いありません!」

「ふふん、チャリティしてあげるんだから、それくらいのリターンは当然よねぇ」

 

 鎖骨にかかる髪を指ですき、ルルフは口角を上に曲げた。取得したポイントで魅力を増して天使と絶賛されるほど、人間の思いやりを失って自己愛の雲海に没入していくようだった。

 

「さ、そろそろ時間だね。――」

 

 ルルフは鎌田側に回した椅子からふわっと立ち上がり、にっこり微笑んだ。

 

「――今夜も張り切って、みんなをとりこにしてあげるわ。ふふ……」

「はい!――んっ?」

 

 突然の着信表示にジト目を向け、応答した鎌田の前に緊迫顔で鼻の穴を膨らませる北倉が映り、さらに騒がしく言い争う声が押し寄せる。

 

「――どうかしたんですか、北倉さん?」

『警備隊だッッ! 警備隊がいきなり現れて解散を迫っているんだッッ!』

「なっ、何ですって? と、とにかく、そっちに行きます!」

 

 鎌田は様子を見て来ますと言って楽屋、そして裏口から飛び出し、シアター前に回った。そこにはうろたえる人垣ができ、その輪の中で北倉たちルル・ガーディアンズが拡声器を持った矢萩と20人ほどの警備隊員を相手ににらみ合っていた。

 

「――いったい、ど――」

「どういうことなの、これは~?」

 

 かき分けて前に出ようとした鎌田は、ルルフの声に振り返って無意識に横へどいた。天使降臨に気付いた観客たちは、微笑みをたたえる彼女のオーラに気おされて左右に動き、自分たちの間を華麗に歩いていさかいの場に近付くきらめきに目を奪われた。

 

「どうしたの、ロベー? いったい何事~?」

「は、はいッッ!」

 

 すぐ横に立つルルフに顔を赤らめた北倉は、緩みかける頬を無理矢理固めて矢萩をにらみ、ビシィッと指差した。