REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.33 獣、現る(6)

「……ん……んん……」

 

 もぞもぞ寝返り、新田はベッドの中で顔をしかめた。ドクター・メディカから処方された睡眠薬を内服し、どうにか入眠しかけたところに響く、ドンドンという打撃音……掛け布団をかぶって寝入ろうとするも、音は執拗に続き、さらにそこへ切迫した感の声が重なる。ようやく重いまぶたを上げた新田は、それが自宅玄関ドアを叩く音、外から呼びかける声だと、鈍った頭でぼんやり認識した。

 

「……何が……?」

 

 のっそり起き上がる……と、佐伯、後藤からの着信を静かに知らせるコネクトが目に飛び込む。サイレントモードにしていたので、コール音は鳴っていなかった。水を浴びせられた顔をし、慌てて応答すると、ウインドウに緊迫した表情が並ぶ。

 

『新田リーダー!』耳に刺さる、後藤の声。『何をしているんです? コミュニティがモンスターの群れに攻撃されているんですよ!』

「えっ? モ、モンスター?」

『とにかく――』佐伯が、ウインドウと玄関ドア越しに急かす。『今すぐ、ドアを開けて下さい!』

「わ、分かった!」

 

 転げ落ちるようにベッドから出、ふらつきつつドレスシャツとスラックスに着替えて玄関ドアの鍵を開けると、燃える臭いが鼻を突き、抜き身の愛刀『影清』を提げて立つ警備隊服姿の佐伯と警備隊員、後藤やエリーたち総勢20名ほどが、ほぼ全員武器を手に玄関前に集まっているのが見えた。

 

「い、いったいどうなっている?」

 

 赤黒く染まる夜空を見上げ、誰にともなく問うと、ベヨネッタを握る後藤が横から答える。

 

「ラー・ハブというモンスターが砂に変わった地面のあちこちから現れ、炎を吐いて暴れているのです。警備隊と連携して防戦と消火活動を行うよう、全メンバーに指示は出してあります」

「各所で皆が奮戦し、自宅周辺も騒ぎになっているというのに……」いら立ち、嘆息する佐伯。「リーダーが気付かないとは……」

「す、睡眠薬を飲んで眠っていたんだ! 仕方ないだろう!」

「要するに甘いのですよ。――ッ!」

 

 鼻白む新田から顔をそらして佐伯が振り返ると、プレハブハウスがベキベキィッと押し潰される音に金属をこするような鳴き声がかぶさり、列車大の怪物が十数メートル隔てたところでズォオオッッと鎌首をもたげて新田宅前――身構える若者たちに狙いを定める。黒いうろこに覆われた巨大ミミズ――ラー・ハブは、裂けた口からインナーマウスを突き出すや火炎放射――それを、さっと前に出た警備隊員2名が、光の盾――防御魔法シールドで遮る。

 

「――はッッ!」

 

 息が切れ、途切れる火炎――陰からゴオッと走り出て跳んだ佐伯は、プレハブハウスの屋根に飛び乗って怪物の眼前に立ち、右手首にはめたパワーブレスレット――攻撃力アップ効果を有する――をきらめかせる上段の構えから猛々しい光刃こうじんを振り下ろした。

 

 スペシャル・スキル、九虎流くこりゅう――

 

 刃からドオッと放たれた9頭の光の虎は、ラー・ハブの胴を爪でずたずたに切り裂き、うろこごと頭部の肉をかみ切って果肉をむさぼられた残りさながらに変える。そして悶絶し、それでもまだ食らいつこうとするインナーマウスに凄絶な白刃がドズッと突き刺さり、光の虎が口中から頭部を爆散させて巨体を光のちりに変えると、わああっと歓声が沸き上がる。熱狂的に見つめられるその雄姿を、新田は興奮の後ろからぼんやり見上げていた。

 

織川おがわ伊佐美いさみ

 

 佐伯は先程シールドで仲間を守った両名を高みから呼び、リーダーの警護を任せた。

 

「――お前たちは、ここにいるメンバーをまとめて戦え。――後藤マネージャー、すまないが、彼等に力を貸してやって欲しい」

「どちらに行かれるのですか?」

 

 後藤の問いに、ヘブンズ・アイズを開いた佐伯は屋根の上から「まだ避難していないメンバーを助けに行く」と返して、炎と煙で視界が妨げられているテルマエランド方面をにらんだ。

 

「頼んだぞ。――」

 

 身を翻した黒隊服姿は、部下に敬礼を送られながら屋根から瓦礫がれき散らばる地上へ跳んで煙の中に消えた。