読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.33 獣、現る(8)

「――やあッッ!」

 

 砲声のごとき気合――白刃から複数の氷柱がババァッッと飛び、ラー・ハブの巨体に突き刺さって鳥肌立つ鳴き声をほとばしらせる。その隙を逃さず突っ込んだ潤の斬撃が黒うろこと肉をザクッと裂き、傷口から赤黒い血をブフッと噴き出させた。

 

「――今よ、松川隊員!」

「はいッ!――うおおおッッ!」

 

 返り血をバリアでガードした潤の声を受け、飛び出した松川の鉄槍――アイアンランスがもだえるモンスターの腹部にズグッと突き刺さり、続く連射が巨体の背に弾丸をめり込ませ、雷系魔法の稲妻とグレネードが横から直撃して血と肉片を飛び散らせる。警備隊員の潤と松川を中心とする総勢8人の即席チームは、炎が猛威を振るう住宅地域で1体のラー・ハブと交戦し、これを追い詰めていた。

 

「効いてますよ、加賀美隊員!」ヒートアップする、松川の声。「決めちゃって下さいよ、スペシャル・スキルッ!」

「了解ッ!」

 

 黒髪を躍らせて距離を空け、潤は八相の構えを取って気を練った。下腹部からあふれる気を全身に満たし、スペシャル・スキル〈クレイジーアイス〉と頭で叫んで巴を振り下ろす――と、斬撃から生じた氷晶ひょうしょうの吹雪がラー・ハブへ飛んで突き刺ささるや氷の花を咲かせ、その下で稲妻状に伸びる根が肉を裂き、骨を砕いて断末魔の鳴き声とともに巨体を光のちりに変えた。

 

「やりましたね、加賀美隊員ッ!」

 

 はずんで駆け寄った松川が歓喜し、他メンバーも感嘆する。緑なす黒髪をかき上げて玉の汗を飛ばした潤は、赤々と空を染める炎を見回し、一同に消火を指示した。

 

「――各自、StoreZから消火器を購入して消火に当たって下さい。使用したポイントは、後で委員会に請求して構いません」

 

 切っ先から炎に冷気を見舞う潤に従い、若者たちはそれぞれStoreZから消火器を購入し、松川はイジゲンポケットから出したポータブルCAFSを背負ってノズルのトリガーを引いた。立ち並ぶプレハブハウスを見境なく侵していた炎は次第に勢いを失い、やがて無残な焼け跡を残した。

 

「……これで、この辺りは……他のところは……」

 

 巴を下げた潤はヘブンズ・アイズを開き、警備隊員及びコミュニティメンバーの位置を確かめようとしてマップのある一点に目を止め、拡大した。複数のキャラクター・アイコンが入り乱れるそこでは、ユキトのアイコンが紗季のそばに表示されていた。

 

「……」

 

 細い左眉をピクッと動かし、そして表示対象を佐伯に限定すると、彼のアイコンは潤の現在位置とは別方向に移動していた。

 

「加賀美隊員、応援に向かいましょう!」松川が、横で意気込む。「コネクトに応援要請がじゃんじゃん来ていますよ!」

「……分かったわ」

 

 潤はウインドウを横にやって切っ先をすっと上げ、松川とその後ろに立つメンバーに冷たい顔を転じた。

 

「――応援に向かいます。付いて来て下さい」

 

 つっけんどんに言って先頭に立ち、応援を求める仲間の位置を横目で確かめると、潤は赤い柄巻をきつく握って炎が激しく揺れる中を走り出した。