REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.33 獣、現る(5)

「……コミュニティが……!」

 

 玄関ドア開けっ放しの自宅前に立ち、ユキトはところどころから炎と煙を上げて夜空を赤く染める住宅地域にぼう然とした。異様な気配に目を覚まし、寝床から出て掃き出し窓のカーテンの間から火の手を認め、スウェット姿のまま飛び出して……横手の詰所前では、夜間監視の任に就いていた警備隊員コンビがうろたえ、コネクトで仲間から情報を収集していた。

 

「――ちょっと、どういう状況なんですか?」

 

 ユキトが駆け寄ると、大学生くらいの男女――貧弱なオスゴリラといった風貌の加井かい広夢ひろむとちびの三毛猫を連想させる村上薫が、封印の手錠がはまった黒い異形を見てとっさに警戒する。

 

「――火事ですか? どんどん広がっているみたいですけど?」

「モンスターだ……!」

 

 青い顔で答える加井

 

「――モンスターどもがいきなり現れ、炎を吐いて暴れているって……!」

「……アラートは、発報しなかったのに……まさか、ステルス?」

「きっと、そうよ」

 

 村上が首肯し、炎に蹂躙じゅうりんされる住宅地域につり目を凝らす。

 

「――地面からいきなり現れたらしいわ。地面というか、砂の――あっ、あれよッ!」

 

 人差し指の先――炎の中で、鎌首をもたげた列車のような影がくねる。プレハブハウスの屋根をゆうに超える大きさからすると、体長は何十、もしかすると百メートル近くあるのかもしれない。さらに他の場所でも伸び上がり、頭を振る影が炎に照らし出されて、ユキトたちの目を釘付けにする。

 

「……篠沢……」

 

 案じたユキトはコネクトしようとしたが、封印の手錠のせいでアプリは使えなかった。解錠を頼もうとしたそのとき、足元がズッと沈み、転じた目が砂に変わった地面をとらえる。

 

「――何だ?――」

 

 戸惑う程近くで突如爆発したように砂が飛び散り、黒い巨頭がズオオッッと飛び出る。後ずさる加井と村上のライトンに照らされた影は、黒光るうろこに覆われた巨体を砂地から出してビル2、3階分くらいの高さに鎌首をもたげると、人間を軽く一飲みできる幅の口から唾液で濡れた牙が不ぞろいに並ぶインナーマウスをズウウッッと突き出した。

 

「……う、うろこミミズ――」

『〈ラー・ハブ〉です』

 

 ワンがユキトの斜め上できらめき、キイイイッッッという金属的な鳴き声とともにブンブン頭を振って唾液をまき散らす怪物の説明をする。

 

『――周囲を砂に変えて地中を進みます。なお――』

 

 ユキトたちの方を向いたラー・ハブのインナーマウスがガパッと開き、ゴオオオオオッッッと放射された火炎が左右に跳んだ標的をとらえ損ねて砂地を焼く。

 

『口から火炎を放射します。ご注意下さい』

「そうかよ……く……」

 

 頭を左右に振るラー・ハブを警戒し、両手を拘束している封印の手錠に焦るユキト。バリアが無い状態で攻撃をまともに食らったら、即お陀仏だぶつ――

 

「――手錠を外して――」

 

 自分めがけての火炎放射にユキトは仰天してつんのめり、九十九つくも式自動小銃で黒うろこを銃撃する加井たちのところに飛び込んで両手を突き出した。

 

「これを、手錠を外して下さいッ! バリアが張れなかったら、殺されちゃいますよッ!」

「下がっていてッ!」

 

 グレネードランチャーにパッと持ち替え、トリガーを引く村上。ドウッと発射された榴弾は直撃して黒うろこと血肉をまき散らしたが、それは巨体の一部を破壊したに過ぎず、抜き身の日本刀で斬りかかる加井の斬撃も表面にやや深い傷を負わせるにとどまった。いくら日々鍛錬している警備隊メンバーでも、2人では戦力的に著しく不利な相手だった。

 

「手を貸しますから、早くこれを外して下さい!」

「それは……そんなことはできない」

 

 正眼に構える加井が、息を切らしながら背中で退ける。

 

「僕らの独断では……委員会の許可が無いと……」

「そんなこと、言ってたら――」

 

 手錠の鎖がガッと断ち切られ、枷が光のちりになって消える。目をぱちくりさせたユキトは鎖を斬った短刀をイジゲンポケットに戻す村上に、「あ、ありがとうございます」と礼を言った。

 

「村上隊員、何を……」振り返り、戸惑う加井。

「しょうがないでしょ! このままじゃ、やられちゃうわよ!――斯波君、このクソミミズをぶっ殺すのに協力しなさい!」

「は、はい!」

 

 ユキトは節くれ立った右手を握り固め、下腹部にグオッと気を込めた。エンジンが回転数を上げるごとくパワーが高まり、全身が光を帯びてゴオッと熱くなる。バーストして戦闘態勢を整えると、ユキトはインナーマウスを突き出してかみついて来たラー・ハブをバッとかわして横に回り――

 

「――ぅおおおおッッッ!」

 

 ドゴオォッッ――耳をつんざく衝撃音――黒うろこを砕いて皮膚をぶち破った光るこぶしは、鮮血を噴き出させ、二重の口からガラスを引っかく音じみた鳴き声をほとばしらせた。

 

「……さすがね。――加井隊員、こっちもヤマトの意地を見せるわよッ!」

「りょ、了解ッ!」

 

 負けじと村上がグレネードランチャーを連射し、加井が手をブンッと振って放った風の刃――風系魔法〈ウインブレイド〉と白刃で切りつける。ユキトも上空で光るワンの下、火炎をかわし、尻尾にはね飛ばされそうになりながら巨体を破壊し続け、弱って動きが鈍り、頭が垂れたところに横から跳んだ。

 

 ――ブレイキング・ソウルッッ!――

 

 右こぶしの光が燃え上がり、決まったスペシャル・スキルが粉砕音をとどろかせて左側頭部を大きく陥没させると榴弾が頭部にたたみかけ、とどめを刺されたモンスターはどうと地響きを立てて倒れ、光のちりに変わってボワァッと立ちのぼった。

 

「……やったわね。――あッ、ちょっとッ!」

 

 頬を緩めた村上は、ユキトが走り出したのを見て「どこに行くのよッ!」と叫んだ。

 

「助けに行くんです! ちゃんと戻りますからっ!」

 

 振り返って説明すると、ユキトはヘブンズ・アイズを開いて紗季の位置を確かめ、地面から突き出た石の土台を飛び越えて炎が勢力を増す住宅地域へ突っ走った。