REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.33 獣、現る(4)

「――どうだ、楽しめたか? こいつも貴様なんかと関わらなければ、こんな目には遭わなかっただろうにな」

「………………………………………………――ぅうわあああああぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッッッッッ―――――――――――――!」

 

 絶叫し、飛び起きかけたところを真木が蹴り――バリア無しで顔を打ちつけ、鼻血をだらだら流すシンを入谷が後ろから引っ張り起こし、中塚に向かって立たせると、髪をつかんで顔が動かないように固定した。

 

「はい、中ちゃん。ガーンとやっちゃって」

「よし……」

 

 吸引器をくわえる中塚の手に鎖鎌が現れ、ブォンブォン振り回された分銅がシンの顔面にブンッッと飛んで鼻の骨をバギャッと砕く。繰り返し分銅をぶつけて中塚が息を切らせると、シンは地面に突き倒されて矢萩たちにめったやたらに蹴りつけられた。封印の手錠で無力化され、SOMAで弛緩している体は、されるがままに腹を蹴られ、顔を踏みつけられ、離れて見物するミハイルにへらへら笑われながらぼろぼろにされていった。

 

「――ハァ、ハァ……疲れたぜ、クソが……!」

 

 切れ切れに煙りを吐き、矢萩が毒づく。

 

「――いいか、二度と俺たちになめた口を利くんじゃないぞ! それと、このことを口外したら、さっきの映像をばらまいてやるからな! 分かったなッ!」

 

 念押しして動かなくなった体をドスッと蹴ると、矢萩は中塚に手錠を外させ、SOMAを吸引しながら休んでいる入谷を振り返った。

 

「おい玲莉、こいつにポーションを使ってやれ。傷だらけじゃ、周りが不審がるからな」

「はぁい――あれっ?」

 

 ポーションを右手に出現させた入谷が、踏み出したところでよろめく。

 

「何やってんだ? 吸い過ぎてんじゃないぞ」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 入谷は暗い足元を靴のつま先で探り、起動させたライトンで照らしていぶかった。

 

「――ねぇ、地面が砂に変わってるよ?」

 

 それを聞き、ライトンをつけて確かめる矢萩たち。彼等がSOMAで感覚を鈍らせ、暴行に興じている間に、辺りは小石混じりの地面から砂砂漠すなさばくにすっかり変わっていた。

 

「いつの間に……」

 

 周囲を照らし、あちこちに目を凝らす矢萩。

 

「……流動しただけだろ……別にアラートも出ないし――」

 

 薄闇に響くテクノポップなコール音――驚く矢萩と三人衆への着信は、警備隊員から。彼等は慌ててSOMA入り電子たばこをしまって髪を整え、額の汗を手で拭って視線を交わし、まず矢萩が応答した。

 

「矢萩だ。どうかしたのか?」

『あっ、矢萩隊員! いっ、今どこですか?』

 

 ひどく動転した警備隊員が表示され、そのバックからサイレンさながらに響く入り乱れた悲鳴が矢萩の耳を強烈に打つ。何か異変が起きている――頬骨がいっそう張った顔に向かって、警備隊員はまくし立てた。

 

『――モ、モンスターです! 何体もの巨大モンスターがコミュニティを襲っていますッッ! すでに死人も――』

 

 モンスターたちが、砂に変わった地面から現れたのだという。矢萩は至急向かうと告げてコネクトを切り、寄って来た三人衆を見た。

 

「……やばくないですか?……」うろたえる中塚。「……この地面の変化に気付かなかった見張りは、何をしていたのかって追及されたら……」

「……お前ら、『スメルロスト』 を飲め」

 

 三人衆に息清涼カプセルを飲むように指示すると、矢萩は蚊帳かやの外で状況をよく飲み込めていないミハイルに向き直って近付き、出し抜けに出現させたハンドガンのトリガーを引いた。銃弾は意識がとろけてバリアが消失していた肉体を貫通し、パンッ、パンッと銃声を響かせて空薬莢が飛ぶたびに風穴を増やして、がく然と目を見開いて崩れた青年を光のちりに変えた。

 

「……何だ、ゲームでAL殺すのと変わらないな……」

 

 拍子抜けしたようにつぶやいた矢萩はハンドガンをしまい、代わりに出したスメルロストの容器からカプセルを三つ出して口に入れると、ボーナスが上乗せされたポイントが振り込まれたという通知を無表情で見た。その一部始終を、三人衆は息を呑んで見つめていた。

 

「……矢萩さん……」中塚が、やっと声を絞り出す。「あいつを……」

「違うだろ」

 

 振り返った矢萩は冷静に返し、砂を踏んでゆっくり三人衆のところに戻ると、淡々と続けた。

 

「あいつはモンスターにやられたんだ。通報する間も無く」

「そ、そうだねっ!」興奮気味の入谷が、コクコクうなずく。「ちゃんと見張りしてたけど、いきなり襲われて死んじゃったから通報できなかったんだよねっ!」

「ここでは、それ以外のことは起きてない……」真木が、地の底から響くような声で付け足す。

「……そういうことだ。おい、そいつも――」

 

 目を転じた矢萩は、シンが消えていることに慌ててライトンを巡らし、石垣が崩れてできた斜面を這いのぼる姿を見つけると、再び握ったハンドガンを連射しながら鬼の形相で駆け出した。

 

「――逃がすなッ! 殺せッッ! 殺せェッッ!」

 

 わめきに応じて三人衆が出現させたハンドガンを撃ち、それぞれの凶器を携えて猛追する。不安定なバリアを張ったシンは、麻痺が残る体に被弾しながらがむしゃらにのぼって石垣の上に立ち、住宅地域各所から上がる火の手――その炎に照らされる、まるで列車が鎌首をもたげ、身をくねらせるような何体もの赤黒い影を切れた額から流れ込む血でかすんだ目でにらみ、ヘブンズ・アイズをチェックした。

 

「……ジュリ……!――」

 

 ジュリアがテルマエランドにいると知り、シンはコネクトをかけながら炎と怪物たちが待ち受ける住宅地域へ倒れるように走り出した。