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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.33 獣、現る(2)

 住宅地域外周を逆時計回りに歩いたジュリアが遺跡南側――となが食堂脇に出ると、消灯されて真っ暗になった食堂正面で、瓦が敷かれた丸屋根に自然石調の白い壁面の施設――入浴施設テルマエランドが、併設のランドリーともどもライトアップされていた。営業終了時刻間近のテルマエランド周辺に人影は無く、心細くなったジュリアはどこか不気味に浮かび上がる建物にエジプトサンダルを履いた足を速め、玄関前に立つ内戸に近付いた。

 

「あ、ありがとう、来てくれて」

 

 迎えた内戸はけいれんじみた笑みを浮かべ、先にガラガラと引き戸を開けて中に入った。ジュリアが続くと、番台に座っていたフロント係の少年が土間に立つ2人をじろっと見て自分の前に表示されたデジタル時計をチェックし、台の一部をはね上げて出て来た。

 

「今日の売上レポートは、今さっき委員会にコネクトで提出した。それでオレの業務は終わりだから、ちょっと早いけど上がらせてもらうよ。後はよろしくな」

「う、うん、お疲れ」

「おつかれさま」

 

 横を抜けてさっさと出て行く少年と入れ替わりに2人は玄関ホールに上がり、内戸は視線をあちこちに動かしながら掃除業務の説明を始めた。

 

「――掃除用具は浴場奥の機械室に置いてあるから、まずそれを取りに行かなきゃ。アタシはこっちをチェックしながら行くから――」内戸は、女湯出入り口を指差した。「――あなたはそっちの男湯から入って。忘れ物とか無いかよく見てね」

「うん」

 

 分かれたジュリアは男湯の引き戸を開け、人気の無い脱衣所をチェックして、むっとする浴室に入った。左右の壁際と中央に洗い場があり、奥に大浴漕がある浴室――天井から時折しずくがぽつ、ぽつ、と滴る中、濡れたタイル床を素足で踏んで大浴槽脇の機械室に近付いたジュリアは、ノブをつかもうとしたところでドアがいきなり内側から開いたのに驚き、その拍子に足をつるっと滑らせて尻もちをついた。

 

「――っ?」

 

 上がる半べそ顔が、かぎ爪状に唇をつり上げて見下ろす入谷玲莉を前に色を変える。そして、その後ろから無表情で出て来た真木カズキを見て、反射的に浴室出入り口へ走り出したジュリアは引き戸を開けて入って来た矢萩と中塚に阻まれ、黒隊服に挟まれて立ちすくんだ。と、背後から入谷と真木が飛びかかり、わめいて腕を振り回すジュリアを乱暴に押さえつけて後ろ手に封印の手錠をはめ、口に猿ぐつわをかませて床に転がした。

 

「――んー! んんーッ! んーッッ!」

「ふふん、騒いだって相方は来ないよ」

 

 しゃがんだ入谷が、くしゃくしゃピンク頭を平手でバシッと叩く。

 

「――あいつもグルなんだからさ。あきらめておとなしくしなよ」

 

 前に立つ矢萩と中塚を見上げ、下品に笑う入谷。せせら笑う矢萩が目配せすると、横に立つ中塚が手の平大のハチ型マシンを出現させる。

 

「これが何だか分かるか、イジン?」

 

 見下ろし、いやらしくにやつく矢萩。

 

「――動画撮影アプリ『MoBee』 だ。これから、お前をたっぷり撮ってやるからな……」

 

 すうっと横に動いたMoBeeが、目のカメラで対象をとらえる。起き上がろうともがく少女の生足をなめるように眺め、矢萩はおもむろにスラックスを締めているベルトを外し始めた。