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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.33 獣、現る(10)

「……貴ッ様ッッ……!」

 

 ぎらつく日本刀――影清をグワッと振りかぶり、佐伯が双眸をすさまじくつり上げると、その頭上にワンが出現してきらめく。

 

『〈ラー・ハブヘッド〉、ラー・ハブのボスです。強敵ですのでご注意下さい。なお、見事倒した方には、インセンティブがあります』

「黙っていろッッ!――」

 

 殺気を爆発させ、急降下するインナーマウスへ跳ぶ黒い暴風――刃と牙が火花を激しく散らし、黒うろこが金属音を響かせて剛剣をはじく。アクセサリーのアネモイでスピードを、右手首にはめたパワー・ブレスレットで攻撃力を高めた斬撃をものともしないラー・ハブヘッドは巨頭を引くと、インナーマウスからゴオオオッッッと火炎を放射して獲物を焼き殺しにかかった。

 

「――ぐッ……ッッッッ!」

 

 強めたバリアで火炎をしのぎ、じりじり後ずさる佐伯の後方で巻き添えを食ったテルマエランドが炎を上げ始める。ガードしてなお身を焼かれる佐伯は、すぐさまイジゲンポケットからポーションより強力な〈メガポーション〉を出して焼け焦げた隊服の修復と熱傷の治癒を行った。強力なバリアを張っていても黒焦げになりかねない高エネルギー――状況を考えれば、コネクトで応援を呼ぶのが賢明に違いなかったが、佐伯は必ずこの手で殺すという執念に取り憑かれ、力をみなぎらせて上段に構えた刀を壮烈に振り下ろした。

 

 ――九虎流ッッッ――!

 

 光刃から放たれた9頭の虎が猛然と飛びかかり、黒い巨体を牙と爪とで八つ裂きにしようとする。だが、ラーハブ・ヘッドは身をくねらせてそれらをはねのけ、反撃に転じて頭の大角を突っ込ませた。

 

「――ぬぐッッ!」

 

 横に跳んでどうにか角はかわしたものの、頭部から完全に逃れられずにはね飛ばされた佐伯は砂上を転がって跳ね起き、乱れた息の手綱を引きながら影清を正眼に構えた。ここに来るまでに何体ものラー・ハブと交戦している肉体は、もう限界に近かった。

 

「く……!」

 

 佐伯は血肉を欲してガチガチ開閉するインナーマウスに狙いを定め、呼吸を整えた。消耗している今の自分には、通常のラー・ハブ以上に硬いうろこを貫くことは困難。仕留めるには一番弱いと思われる口中を突くしかない。しかし、もし一撃で仕留められなかったら……だが、それでも――と、佐伯は不ぞろいの牙の間に眼光を集中させた。

 

 ――スペシャル・スキル、〈素戔嗚すさのお〉ッッ!

 

 一気に火力を上げたごとく燃え上がった気が全身、そして影清の刀身から噴き出して荒ぶる。パワーを爆発的に高めた佐伯は、丸飲みにしようと急降下する大口――その中央でばっくり開いたインナーマウスめがけて影清を突き出した。刃は燃える光を伸ばしてあやまたず突き刺さり、ズグオオッッと押し込まれるまま頭部を貫くかに思えたが――

 

「――ッッ!」

 

 汗ばんだ顔に焦りの影が差し、インナーマウスから噴き出した炎が佐伯を食らい込む。予想以上に口中の皮膚が硬く、致命傷を与えることができなかったのだ。

 

「――ぬぐおおおおッッッ――!」

 

 隊服が凶猛な炎に蹂躙され、熱傷が全身を侵して深まる。皮膚がただれ、肉が焼けて――火あぶりにされる苦悶に喉を震わせ、かみ殺して阿修羅さながらのしわを顔面に刻み付けた佐伯は、腹の底から咆哮を噴火させた。

 

「――ぬうううううううううォオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッ―――――――!」

 

 気の炎が猛り狂い、内側から黒い後頭部をズギャアッッと突き破って脳髄を飛び散らせる。そして火炎が途切れ、もがいていた牙が止まって巨体が光のちりに変わっていく。立ちのぼる炎と黒煙に誘われて舞い散る光を前に〈ギガポーション〉を使って全身火傷を完全治癒させると、佐伯はガクッとその場に倒れ込んだ。肉体や隊服を元通りにはできても、限界以上の力を振り絞ったことによる消耗はどうにもならなかった。

 

『おめでとうございます』

 

 砂にうずまった顔の斜め上で、ワンがきらめく。

 

『――ラー・ハブヘッドを倒した報酬として、あなたの愛刀は『羅神らじん』にグレードアップしました』

 

 影清もとい羅神はラー・ハブヘッドの血を吸ったように刀身が赤く光り、宿した鬼気を腕に伝えていた。だが、力尽きた佐伯は関心を示さず、まぶたを下ろして奈落へ落ちて行った。