REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.33 獣、現る(9)

「……ジュ、ジュ……リっ……――ッ!」

 

 酩酊めいてい者のそれのような足を取られ、シンはドザアッッと転がって砂にまみれた。瓦屋根を、となが食堂の木製看板をむさぼる炎が、無様な姿を上から赤く焼く。暴行と銃撃のダメージにポーションを使って燃え盛る住宅地域に突っ込み、炎を吐いて暴れるラー・ハブや逃げ惑う者たちを避けて、ようやくとなが食堂脇まで来て――

 

「……ぬぐっ――」

 

 砂にズッと爪を立て、シンは糸が半分切れた操り人形のごとく起き上がって、血走った目に映るコネクトとヘブンズ・アイズに食い入った。いくらコールしても応答が無いジュリアのアイコンは、依然テルマエランドそばから動いていない。

 

「……ラにしにぇんだよ、オメぇ……!」

 

 暴行されたショック、そのときの痛みで動けないのかもしれない――よろめきながら立ち上がり、火だるまのとなが食堂前を前のめりによろよろ歩く。赤らんだ薄闇の数十メートル向こうにはテルマエランドがあり、ジュリアがいる。今のところ近くに気配は無いが、いつモンスターが足元の砂から飛び出すか分からない――どんどん前に傾くシンの凝らした目が、ぼんやり照明がともるテルマエランドの正面玄関脇の暗がりでへたる小さな人影をとらえる。

 

「……ジュ、リ……!」

 

 はやる気持ち、もたつく足――近付くほど、それは膝を抱えてうなだれた姿を明瞭にしていく。

 

「……ジュ――」

「おいッッ!」

 

 とどろく声にシンはよろけ、横からジュリアに迫るライトンの光――駆け寄る佐伯を認めた。自分とは別方向から来た助け――その疾走を目で追ったシンは、獲物へ急降下さながらの勢いに焦りを覚え、起動させたライトンの光を目一杯強めるや先んじるべく砂を蹴って声を張り上げた。

 

「ジュリッ! ジュリィィッッッッ―――――!」

「……シンちゃー……?」

 

 斜め前から近付く強烈な光線と呼び声に顔を上げたとき、シンのすぐ横で砂がドブォオオンと噴き上がり、巨影がブリーヂングするクジラのように飛び出す。並みのものより一回り大きく、頭部にいかめしい大角がある大ラー・ハブ――それは空中で身をひねると、裂けた口から牙むき出しのインナーマウスをヌウッッと突出させ、足をすくわれて倒れたシンに狙いを定めた。

 

「――シンちゃぁあああああああ――――――――――ッ!」

 

 それは、一部始終を目撃していたシンと佐伯には、一瞬でありながら残酷なまでにひどく長い時間だった。

 シンへ駆け出したジュリアが、標的を変えた牙にかかって砂中に引きずり込まれ、ヘブンズ・アイズ上からキャラクター・アイコンを消失させたのは。

 余りにも非情な惨劇に声を失い、大ラー・ハブが沈んだ砂を凝視する両名――

 

「――――――――ジュ―――ジュリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッッッッッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!」

 

 魂が引き裂かれたような絶叫――右手に握られたバイオレントⅣの銃身がグワッと一回りデカくなり、その周りをアサルトライフルやグレネードランチャー、レールガン等がぐるっと取り巻く。右手のみならず突き出した左手をも兵器の塊に変えたシンは、大ラー・ハブが沈んだ辺りめがけて発狂したように連射して砂をめちゃくちゃに飛び散らせた。

 

「――ううォォォォァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ――――――ぐおおッッッ?」

 

 足元の砂が小山のごとく盛り上がり、飛び出た大ラー・ハブがシンをはね飛ばして砂地に叩き付ける。SOMAの影響でバリアが不安定だったため、全身に強い衝撃を受け、意識を失うシン――とぐろを巻いて鎌首をもたげた怪物は、焼け落ちるとなが食堂を背に黒い巨体を際立たせ、残った獲物――佐伯にインナーマウスを転じて牙をガチッ、ガチッとかみ鳴らした。